記者が原稿を書かない?「AI佐賀新聞」の衝撃 ジャーナリズムに人間不要?と思いきや 開発者が人間必要論を語るワケ

ロボットやテレビ、冷蔵庫など様々なところにAIが使われる中、メディアの世界にもその波が来た。
イタリアの新聞「IL FOGLIO(イル・フォッリョ)」が3月18日、人間は質問を入力しただけで、内容は100%AIによって書かれた新聞『IL FOGLIO AI』の発行を開始したのだ。
火曜から金曜まで1カ月間、毎日発行する予定だという。
しかし、AI新聞には「人工知能はクリエイティブな仕事を助けるべきであり、完全に取って代わるものではない」「質、批判的分析、現場での取材はどうなるんだ。ジャーナリストに課される、尊重しなければならない倫理規則や法律はどうなるのか?」といった批判も出ている。
2024年8月、佐賀新聞が1日限定で「2045年の佐賀県を予測した記事」をAIで作成するなど、日本でも動きは加速している。
AIとメディアは今後どう付き合うべきなのか、『ABEMA Prime』で佐賀新聞の記事を書いたAIの開発者とともに考えた。
AI編集アシスタント「StoryHub(ストーリーハブ)」の開発者・田島将太氏は「『AIでどれだけできるか』を実験するために、一言一句すべてAIに出力させた」と、取り組みの意図を説明。
「日本語はうまく書けていたが、100点を出そうとすると時間がかかることもわかった。この取り組みを通して、AI使用は80点くらいにとどめて、人間が仕上げるのが大事だと感じた」と語る。
WEBクリエーターで「オモコロ」創業者のシモダテツヤ氏は、「現段階のAIは、性格を人間に近づけるよりも、『人間をいかにマネているか』を目指している段階だ」と考えている。
「下手な時のほうが、人間っぽさが出て味わい深い。ライターも人格が見えると、人を引きつける。AIを使うのが当たり前の状態になれば、『誰が編集しているか』にもっと価値が出てくるのではないか」。
田島氏も「AIの言語能力が高まっても、コンテンツを作る“入口と出口”は絶対人間が押さえると思う。
『この発言が面白かった』『これが読者にウケる』といった企画や編集方針を入口に、途中でAIが作ったとしても、公開前に人間が手直しする。入口と出口を押さえておけば、人間のクリエイティビティを取り入れながら良いコンテンツが作れる」との見方を示す。
ジャーナリストの堀潤氏は、取材にAIが欠かせないという。「アラブでインタビュー取材をして、日本語翻訳を頼むと、僕が気づいていなかった武装勢力の名前が出てきて、『その話だったのか』と知ることができる。AIコンテンツが広がるほど、個人のジャーナリストが際立つ。新聞社やテレビ局といった従来型のものを全部ぶち壊して、報道のあり方をリビルドするきっかけになればいい」と語る。
そして、「AI時代のメディア運営を考えて、人に投資する経営者が生まれてほしいとも願う。収益を上げるために、合理性や効率ばかりを追ってしまっているが、もう少し『むき出し』のニュースに返るべき。ある新聞社の記者は、省力化のために改革した結果、調査報道の現場から資金が引き上げられたと。浮いた分は逆に突っ込んでほしいということで、経営者のアップデートが足りていない」。
これに田島氏は「ジャーナリストは原点回帰していく」と予想。
「AIを使って誰でも“こたつ記事”を作れるようになった時、一周回って“取材のほうが効率が良い”となるのでは。その人にしか取材できない場所は結構あって、『俺ならあの社長に電話1本でアポが取れる』というのは価値がある。未来のインタビューは、スマートグラスで全部録画して、AIが次の質問をアドバイスし、取材が終わった瞬間に記事ができ、少し手直しして公開する。そんな“超取材重視型”になるだろう」と推測した。
シモダ氏は「発信側だけでなく、受信側もAIを使うようになっていく」と、今後のAI時代を見ている。
「新聞を読み慣れていない若者が、読みやすい形にAIに変えてもらう。『動画でしか頭に入ってこない』という人も、AIにその場でニュース番組を作ってもらう。信頼できる一次情報を元に、AIが受信側の知能や性格に合った形で説明してくれる時代は、あっという間に来るだろう」。
文芸評論家の三宅香帆氏は、「文章作成や発信は、将棋みたいな世界になってくると思う」とし、「棋士がAIを使って強くなったのと同じで、AIを裏で使いこなせる人が発信上手になっていく。記者も『文章力はAIでいい』となれば、AIを能力の一部として、取材力を伸ばすようになるのではないか」と見通した。
田島氏は、「話を聞いた大学の先生は、学生のレポートにAIを使っていい代わりに、その指示も一緒に書くよう指導しているという。『どういう意図を持ってAIを使ったか』を説明できる人が、今後どんどん社会に出て、AIを使うことが当たり前になるぐらい“身体性の拡張ツール”になる」と指摘。
この先は“第2の自分”が作られてくるといい、「日頃から自分の発言をログにためておけば、精度が高まった時に良いエージェントが手に入る。議論や調査を“第2の自分”に進めてもらって、自分を一番理解している存在から『これ興味あるかもよ』と教えてもらえれば便利だ」と期待する。
「従順なAIが前提になっているが、反抗してくる未来も想定したほうがいいのでは」と堀氏が心配すると、田島氏は「AIが直接歯向かうよりは、AIが言論をコントロールした結果、人間が内戦を起こすほうが現実的で怖い」と返す。
堀氏は、イーロン・マスク氏が経営するXを例に出し、「そこで世論がどれくらい形成されるのか。チェックを他のAIでやるのか、人力なのか。どんな情報であっても、『ここのラインは守ろう』という合意形成をできる訓練をしておかないと、おっかない社会になる」との懸念を示した。
参照元:Yahoo!ニュース