ポリオ撲滅、「陰謀説」と難民で困難に パキスタン、減少一転し感染者増加

ウイルスが神経を侵して手足をまひさせ、一生の障害を引き起こすポリオ(小児まひ)。
野生株が残る世界2カ国のうちパキスタンで2024年の感染者数が70人を超え、2020年以来の水準となった。
撲滅できない理由は、もう1カ国の隣国アフガニスタンと往来が多いことに加え、国境地帯に潜むイスラム武装勢力が「陰謀説」を広げ、ワクチン接種を拒む住民もいるからだ。
首都イスラマバードから北に車で約4時間。
アフガンと国境を接する北西部カイバル・パクトゥンクワ州の小さな診療所に警察の護衛を受けた車両が到着した。
降りてきたのは国際協力機構(JICA)の母子保健支援事業を請け負うアイ・シー・ネット(さいたま市)の日本人3人だ。
テロが相次ぐ同州で、関係者は安全確保に細心の注意を払う。
冷蔵庫のワクチンの保存状態をチェック。
妊婦や子どもの予防接種の重要性を説明する紙芝居を地元女性保健ワーカーと共に練習した。
保健ワーカーのナディアさんは「教育を受けてない人が多いので、絵なら理解しやすい」とうなずいた。
カイバル・パクトゥンクワ州はポリオ感染が目立つ地域だ。
パキスタン政府によると、ポリオ感染者は2019年に全国で147人確認された後、減少に転じた。
2021年2月から1年間はゼロとなり撲滅の期待が高まった。
だが、結局2022年は20人確認され、2023年は6人だった。
政府の緊急時対応センターのハック氏は、下水道の未整備や予防接種率の低さに加え「難民の往来」を課題に挙げる。
アフガンでは旧ソ連侵攻以降、政情不安が続く。
2001年の米中枢同時テロ後に外国部隊が駐留、2021年8月にイスラム主義組織タリバンが復権した。
パキスタンには300万人前後のアフガン難民がいるとされる。
パキスタンとアフガンの国境地帯では伝統的な部族社会が根強く残り、政府の監視の目が届きにくい。
拠点としている武装勢力がワクチンは「子どもたちを不妊にさせる西側諸国の陰謀」と偽情報を拡散。
予防接種従事者を攻撃し、1990年代から従事者や警備の警察官ら200人以上が殺害されたという。
ハック氏は治安とともに、偽情報を信じる住民の「接種拒否」も問題となっていると明かした。
撲滅への壁は高い。アイ・シー・ネットの現場リーダー池田高治さんは「母子保健の大切さが十分に理解されていない。住民自身が互いの意識を高め合えるよう支援していきたい」と地道な活動が近道だとの考えを示した。
参照元:Yahoo!ニュース