私立高が車いす生徒の入学断り波紋 乙武氏「40年経って何も変わってないことに驚き」 学校における“合理的配慮”の線引きは?

車椅子を撮影した写真

「障害があることを理由として、具体的な場面や状況に応じた検討を行うことなく、受験入学等を拒むことは、不当な差別的取り扱いに該当しうる」。

4日、阿部文科大臣が言及したのは、香川県で起きた高校受験をめぐる問題。

電動車いすを使う中学3年生の男子生徒が、志望した複数の私立校から設備面などを理由に入学を断られたという。

保護者が受け入れの可否を高校に問い合わせたものの、高校側と直接対話する機会はなかったとのこと。

それでも、生徒は断られた私立校を「腕試し」で受験。

その際、交渉に当たった中学校校長からは「合格しても入学しない」という確約を求められたということだ。

2024年4月に施行された改正障害者差別解消法では、私立学校を含む全ての事業者に対し、障害のある人への「合理的な配慮」を義務付け、「建設的対話」を求めている。

しかし、香川県は今回の問題について、法に基づく直接対話が設けられていなかったと判断、生徒が受験した私立高校を行政指導する方針だ。

学校のバリアフリー化においては、2024年度の公立小中学校のバリアフリートイレの設置率が74.3%、エレベーターの設置率は31.2%という現状もある。

なぜ教育現場で合理的配慮は進まないのか。

『ABEMA Prime』で、車いすを使っていることで高校受験の選択が狭まった当事者と考えた。

先天性の筋力が弱い疾患があり、小学1年生から車いす生活を送るともみさん。

エレベーターが小学校在学中に設置、中学校は入学前から設置されたものの、高校は私立だと「どこも受け入れは難しい」との噂があったという。

そのため、唯一の候補だった県内の公立校に、車で1時間かけて通学したそうだ。

ともみさんは、「私立は無理だと思っていたので、“通えないのはおかしかったんだ”と今は思う。公立に関しても、エレベーターがある高校がそもそも少ない。県内の通える範囲で選択肢に入るのは1校しかなく、あとは特別支援学校などだった。見学には行かせてもらえたが、周りの先生たちは『エレベーターがないから難しいよね』という反応だった」と語る。

東洋大学福祉社会デザイン学部教授の菅原麻衣子氏は、「小中学校は義務教育だが、高校はそうではない。ここに大きな差がある」と指摘。

「また、バリアフリーの観点からすると、公立の小中学校は避難所にもなる。避難所としてどう機能するかは震災の度に言われることで、その必要性が社会で認識されやすい。子どもからすると、“行きたい学校に行きたい。チャレンジしたいのはみんな同じ思いだ”となるが、そこのギャップが全然埋められていない」と述べる。

 校のバリアフリー化に対する国からの補助は、2021年度以降、既存の公立小中学校の工事で一定の要件を満たす場合は、整備費補助の割合が3分の1から2分の1に引き上げられた( 国立大学1分の1(定額)、私立幼稚園〜高等学校3分の1、私立高等専門学校〜大学2分の1など、文科省より)。

ただ、学校にエレベーターを設置する際の費用は大きい。

大阪・枚方市の試算・概算によると、1基当たりの事業費は5500万円(設計費:500万円、工事費:5000万円)で、ランニングコストが年間100万円(点検委託料)となっている。

菅原氏は、「エレベーターはなかなか付けられないけれども、階段昇降機をつける、という学校もある。ただ、通る時に他の生徒が待ったり、時間がかかることを踏まえると、エレベーターのほうがいい。公立の小中学校のバリアフリー化は一生懸命進めていて、補助金も出ているが、公立として・私立としてどこまでやるかという経営判断は別な部分がある」とした。

著書『五体不満足』がベストセラーの作家・乙武洋匡氏は、自身の経験を次のように語る。

「生まれ持った障害によって、かなりの選択肢が限られてきた。義務教育の小学校から大変で、障害者の受け入れに積極的だと当時から表明していた私立ですらも、私の場合は門前払い。建設的な対話すら持ってもらえなかった。ありがたいことに、世田谷区の教育委員会が向き合ってくれて、異例中の異例ではあるが、保護者が登校から下校時まで付き添うことを条件に、特別支援学校ではなく地域の学校に通うことができた。驚いたのが、3年前に(参議院)選挙に出た時、演説に駆けつけてくださった障害児を育てている母親が、『私は今付き添いをしていて、そうじゃないと入学を認められなかった。そんな状況を変えてほしい』と。40年経って何も変わらないことがすごく驚きだった」。

また、ネットに上がる、「そういう子だけのために『配慮』?税金のムダ」「『自分が入るから設備用意しろ』はぜいたく」といった声に反論。

「これらは、エレベーターがない前提での意見だと思う。公立の小中学校で設置率31%という数字は、40年前ならしょうがないと思うけれども、今は2025年。そもそも学校という誰もが通うはずの場所にエレベーターがついていないことに対する疑問の声が、あまり聞こえてこないのが残念だ」と述べた。

そんな中、歌手・モデルの當間ローズは「僕が行っていた県立の学校で1人、不慮の事故で車いすになってしまった子がいる。その時、エレベーターではなく階段昇降機が設置された」というエピソードを紹介。

これを受け乙武氏は、「今回車いすの生徒を断った学校は、入学後に障害を負った生徒を退学させるのか?と。おそらくそうはせずに、なんとかしようとするのではないか。門前払いされたことで、お子さんや保護者が“社会から見放されている”という感覚を持ってしまうことが、すごくつらい」と訴えた。

では、エレベーター設置がスケジュール的に間に合わないため、生徒の教室を1階にする&手すりを設置する。

エレベーター設置は費用がかかるため、階段昇降機を設置する。

これらは合理的配慮に当たるのか。

當間は、「先ほど話した友達は高校3年生で、バリアーフリーのある学校に転校してしまった。そこには見えていなかった苦しみ、僕らに至らないところがたくさんあったと思う。乙武さんは、無理をしてそういう学校に通うことと、受け入れ体制ができている環境、どちらが良いと思うか?」と尋ねる。

乙武氏は、「階段昇降機が付き、それを使って登れたほうがいいに決まっているが、ワンフロア上がるのに5分ほどかかる。皆さんが歩いて上がるのは30秒程度なのに、毎朝、毎日、なんなら教室移動ごとに5分かかることで、“周りは邪魔だと思ってるんだろうな”という精神的な負担も考えると、転校せざるを得なかったというのが正直な部分だと思う。やはり“選択肢”がほしい」とコメント。

また、ともみさんは「自分の意見を主張できる子もいれば、なかなか言えない子もいる。そういう子たちが現実を突きつけられて、“勉強じゃないところで差をつけられてしまうんだ”と思うのはとても悲しいなと、長いこと感じていた。そうならないように、“どうしたらできるのか”“どういう風にしたいのか”という当事者の声を、中学生であっても聞いてほしい」と訴えた。

菅原氏は、生徒の教室を1階にする議論などを踏まえ、「友達から『自分たちが1階に降りなきゃいけないのか』『あいつのために行かなきゃいけない』と思われてしまうと、今度は逆効果になる。ただ、できること・できないことを整理していく必要はあって、本人の判断と、その子だけじゃないという部分も、丁寧に見ていかないといけない。そして、今はできなくても、その先も見ていこうと広げていくと、もっとポジティブに話が進んでいくと思う」と述べた。

参照元:Yahoo!ニュース