米大麦農家、ビール消費減少とトランプ関税の二重苦

ビールを撮影した画像

米モンタナ州で大麦を栽培する農家のミッチ・コーネンさん(65)は、トランプ政権による関税で重要な輸出市場が失われ、ただでさえ国内のビール消費減少で大麦需要が落ち込む中で、生産コストが一層増大する事態を懸念する1人だ。

全米大麦生産者協会のバイスプレジデントを務めるコーネンさんは「私たちは既に金銭的なやりくりがかなり逼迫している。もはや事業を続けられるかどうかを思い悩む段階にある」と訴える。

ロッキー山脈を臨むコーネンさんの農場で生産される大麦のおよそ半分はメキシコに出荷されてビールになり、その一部は「モデロ」「コロナ」「パシフィコ」といった銘柄として米国に輸入される。

メキシコは米国産の大麦と大麦の種子を発芽させたモルト(麦芽)の大口輸入国。専門家によると、もしもメキシコが米国への報復措置としてこれらに関税を課すか、別の国から買い入れるようになれば、消費者のビール離れという逆風が強まる米農家にとってさらに大きな痛手になりかねない。

やはり大口輸入国のカナダは、米国の大麦などの農産物に対する関税を今月4日に発動した。

ノースダコタ州立大学の農業経済学者フレイン・オルソン氏は、米農家はこの関税によってカナダ向けの大麦輸出が大きく縮小するのではないかと心配していると指摘した。

トランプ大統領は、自らの関税政策が国内の企業や消費者に及ぼす影響について、さほど大きくならないという見方を示唆している。

しかしモンタナ穀物生産者協会のバイスプレジデントを務めるスティーブ・シェッフェルズさんは「関税を実際に負担するのは農家だ。われわれは自分たちが消費できるよりもずっと多くの大麦を育てている。だから輸出市場がなくなれば、農家ははるかに限られた数の買い手の争奪戦に突入することになる」と強調した。

トランプ氏の関税を通じてカナダから輸入する肥料は今後値上がりする見込みで、中国製化学肥料は2月4日の追加関税適用で既に価格が上がっている。

シェッフェルズさんは「気分は落ち込んでおり、恐怖心もある。これからしばらくひどい状況が続くだろう。関税のことが死ぬほど恐ろしい」とうなだれた。

米国ではビール消費の減少が続き、2024年の消費量は過去40年で最低に沈んだ。

多くの消費者が他のアルコール飲料を選択したためだと、醸造業協会のチーフエコノミスト、バ-ト・ワトソン氏は指摘する。

最近では発泡酒や缶入りカクテルなどが特に手強い競争相手になっている。

アルコール自体をたしまない人々も増えてきた。

Z世代とミレニアル世代は、それ以前の世代に比べてアルコール摂取量が少ないことが24年のギャラップによる調査で判明した。

今年1月には公衆衛生局のマーシー長官が、アルコール飲料ラベルにがんの発症リスクを明記すべきだとの見解を示した。

ワトソン氏は、「バドワイザー」を手がけるアンハイザー・ブッシュなどの主要ビール会社は市場シェアと販売数量維持のため価格を据え置くのではないかとみている。

一方、クラフトビール醸造業者はコスト吸収体力がないので、値上げする公算が大きいという。

ビール缶や樽は主としてカナダから輸入されるアルミニウムと鉄鋼で製造されているため、トランプ政権によるこれらへの25%の関税適用でコスト上昇も避けられそうにない。

瓶入りのコロナやモデロの価格は、メキシコが米国産モルトに関税を課せば、米国にビールとして輸入される際に再び関税を上乗せされるので、値上がりの確率はもっと高まる。

ワトソン氏は「醸造業者はこれらのコストを転嫁するか、吸収するか選択を迫られる」と述べた。

参照元:REUTERS(ロイター)