教皇フランシスコ、女性登用に尽力 改革の進展と限界

ローマ教皇フランシスコが在位期間に残した最も長期的な影響の一つは、教皇庁(バチカン)の要職に過去最多の女性を任命したことかもしれない。
フランシスコは2013年に選出され、21日に88歳で死去した。
今年2月、肺炎と闘病中の病院から、教皇はラファエラ・ペトリーニ修道女をバチカン市国行政庁の長官に任命した。
こうした事例は初めてだ。
その数週間前には、シモーナ・ブランビッラ修道女を女性初の主要「省」トップに任命した。
しかし教皇は、女性を聖職者に叙階(聖職者を任命する秘跡)すべきか否かの問題は先送りし、教会全体での女性の役割拡大を主張する一部の人々を失望させた。
教皇は、女性を助祭に認めるかどうかを検討する2つの委員会を設置したが、この問題を前進させることはなかった。
助祭は司祭と同じく叙階によって就く聖職位だが、ミサを司ることはできない。
またフランシスコは頻繁に、1994年に当時の教皇ヨハネ・パウロ2世が下した女性司祭禁止という判断を再確認した。
バチカンの顧問を務めることがある英ダラム大のアンナ・ローランズ教授は「教会における女性の地位に関し、教皇フランシスコが残した遺産は(中略)複雑だ」と語る。
「他のどの教皇よりも、女性がより多く、より高い地位に就けるよう尽力した」と指摘。
一方で「その変化の大部分は既存の枠組み内にとどまり、制度をわずかに柔軟にしたに過ぎなかった」と付け加えた。
イタリアの教会改革活動家、パオラ・ラザリーニ氏はフランシスコを「教会が、明白かつ深刻な男女間の不均衡に苦しんでいることを、完全に認識した最初の教皇」と呼ぶ。
「しかし、この不公正に対する彼の対応は、個別の人事を行う一方、永遠に議論を続けて結局何も生み出さない委員会を設置することだった」とラザリーニ氏は語る。
女性の助祭に関してフランシスコが設置した最初の委員会(2016年から19年)は、聖書に言及されているように、初期の教会において女性が助祭に叙階された例があるかどうかを調査する任務を負っていた。
委員会はバチカンに報告書を提出したが、公開されなかった。
フランシスコは、委員会が合意に至らなかったと述べたが、委員会のメンバーの一部はその後、この主張を否定している。
2020年に設立された2つ目の委員会は、作業を完了しなかった。
フランシスコは、バチカンの主要な役職に女性を任命することを優先した。
2016年にはバーバラ・ジャッタ氏をバチカン美術館初の女性館長に任命。
その後も世界代表司教会議(シノドス)の共同次官や、バチカン開発局のナンバー2に修道女を任命している。
フランシスコは、世界中の司教選出に際して助言する委員会にも初の女性委員2人を任命し、22年にロイターに対し、「このように、状況は少し開かれてきている」と語った。
ローランズ氏はこうした職務への女性の任命について、「まだ行っていないことで可能なことは非常に多い」というメッセージを教皇が体現しようとしたものだと解説した。
フランシスコは、教会が直面する重要な問題を協議するシノドスにおいて初めて女性に投票権を与え、女性を正式メンバーに加えた。
これにより、24年10月の会議には約300人の枢機卿、司教、神父と並んでおよそ60人の女性が参加した。
女性助祭に関する最初の委員会に加わった米ニューヨーク州ホフストラ大学のフィリス・ザガノ教授は「教皇フランシスコは、教会における女性の役割に関する議論を新たな段階に引き上げた。この混乱の時代において、全ての人の価値を説いた教皇の努力が実を結ぶことを願うばかりだ」と語った。
24年のシノドス総会最終文書の作成に協力したセントポール大(カナダ)のキャサリン・クリフォード教授は、教皇のシノドス改革が「女性の声が傾聴される空間を創出した」と言及。
「これにより、教会のあらゆるレベルでの意思決定に(中略)女性を参加させることが急務であるとの幅広い共通認識が生まれた」と述べた。
2024年9月のベルギー訪問中には、女性を「肥沃(ひよく、「生殖力がある」という意味)な歓迎、思いやり、生命力に満ちた献身」を備えている、と表現したことで批判された。
講演の場となったカトリック大学は「理解不能で承認できない発言」だとするプレスリリースを出した。
また教皇は、女性の聖職者導入を認めなかった理由として、一種の「スカートをはいた男性」を生み出すことを恐れたと語った。
ローランズ氏は「教皇は適切な言葉遣いや、時にはジョークを言うのに苦心しているようだった」と言う。
一方で、教皇が女性に影響する問題、例えば人身取引や経済的搾取などの問題の対応に強く関与したとも指摘。
「女性に最も不利な影響をもたらす社会問題について、世界の舞台で彼ほどの思いやりと確信を持って発言する人がほとんどいない中、多くの女性が教皇に敬意を抱いた」と話した。
米マンハッタン大の宗教研究学教授、ナタリア・インペラトーリ=リー氏はこう語る。
「全体として、フランシスコは教会における女性の地位向上に貢献した。バチカンで女性を意思決定の立場に昇格させ、女性助祭に関する議論を認めることで、これまで閉ざされていた扉を開いた」
参照元:REUTERS(ロイター)