実は「何種類やってもOK」なサーティワンの1さじ試食。「消費者との信頼を築き、ファンを生み出す」様々な施策の深いワケ

サーティーワンのアイスクリームを食べている人

2025年2月10日、アイスクリームファンに衝撃が走った。

森永乳業が「ビエネッタ」の3月末での販売終了を発表したのだ。

1983年から発売されていたビエネッタは、さざ波のようなバニラアイスと、薄いチョコレートが層をなす「アイスケーキ」だ。

パリパリのチョコとまろやかなバニラのハーモニーが絶品で、筆者の実家では、ちょっとしたお祝いごとや来客時の「特別なスイーツ」として食べていた。

結婚してからも、息子が「がんばった日」のご褒美に選んできた。

それが、もう味わえなくなるとは……。と思っていたところに、サーティワンの新しいアイスケーキカテゴリー「31 パティスリー」との出会いがあった。

「ビエネッタ」ロスを癒やす存在……と言うとなんだか違う気もするが、負けず劣らずのおいしさ、満足度であることは確かだ。

ところで、サーティワンでは、創業から全店共通で試食「テイストスプーン」を実施していることをご存じだろうか。

アイスを選ぶ前に、1さじ、おすすめのフレーバーを味見させてくれるのだ。

そして、その存在は知っていても、実はこの試食が「何種類やってもOK」なことは知らない人が多いのでは?

「あれも、それも味見させてください」と言えば、際限なく提供されるという。

B-R サーティワン アイスクリーム株式会社 マーケティング部 部長 橋本貴史さんは店舗に勤務していた際、10種類以上味見をする客もいたそうだ。

筆者はサーティワンにかれこれ40年以上通っているが、まったく知らなかった。

そう伝えると、「伝え方がまだまだ力不足で申し訳ありません。ご存じない方がいらっしゃるのは課題ですね」と丁寧に詫びられた。

なぜサーティワンはこのようなサービスをしているのか。

そこには、創業からの理念が込められている。

アメリカ発祥のサーティワンの理念は、「We make people happy」、意味は、「アイスクリームを通じて、人々に幸せをとどける」だ。

その根幹には、「ただ商品を届けるのではなく、FUN(楽しみ)も届ける」姿勢があるという。

このため、サービスの最も重要な目標として、「体験価値の向上」を掲げているそうだ。

この「体験価値の向上」を象徴する存在が、「選ぶ楽しみ」を提供するテイストスプーンなのである。

だからいつ何時も全店で、そのときどきのおすすめのフレーバーを提供している。

おすすめが大人向けのフレーバーのときは、子どもには別のフレーバーを出しているそうだ。

「私たちはアメリカ発祥のアイスクリーム店で、日本では最初知名度がありませんでした。試食することで認知を広めて成功したビジネスなんです。だから50年経っても、ずっと続けているのです」

テイストスプーンには、「選ぶ楽しみ」だけでなく、「返報性の原理」に基づくビジネス戦略も隠されているのではないだろうか。

返報性の原理は、1960年にグールドナーという社会学者が唱えた、「人が相手から何かをもらった際に、お返しをしないと申し訳ない」と感じる心理的な法則だ。

法則に則って考えれば、試食を多くすればするほど、客単価アップやリピーター獲得というビジネス成果につながる可能性は高い。

「体験価値」に話を戻そう。

サービスにおいても、そこは徹底されている。

サーティワンはスマート化せず、ハンドtoハンドのサービスを重要視。

「注文したら、目の前で器具を使ってアイスを丸める」など、臨場感のあるもてなしの「体験」を大切にしているのだ。

これも著者は知らなかったのだが、サーティワンには、一部店舗をのぞいてフレーバーが32種類ある。

そして、「サーティワン」という店名もそこに紐づいている。

「毎日来ても1カ月間、異なるフレーバーを楽しめる」という意味なのだそうだ。

ブランドのロゴ「BR」は、アメリカ本国のブランド名「Baskin-Robbins(バスキン・ロビンス)」にちなんだものだが、そのなかにも「31」の文字が埋め込まれている。

実に強いこだわりだ。

いやいや、じゃあ31種類でいいんじゃないの?と思われたかもしれない。

32種類あるのは、各店がもう1つ、フレキシブルにフレーバーを足しているからだそうだ。

「毎日1カ月来てもあと1つ、32種類目が選べる楽しみがある」ことが目的なのだとか。

それに加えて、フレーバー32種類のうち12種類は、3カ月に1回変更している。

「四季の味を楽しめる」という、体験価値の向上を考えてのことだ。

フレーバーは元々、アメリカのものをそのまま輸入していたそうだが、近年は、日本の客に合わせて独自に開発したフレーバーが増えているそうだ。

いずれにせよ、各フレーバーのレシピは世界共通。

日本で開発したフレーバーは、アメリカで承認をもらってから販売をするそうで、そのまま海外で販売されることもある。

生産は、アイスもアイスケーキも、国内の自社工場で行われる。

完成後冷凍され、全国にある倉庫を経て、最低でも週1回は各店へ配送するそうだ。

この生産や流通過程、そして店舗でも温度管理を厳しく行っており、クオリティを担保している。

これも、「体験価値を低下させない」工夫の1つだ。

「アイスクリームには法律的に賞味期限がありませんが、安心安全とおいしさを両立できる社内規定があり、しっかり守っています」と橋本さんは真摯に語る。

そんなサーティワンの業績は今、非常に好調だ。売上高は2022年12月期〜2024年12月期にかけて、3年連続で過去最高を更新。

2024年3月期は300億円台に到達しており、前期比23.9%増を記録している。

純利益は約15億4300万円で、こちらも前期比28.4%増。

店舗あたりの年間平均売上高も5944万円と過去最高である。

好調の理由は来店者数、販売数が伸びたことにある。

その要因となっているのは2021年に発表された「長期経営計画」だ。

経営陣が刷新したタイミングではじめられ、累積の効果が着実に出ているのだ。

長期経営計画には、「ブランディングの強化」「デジタル化」「生産流通や組織の最適化」「販売拠点の拡大」の4つの柱がある。

なかでも、「ブランディングの強化」の目的で進められている店舗の改装は、来店者数、販売数の増加につながっていると橋本さんはみる。

2024年までの3年間で、全店舗のなんと75%を改装したそうだ。

「改装のスピード感は、フードビジネス業界でも希少なことだと認識しています。既存の店舗であっても、消費者の『ブランド体験』が飛躍的に向上するとともに、スタッフのモチベーション向上にもつながりました」と自信を見せた。

ゲストからは、「お店増えていますよね」という声が聞こえるそうだ。

しかし、橋本さんはその声にこそ「改装の効果が出ている」と分析する。

店舗数が増えたのではなく、改装がサーティワンの存在を際立たせているのではないか、と。

たしかに同じ店舗であっても、改装すると目を引くし、以前より魅力的に見える。

その波及効果が積み上がって、増収増益につながっているのだ。

また、改装の際には2種類の店舗デザインを用意して、立地などで使い分けている。

1つは、青とピンクのブランドカラーが前面に出たポップで明るい店舗「Flavor First」。

もう1つは、木目調で温かみのある空気感を重視した「MOMENTS」だ。

テイストの異なる2つの店があることも、存在感を際立たせる要因になっているのかもしれない。

業績好調なサーティワンだが、筆者はひとつ疑問が湧いた。

アイスは暑い時期に需要が大きい。

冬は落ち込まないのだろうか。

そう尋ねると、「以前よりは季節の変動が少なく、売り上げの落ち込みは減っている」という答えが返ってきた。

なぜなのか。

コロナ禍でテイクアウト売り上げは伸び、それはコロナ後も下がっていない。

そして、「家で食べるアイスのおいしさ」を知った人は、それと同時に、「こたつアイス」と呼ばれるような、寒い時期に暖かい家で食べるおいしさも知ったそうだ。

さらに、サーティワンのポップでかわいいアイスは、ハロウィン、クリスマス、年末年始など、イベントの際のインサイトもある。

アイスケーキもマッチするため、併せてプロモーションも展開する。

これらの理由から、季節による変動が少なくなっているのだ。

ただし、ロードサイドの店舗は外気や天候に左右されやすいそうで、「まったく影響がない」とも言い切れない。

集客のための工夫はまだまだ必要だ。人気ゲームやアニメ、キャラクターとのコラボレーションを行うなど、「ニュース的な付加価値」も提供しながら集客につなげている。

2024年末で、サーティワンの店舗は全国に1045店舗。店数増加を最優先とはしていないそうだ。

「売り上げと利益がしっかり確保できる」立地があれば出店する、なければしない。

それを積み上げた結果として伸びていけばいいと考えている。

その結果として、2025年は30店舗程度純増の見込みだ。

出店場所選びについても、フードコート、駅前、ロードサイド、市街地など、さまざまなロケーションを候補地としてみている。

「アイスクリームは外食後、仕事や授業の合間、車のなかなどさまざまなシチュエーションで楽しまれるものですから。幅広いシチュエーションで、全世代にコミュニケーションをとっていきたい」と強調した。

言われてみれば、たしかに、アイスは誰もが楽しめるものだ。

「嚥下の力が衰えた高齢者が、アイスだけは食べられた」「熱を出したとき、アイスを食べさせてもらってうれしかった」などのエピソードは、枚挙にいとまがない。

誰の記憶にもアイスはいるのではないだろうか。

日本上陸から50年経ったサーティワンでは3世代にわたるファンも生まれており、「孫に買う」ニーズはもちろん、「孫が敬老の日に祖父母にサーティワンを買う」現象も生まれはじめている。 

この先も歴史を積み重ね、さまざまな人々の思い出になっていくのだろう。

参照元∶Yahoo!ニュース