マスク氏買収のX、「アルゴリズム変更」で世論誘導か 「親トランプ」投稿を優先拡散

SNSの情報をチェックしている人

世界各国・地域の選挙で、SNSは有権者に訴えかける手段として主流になりつつある。

偽情報や中傷の拡散、世論の分断といった負の側面も無視できなくなってきた。

SNSへの向き合い方を模索する海外事情を報告する。

「激戦州を民主党の地盤に変えるため、大量の不法移民を流入させている」。

昨年11月の米大統領選の投開票日が近づくにつれ、共和党支持者がX(旧ツイッター)で民主党の移民政策を非難する投稿が相次ぐようになった。

Xを所有する実業家イーロン・マスク氏も同様の主張を繰り返し、「根拠のない陰謀論だ」(米CNN)と問題視された。

マスク氏に限らず、大統領選ではトランプ大統領陣営のXへの発信が圧倒的に目立った。

虚実ない交ぜの内容も含まれる。

2023年7月~24年10月下旬、大統領選で共和党支持者がXに発信した投稿の閲覧数は75億回に上り、33億回だった民主党支持者の倍以上となった。

米紙ワシントン・ポストが昨年10月末に公表した調査結果だ。

同紙はマスク氏が選挙期間中、「アルゴリズムの変更」によってトランプ氏のメッセージが拡散しやすいようにしたと指摘した。

若年票が流れるなど世論誘導につながった可能性がある。

大統領選でXの投稿の傾向を調査したオーストラリア・モナッシュ大のマーク・アンドレイエビッチ教授は、アルゴリズムの変更について「必要な情報が開示されず不透明だ」とした上で「右派の投稿が優遇される傾向が明確に見られた」と指摘した。

バイデン前政権時代にSNS規制を巡る議論が活発化したが、包括的な法整備には至らなかった。

米ブルッキングス研究所のシニアフェロー、ダレル・ウェスト氏は「米国内のSNSは連邦政府の規制がない状況だ」と説明する。

SNSに無防備な中で行われた大統領選では、米国と敵対する外国勢力の関与が疑われるケースも見られた。

昨年11月4日の投票前日、米CBSのニュース番組を装い、「FBI(連邦捜査局)がテロ攻撃の可能性を発表した。投票所に行かないように」と警告する偽映像がSNSで拡散し、混乱を招いた。

映像はロシア関連グループの作成とみられ、即日削除された。

トランプ氏は1月の就任演説で、「政府による全ての検閲を即時に停止する大統領令に署名し、自由な表現を米国に取り戻す」と宣言した。

後に署名された大統領令は「SNS上の言論への政府介入を禁止する」と明記した。

SNS規制の流れは途絶える形となり、SNSやフェイクニュースに関する民間の自主規制も大幅に緩和される恐れが出てきた。

フェイスブックを運営する米メタは1月、虚偽の内容を含む投稿の削除を目的とした「ファクトチェック」機能を米国で廃止すると発表した。

メタは16年の大統領選で偽情報が横行したことを受け、第三者機関に真偽判定を委託していたが、トランプ氏が「検閲だ」と批判的だったことが廃止決定の要因とみられている。

米ジョージ・ワシントン大学のスティーブン・リビングストン教授は「規制の見通しが立たない中、Xとトランプ氏自身が運営するSNS『トゥルース・ソーシャル』は事実上プロパガンダ機関と化している。民主主義の規範を破壊する危険性がある」と警告した。

トランプ氏が1月3日、Xに「トランプはあらゆる面で正しい!」と投稿すると、マスク氏は「100点」と返信した。

3月11日には、トランプ氏がトゥルース・ソーシャルで「我が国を助けるために全力で素晴らしい仕事をしている」とマスク氏をたたえた。

やり取りには蜜月ぶりだけでなく、異論や検証を排除する危うさも帯びていた。

参照元:Yahoo!ニュース