科学的根拠のない“大地震予言”なぜ拡散する?あいまいなものほど広がる「デマの公式」

沖縄在住の霊能力者が4月26日・午後2時58分に、東京湾北部でマグニチュード8.3、震度6以上という大規模地震が起きると「予言」した。
その被害は高層ビルが崩れ地下鉄が水に飲み込まれ、30メートルを超える巨大津波が襲来、93分後に完全な暗黒が訪れるというもの。
SNSを中心に拡散、とある家庭では小学生が自宅で防災グッズをチェックしはじめ、児童の間で素早く机の下に隠れる遊びが流行った。
動画サイトにも関連した動画が数多く並んだが、実際には予言のような地震が起きることはなかった。
政府からは、首都直下地震については30年以内に大規模地震が起きる可能性を70%としているが、専門家からも数日〜数カ月単位で地震がいつ起きるかを予測することは不可能と言われており、今回の予言に対しても「はっきり言えば全くのデマ。科学的根拠はない。ただし偶然ということもあるので、絶対に起きないとは言えない」という声が出ていた。
人はなぜ、このような予言、さらにはデマに反応し、拡散してしまうのか。
今回、ネットを中心に拡散した「426地震説」。
結果は、過去にいくつもあった予言と同様に当たることはなかったが、それでも26日に東京に行くのを控えようとする人も現れ、海外の一部ではメディアにも取り上げられ、日本旅行を見合わせた外国人も出たという。
噂やデマなど根拠不明情報の拡散問題に詳しい日本大学危機管理学部教授・福田充氏は「予知、予言に科学的根拠はない。その度に外れているのに、毎回みんな盛り上がるのは、祭りとしてみんな参加したい、盛り上がりたい、何かワクワクしたいという社会心理があるから」と分析。
さらに「東大の地震研究所でも『地震の予知はできない』と断言し、諦めている状況。
本当に予言が当たるなら出してほしいし、もっと早く東日本大震災や能登半島地震の前に言ってほしかったが、そんなことを言った人は誰一人いなかった」と述べた。
過去には、世界の終末を予言するようなものも多く見られたが、それらもまた当たっていない。
ただし、この予言が広まる、さらには信じる人が出ることこそ、大きな問題につながると福田氏は指摘する。
「基本的に多いのは、やはり大災害や地震というもの。ネットでちょっと盛り上がるぐらいだと大きな社会的混乱、不安には至ってないので、そこは日本人のリテラシー、教養の高さが現れている。ただし陰謀論やフェイクニュースみたいなものと結びつくことで、ネットではもっと深刻化していく。カルト宗教や霊感商法みたいなものとも結びつき、騙されていく人たちがどんどん不幸になる」と注意喚起した。
今回の予言に乗じて、防災の意識を高めようという動きもあったが、これに対しても福田氏は警戒心を緩めない。
「恐怖を与えて、信じさせて、説得して操るというのはカルト宗教や霊感商法の手法。無意味に社会不安を高めるだけで、社会混乱にも結びつきやすい。これが社会的教育に結びつく可能性もあるが、結局何も起こらなかったということになると、もう騙されるのをやめようと、次の(本当の)警報にも『釣られないぞ』と、オオカミ少年効果みたいなものが発生する」と、逆効果にすらなり得るとした。
噂の広まりについては、心理学者が示した法則がある。
アメリカの心理学者であるオルポートとポストマンは「デマの心理学」という共著を1952年に出している。
この2人による「噂の法則」は、噂の流布量(Rumor)≒重要度(Importance)×あいまいさ(Ambiguity)というものだ。
福田氏は「SNSの時代なので、ここで噂は拡散していくが、この法則では噂の広がり方は重要度×あいまいさと言っている。重要であるほど広がるが、あいまいで怪しければ怪しいほど広まる」と補足した。
またマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究では、Twitter(現X)上で伝わるスピードは、正しい情報よりも虚偽情報の方がはるかに速いとも発表している。
福田氏は改めて「ウソだとわかっていても、絶対に本当だと思っていても広げない」とし、ウソまたは真実であるものは重要度以上は広まらないが、あいまいなものほど広まりやすい危険性を説いていた。
なお、過去に首都直下地震は1703年12月、元禄関東地震(M8.2)から数えて、1923年9月の関東大震災(M7.9)まで、220年に8回発生。
単純計算で、27.5年に1回の割合で、大地震が起きている。
政府発表では「首都及びその周辺地域や直下で発生するマグニチュード7クラスの地震及び相模トラフ沿い等で発生するマグニチュード8クラスの海溝型地震」については、今後30年以内に70%の確率で発生するとされている。
根拠としては、過去の地震発生状況をもとに地震学で用いられる将来予測の計算式「ポアゾン分布」を用いて算出。
日本地震予知学会会長の長尾年恭氏は「数日〜数カ月前の地震予測は困難」とした上で「マグニチュード8級の地震直前に共通する現象は明らかに」なっており、「今後10年以内に数十分以内の巨大地震発生がわかる可能性が高い」としている。
参照元:Yahoo!ニュース