「被告がその場にいたか」の証明に?! 法廷で存在感増すスマホの健康管理アプリ

スマートフォンを撮影した画像

スマートフォンに搭載された健康管理アプリを、刑事事件の証拠として活用しようという動きが広まっている。

毎日の歩数や消費カロリー以外に、利用者の移動時間や移動距離も算出してくれるため、直接証拠が乏しい事件で「現場に被告がいた/いなかった」を立証する材料として提出されるケースが相次いでいるのだ。

その効果のほどは-。

「ヘルスケアアプリのデータから推定される行動が、犯人である可能性が高い不審人物の行動とほぼ一致する」

今年2月、東京都江戸川区の男性=当時(63)=に対する殺人罪に問われた尾本幸祐被告(38)=控訴中=の裁判員裁判で、検察官はこう指摘した。

被告が男性を殺害したという直接的な証拠がない事件。

被告は「現場に行っていない」と一貫して無罪を主張しており、検察側は、犯行時間帯に被告が現場にいたことを立証する必要があった。

周辺の防犯カメラには被告と歩き方が似ている不審人物が映っていたが、それだけでは決め手とはならない。

そこで検察側が着目したのが、被告が使っていたiPhone(アイフォーン)に搭載されていたアプリ「ヘルスケア」だった。

被告の平均歩幅(74センチ)に可能な限り近い捜査員が、同じ型のスマホを持ち、不審人物と同じルートをたどる実験を実施。

被告の記録と比較したところ、捜査員のものとほぼ一致したことから「不審人物=被告」が成り立つと主張したのだ。

これに対し弁護側は、アプリが誤作動を起こした可能性を指摘した上で、被告はその時間帯、自宅近くで運動していたと主張。

だが東京地裁判決は、検察側の実験を「十分信用できる」と評価。他の証拠とあわせ、被告が当日に現場へ行ったと結論付けた。

健康管理アプリが証拠採用された事件は、ほかにもある。

平成30年に和歌山県の資産家男性が死亡した「紀州のドン・ファン」事件。

検察側は、殺人罪などに問われた男性の元妻(29)が、男性の死亡直前の約3時間で、自宅の1階と男性の部屋がある2階を8回行き来していることをアプリの記録で立証。

他の日と比べて多いことから「不自然」と指摘した。

和歌山地裁は令和6年12月、2階で元妻が何をしていたか「不明」などとして無罪を言い渡したが、アプリの記録にあった多数回の往来自体は認定した。

一方、弁護側が「被告が現場に行っていない」証拠として活用した例もある。

統合型リゾート施設(IR)を巡る汚職事件で有罪判決が確定した元衆院議員、秋元司受刑者(53)の公判では、弁護側が、賄賂を受けたとされる時間の前後でアプリが移動を記録していないことから秋元受刑者は受け渡し現場に「行っていない」と主張した。

ただ、東京地裁は、アプリが秋元受刑者の動静を正しく反映していない可能性があるなどとして、弁護側の主張を退けた。

検察幹部は、健康管理アプリの活用が刑事裁判で「広がっている印象がある」としつつも「アプリだけで有罪の立証はできない。防犯カメラの映像など他の証拠と照らし合わせ、矛盾がないか調べる必要がある」と話している。

参照元:Yahoo!ニュース