「はしかは早くかかれば軽く済む」は本当? 麻疹の誤情報に要注意

国内外で麻疹(はしか)の感染者が相次いでいる。その一方で、「はしかは重病ではない」といった誤情報がSNS(ネット交流サービス)上では後を絶たない。
大阪・関西万博が13日に開幕する予定で、大勢の移動が見込まれる。
命を守るためのファクトをチェックしてみた。
「初恋ははしかにかかったようなもの、と例えるくらい子どもの頃に当たり前のように誰でもかかる病気だったのに。子どもの頃にうつれば軽く済んだのに」
「日本人は弱くなった」?
3月中旬、X(ツイッター)にこんな投稿がされると、表示回数は2日間で100万回を超えた。
誤解を招く恐れがあるとして背景情報をユーザーが指摘する「コミュニティーノート」がすぐに書き込まれ、麻疹のリスクを訴える声が相次いだ。
ただ、投稿に賛同する書き込みも続いた。
「昔は友達がかかると『うつして』と遊びに行くほどどこにでもある病気だった」「日本人は弱くなった」――。
感染症に詳しい川崎医科大の中野貴司特任教授(小児科学)は「麻疹は昔から命に関わる病気でした」と断言する。
江戸時代から「麻疹は命定め」といわれ、命を左右する病気と恐れられてきた。
フランスにも「子どもの自慢ははしかが終わってからしろ」という言い伝えがある。
麻疹はあらゆる病原体の中で最強レベルの感染力を持つ。
合併症を高い頻度で引き起こし、肺炎や脳炎で1000人に1人が死亡するといわれる。
数年以上たってから、進行性の神経疾患、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を発症することもある。
「はしかは重病」を否定する投稿に、「患者数が少ない」「季節性インフルエンザと同じ5類感染症」といった反論もある。
国立感染症研究所が発表した今年の感染者数は3月19日現在で32人。
前年のペースを上回るが、新型コロナウイルス流行時の2020~22年は10人以下、23~24年も50人以下で推移しているのは事実だ。
「確かにかつての患者数はもっと多かった」と中野教授は話す。
07年、海外に修学旅行に出かけた高校生らが現地で相次いで発症し、海外の先進国からは「自動車だけでなく麻疹も輸出する日本」とやゆされたほどだった。
全数調査が始まった08年の感染者は1万人を超えていた。
その後、国は徹底した対策を打ち出した。
定期接種などでワクチン接種率を高め、患者が1人でも出れば疫学調査を実施。
感染者数は激減し、15年、世界保健機関(WHO)に「排除状態」と認定されるに至った。
「でも接種率が下がればウイルスが再び日本に定着し、排除の認定が取り消される可能性があります。麻疹は5類感染症ですが、感染力が非常に強い。人によっては命に関わるため、行動履歴などが公表されているのです」
WHOは3月、欧州・中央アジア地域の24年の感染者数が1997年以降で最多だったと発表した。
世界的流行のリスクは高まっているのだ。
「早くかかった方が軽く済む」という投稿も散見された。
昔、耳にした記憶がある人もいるだろう。
中野教授は「罹患(りかん)すれば強い免疫を獲得するのは事実」とする。
その上で「ただ、接種率が低い時代には多くの子どもたちが感染し、年間100人近い子どもたちが命を落としていた。そんな病気、流行させないに越したことはないですよね」と問いかける。
ネット上では、新型コロナ禍以降のワクチン全般に対する不信感や拒否感も根強く存在する。
中野教授によると、コロナやインフルエンザなどの呼吸器感染症と麻疹では、ワクチンの発症予防効果に違いがあるという。
インフルエンザの潜伏期間は2日前後であるのに対し、麻疹は11日前後。
体内に入ったウイルスは呼吸器粘膜などで増殖し、「ウイルス血症」という体中を回る状態になり、症状が表れる。
潜伏期間が長いこうした疾患は、ワクチンで作られた免疫の有効性が非常に高いという。
麻疹には治療法がなく対症療法しかない。
このため予防が何より大切になる。
「日本では高いワクチン接種率によって、感染者をゼロに近い状態まで減らした実績があります。何となく世の中の風潮に流されるのではなく、周りに病気で免疫が落ちた人やまだワクチンを打てない子どもたちがいることに思いを巡らせてみてはどうでしょうか」
参照元:Yahoo!ニュース