ダライ・ラマ14世の後継問題 今年90歳に 差し迫る判断 中国政府が介入する懸念も

中国国内には現在、およそ700万人のチベット族の人たちが暮らしている。
その精神的リーダーがチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世で、今年90歳を迎える。
チベット仏教では死後に生まれ変わる「転生」の教えに基づき、ダライ・ラマの後継者を探す伝統があるが、今、中国政府はその後継者選びをめぐり神経をとがらせている。
2025年2月、中国青海省。
私たちが向かったのは、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の生まれた場所だ。
しかし…
「こちらまっすぐ行くとダライ・ラマの生家につながる道なんですが、このように検問所が設置されています。身分証のチェックでしょうか」
記者「中には入れないのですか?」
警察「ダメだ」
この先にある生家に近づくことはできませんでした。
近所の人「共産党が支配しているからね」
Q.ダライ・ラマの家だから?
近所の人「そうそう、そこですよ。2、3年前から入れなくなった」
中国政府が神経をとがらせているのには訳がある。
それは、2025年がダライ・ラマ14世の後継者を決める年といわれているからだ。
ダライ・ラマ14世は66年前の1959年、チベットに進駐してきた中国共産党に反発して起きた抵抗運動「チベット動乱」を機にインドに亡命。
インドのダラムサラに「チベット亡命政府」をうちたて、今もダラムサラで暮らしている。
3月、中国政府はダライ・ラマについて…
中国外務省 毛寧 報道官「ダライ・ラマは宗教の衣をまとって反中国分裂活動に従事する政治亡命者で、チベット人民を代表する権利は全くない」
ダライ・ラマを「チベットの独立をたくらむ“分離独立主義者”」と激しく批判。
中国国内では今もタブー視されており、信仰はおろか、写真を飾ることすら厳しく禁じられている。
しかし…
中国国内で暮らすチベット族「彼は心の中の灯りのような存在です。中国政府がどれだけ抑圧しても、チベットの人々の心の中の太陽を抑えることはできません」「彼は神のような存在ですが、ここで口にすることはできません」
信仰は、確実に息づいていた。
チベット仏教では、ダライ・ラマの死後、後継者は「生まれ変わり」を探す伝統がある。
しかし、中国政府が自分たちに都合のいいダライ・ラマを勝手に擁立して、チベットの統治に利用するのではないかと懸念されている。
実際、中国政府は1995年に亡命政府側が認定したダライ・ラマに次ぐ高僧「パンチェン・ラマ」の生まれ変わりを連れ去った上、代わりに自分たちに都合のいい人物を後継者として擁立した過去がある。
チベット亡命政府 ペンパ・ツェリン首相 「中国政府は次のダライ・ラマを重視しています。なぜなら、次のダライ・ラマをコントロールできれば、チベットの人たちをいとも簡単に支配できると思っているからです。私は中国政府に言いたいのです。あなたたちは永遠に続く頭痛の種を持ち込みたいのですかと」
「パンチェン・ラマの悲劇」は繰り返したくない。
そのためチベット亡命政府は、ダライ・ラマが90歳になる2025年7月に、自ら後継者について判断を下す可能性があるとしている。
中国で暮らすチベットの人たちは、どう思っているのだろうか?
中国国内で暮らすチベット族「彼が亡くなっても、次のダライ・ラマがいます。亡命政府が選ぶ人が、次のダライ・ラマなんです。中国政府に選ぶ権利はないのです」
ダライ・ラマが中国を去って半世紀以上。
中国で暮らすチベット族の人たちの多くは、ダライ・ラマを実際に見たことがない。
そのため、若い人からはこんな意見も聞かれました。
中国国内で暮らすチベット族「多くのチベット族の中にチベット仏教は深く根付いています」
Q.中国のチベット族はダライ・ラマがいなくても…
中国国内で暮らすチベット族「中国のチベット族は信仰を持ち続けることができるのです」
この問題について、全人代=全国人民代表大会でチベット自治区の代表団に聞いてみたが…
Q.チベット自治区政府はダライ・ラマ14世の後継を選ぶ作業をもう始めていますか?
全人代チベット自治区代表団メンバー「中央政府が決めることです」
Q.まだダライ・ラマは影響力がありますか
全人代チベット自治区代表団メンバー「取材しないでください」
Q.今年ダライ・ラマ14世は90歳になりますがどうですか
全人代チベット自治区代表団メンバー「…」
こうした中、ダライ・ラマ14世は3月に出版した著書の中で、「後継者は中国国外の自由な世界で生まれる」という見解を示した。
これに対し中国政府は、2007年に作った「生まれ変わり」には中国政府の認定が必要だという規定を持ち出し、強くけん制している。
中国外務省 毛寧 報道官「ダライ・ラマを含む全ての活仏の転生は、国家の法律や宗教儀式の規則と歴史的なルールを守るべきだ」
ダライ・ラマをめぐって繰り広げられる静かなる闘い。
半世紀以上にわたり続いてきた中国とダライ・ラマの対立は、2025年、大きな節目を迎えることになる。
参照元:Yahoo!ニュース