朝ドラ「おむすび」視聴率ワースト更新か 過去の名作と何が違ったのか… 視聴者を置き去りにした「ギャル」と「震災」

視聴率をチェックしている人

俳優の橋本環奈がヒロインを演じるNHK連続テレビ小説「おむすび」は、3月28日に最終回を迎える。

当初から伸び悩み、歴代の朝ドラのなかで平均視聴率のワースト記録を更新すると見られているが、なぜ「おむすび」は視聴者から支持されなかったのか。

朝ドラについての著作もあるフリーライターの木俣冬さんは「果敢なチャレンジ」の結果だったと見る。

2024年9月30日にスタートした「おむすび」は、福岡県の糸島で育った主人公の米田結(橋本環奈)が、平成ギャルとの出会いを経て、栄養士となり、現代人が抱える問題を食の知識とコミュニケーション能力で解決していくオリジナル作品。

“おむすび”は主人公の米田結の幼少の頃のあだ名で、人、縁、時代といった“目には見えないもの”を結んでいくテーマが込められている。

「おむすび」のヒロインの職業は管理栄養士だが、歴代の朝ドラ作品のヒロインの職業を振り返ると、直近の「虎に翼」(24年度前期年、主演・伊藤沙莉)は弁護士、再放送が終わったばかりの「カーネーション」(11年度後期、主演・尾野真千子、夏木マリ)はファッションデザイナー、5月から再放送が始まる「とと姉ちゃん」(16年度前期、主演・高畑充希)は編集者などとさまざまだ。

どのヒロインも、幼少期のころから描かれ、様々な困難につまずきながらも、生涯やり遂げる道を見つけ、切り拓いていく。

「おむすび」も、物語のベースにあるヒロインの“一生”という点では過去の名作と同じだ。

しかし、今回のヒロインに盛られた特性は「ギャル」だった。

『ネットと朝ドラ』や『みんなの朝ドラ』などの著書があり、「虎に翼」放送中は毎日ドラマレビュー連載をしていたフリーライター木俣冬さんは、これまでの「おむすび」を振り返り、「ギャルが斬新過ぎたように感じます」と指摘する。

朝ドラでは、主人公の人生が波乱万丈であったとしても、ある種分かりやすい“王道”を進む姿が描かれてきたと、木俣さんは紐解く。

「朝ドラは、公共放送であるNHKが製作し、老若男女を対象にした国民的な番組です。これまでのヒロインは専業主婦、作家、俳優、料理家、ファッションデザイナー、看護師などと、どんな仕事か想像しやすい職業に就いた人を描いてきました。また、日本で初めて裁判官になった女性、女性の就業率の低い時代に実業家や新聞記者や飛行士になった女性、というようなスペシャル感を打ち出してきました。ところが今回は、ギャルで栄養士の主人公、母親が元スケバンや元レディースと、知る人ぞ知るジャンルを担う人々がメインキャラクターだったため、戸惑った視聴者も少なくなかったと思います」

ヒロインの橋本環奈にも、親しみが抱けなかった一面もあった。

マネージャーに対してのパワハラ疑惑が報じられたほか、ドラマ後半にはヒロインが一切出てこず、米田結の姉で“伝説のギャル”の米田歩(仲里依紗)らが中心となった期間があった。

様々な事情があったにせよ、木俣さんは、昔ながらの朝ドラファンには「残念」だったのでは、と言う。

「橋本環奈さんが忙しくて、途中に出ない週が2週間あったこともあり、朝ドラに集中していないのではないか、というネガティブな印象がついてしまったところがありました。仕事を掛け持ちするのは珍しいことではありませんが、朝ドラはこれまで、このドラマに全力投球しているヒロインの俳優を応援するスタンスがデフォルトのようになっていたため、昔ながらの朝ドラファンのなかには残念な気持ちになった方もいたのではないでしょうか。忙しいなか、できる限り頑張っていたであろう橋本さんにはお気の毒だった気がします」

ヒロインの一生と、そのヒロインを演じる俳優を自然と応援していくからこそ、半年間、100話を超える長丁場を乗り切り、心に残る名作となるのだろう。

また、木俣さんは「阪神・淡路大震災から30年企画だったはずが、やや焦点がぼやけた」と指摘する。

「おむすび」は当初、1995年に発生した阪神・淡路大震災の復興30年の節目の企画とうたわれていた。

しかし、福岡県の糸島が舞台→回想で阪神淡路大震災の体験→再び神戸に戻る、というドラマの構成に、「視聴者の感情の整理がつきにくかった気がします」と木俣さんは言う。

ドラマではさらに、2011年の東日本大震災、22年のコロナ禍が盛り込まれる。

このことで、ますます焦点が定まらなくなったと木俣さんは見る。

「東日本大震災とコロナ禍という大きな出来事まで描いたため、阪神・淡路大震災からの復興が主なのか、平成30年間は日本人が災害に翻弄された時代だったと振り返りたいのか、焦点が定まらず、全体的に問題意識が薄まってしまったように思います。ただ、最終回をどう締めるかで印象も変わると思うので、まだ断定はできませんが」

平均視聴率のワースト記録更新は様々な理由が重なったにせよ、日本に混乱を招いた2つの大震災と感染症の拡大をテーマにしたことを、木俣さんは「評価」する。

「やりようによっては、非常に骨太なテーマの物語が『おむすび』でできたと思うのです。名作『おしん』は第一次世界大戦、関東大震災から太平洋戦争まで描いています。『おむすび』はごく一般的な家庭のなにげない日常も盛り込んでいるため、それと災害に翻弄された30年という題材の食い合わせがよくなかったように思います。ただ、難しいことに挑んだことは評価したいです」

NHKメディア総局長の山名啓雄氏は3月19日の定例会見で、「おむすび」の低視聴率について、「僕らにしてみるとつい最近の時代、若い方にしてみると近い時代を描いていた。震災などを描くことは、ある種チャレンジングであったのかなとは思っている」と総括している。

チャレンジなくして、新作も名作も生まれない。

木俣さんも、おむすびはチャレンジした作品だったとして、こうまとめる。

「ギャルと栄養士、災害と日常、組み合わせるのが難しい要素を果敢に組み合わせたチャレンジが、視聴者には受け入れにくかったのではないかと思います。私は著書で『朝ドラは歌舞伎のような伝統芸能』と定義しています。歌舞伎も古典と新作をやっていて、新たな題材や表現を模索し、伝統芸能にリスペクトしながらアニメや漫画を歌舞伎化した新作に挑んでいます。『おむすび』は新しさを果敢に模索するあまり、脚本に日本人の心を託してきた歴代作家の想いへのリスペクトが、やや後回しになっていたようにも感じています。NHKの夜ドラのような実験的な枠でやったら評価された題材だったのではないでしょうか。それに、とても楽しんでいるかたもいたので、新たな朝ドラの可能性を開いたとも言えるでしょう」

3月31日から始まる、112作目となる朝ドラ「あんぱん」は、「アンパンマン」を生み出した漫画家・やなせたかしさんと妻の小松暢さん夫妻を、俳優の北村匠海と今田美桜が演じる。

参照元:Yahoo!ニュース