川崎市麻生区、平均寿命日本一はなぜ? 地形にカギ?記者が現地を訪ねた

「長寿日本一」。
こんな横断幕が誇らしげに掲げられたまちが、神奈川にある。
厚生労働省の調査で、平均寿命が男女とも全国1位となった川崎市麻生区だ。
2023年に調査が公表されて以来、区ではさまざまな形で「長寿のまち」を発信しているが、あらためて麻生区が日本一になった理由は何だろう。
そもそも、麻生区ってどんなまちで、どんな特長があるのか?
記者が現地を訪ね、探ってみた。
今回注目した平均寿命は、市区町村別に調べた数値を厚生労働省が5年に1度、公表している。
麻生区は23年に公表された直近の調査で、男性が84.0歳、女性が89.2歳で、初めて男女ともに日本一になるという栄誉を得ている。
まずは麻生区の基本的な情報からおさらい。
川崎市内にある7区の中で最も北西部に位置し、人口は約18万人。
緑や公園が多いほか、中核となる新百合ケ丘駅からは東京・新宿まで小田急線の快速急行で20分ほどと、都心へのアクセスも良い。
ただ、これだけでは「長寿」のイメージがわいてこない。
人生の先輩たちに混じって話を聞いてみることにした。
春の日差しが差し込む午前9時過ぎ。
閑静な住宅地にある公園に、高齢の男女が十数人集まってきた。
麻生区の虹ケ丘地区は、同じく全国上位の平均長寿を誇る横浜市青葉区との境に位置する緑豊かなエリアだ。
一団は児玉俊臣さん(73)の先導で体操をしてから、列になって北寄りにある大きな公園に向けて歩き始めた。
参加しているのは、児玉さんが代表を務める「虹ケ丘公園健康ウオークの会」のメンバーだ。
麻生区役所の呼びかけで活動を始めた15年前から、雨や猛暑の日を除きほぼ毎週、周辺の散策を楽しんでいる。
70~80代が多いことを考慮して無理のないコースを設定しているというが、この日は比較的起伏に富んだコースを歩いた。
一行は住宅街を抜け、坂道の多い麻生区らしいエリアに。
声を掛け合いながら、ゆっくり歩く。
先頭の女性二人組は「歩き始めると、いつの間にかおしゃべりが中心になっちゃう」と笑う。
季節の草花を楽しみながら、1時間15分ほどかけてスタート地点に戻ってきた。
記者のスマートウオッチ(腕時計型端末)で計測したところ、歩行距離は2.4キロ、通算で33メートル分上ったとのこと。
ちょっとした上りの道が多かった印象だ。
歩くだけでなく、参加者同士の会話を楽しみにするメンバーも多い。
小土橋直さん(80)は、2年前に妻を亡くした直後、知人に誘われて参加するようになった。
小土橋さんは穏やかな笑顔でこう話す。
「毎週、仲間たちの顔を見て、他愛のない話をしているとホッとする」
児玉さんも続ける。
「この会を口実にして外出してくれれば、そこからおしゃべりが始まる。ずっと同じ活動をしているだけだが、それが区内のあちこちで続いていることが健康長寿につながっているのではないか」
「運動しなければ」と気負うことなく外出して人間関係を深め、いつの間にか足腰も鍛えられている。
心身の健康にとって一石二鳥といえるような活動だと感じた。
しかし、虹ケ丘公園の皆さんが特別な存在なのかもしれない。
行政はどう分析しているのだろう。
麻生区の担当者に話を聞くと、開口一番、こんな言葉が返ってきた。
「決定的な理由があるというよりは、複数の要因が影響していると考えている」
一つは、多摩丘陵の一角に位置し、山や坂が多い地形だという。
「自然と足腰が鍛えられる環境があり、ウオーキング活動も盛んだ」と指摘する。
また、もともと農家が多く教育熱心な地域だったことに加え、1965(昭和40)年以降に開発が進むと、学習意欲の高い人が多く移り住んだという。
「市民活動も盛んで社会参加が活発なことも、心身の健康の維持に役立っている」
参照元:Yahoo!ニュース