「みんな能力はあるんですが…」引退後のアイドルがぶつかる“転職の壁”とは? 元アイドルのキャリアコンサルタントが語る「アイドルのセカンドキャリア事情」

アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」(以下、フィロのス)のメンバーとして7年活動した経験を生かして、現在はアイドルやタレント向けのキャリアコンサルティングおよびメンタルケア支援を行っているのが十束おとはさん
。第2の人生に踏み出そうとする元アイドルたちが直面する“壁”とは?
――十束さんは、元アイドルのキャリアコンサルタントとして、アイドルのセカンドキャリア支援をしているそうですね。
十束おとは(以下、十束):はい。フィロのスを卒業して就職するにあたって、自分のアイドル経験を職務経歴書でどう表現すべきか迷いました。私の場合、現役時代からソロでゲーム関連の仕事をしていたご縁でeスポーツに関わる企業で働くことができたのですが、これはとても幸運な例だと思います。
たとえば日本武道館で単独ライブを開催したなどの分かりやすい実績があるなら、アイドルに詳しくない採用担当の方にも「それはすごい」と感じてもらえるかもしれませんが、もっと小さな規模で活動してきた元アイドルは、なかなか可視化できる実績や強みがないと感じている場合も多いです。
その子たちも一生懸命にアイドルとして頑張ってきたわけですし、絶対に何かしら強みがあるはずなのでそのサポートをできたらと思い日々仕事をしています。
――十束さんが考える、アイドル活動によって得られるスキルとは何ですか?
十束:まずは握手会やサイン会で磨かれる対人スキルですね。アイドルたちは、いらっしゃったお客さんに合わせて臨機応変に対応を変化させています。そういったファンの方に加え、共演者や関係者の方々とのやりとりもあって、コミュニケーション能力は本当に磨かれます。
ほかにも多忙な中でも練習を重ねてステージで発揮する努力、ひとつのことを継続する力など、アイドル活動を通して、さまざまなスキルが得られます。
――採用の場では、ひとつのことを頑張った経験のある人が好まれるとよく聞きますが、アイドルは「まさに」の存在ですね。
十束:キャリアの話だけでなく、多岐に渡ります。「日々の活動に響くんじゃないか」「グループの雰囲気が悪くなるのではないか」といった点が不安でメンバーやマネージャーには言いづらい悩みもあると思うので。「せめてこの時間はなんでも話していいよ」という感じで、アイドルの子たちとお話しさせていただいています。
あとはアイドルと同じくらいマネージャーやスタッフも忙しくて余裕がなかったり、キャリアの悩みを抱えている方も多いです。面談を通して、キャリアの棚卸しをしたり気持ちを整理するお手伝いをしています。アイドルもマネージャーもお互いいっぱいいっぱいの状態だと、トラブルも起こりやすいので息抜きできる場所としてあれたら嬉しいですね。
――「キャリアコンサルタントと面談する」と聞くと、なんだか大事に感じてしまう人が多いでしょうが、歯医者の定期検診くらいの気軽さで面談に行くのがいいのかもしれませんね。
十束:本当にその通りです。「キャリア面談=転職」とか「意識高い」のようなイメージを持っている方が多い印象ですが、もっとゆるっと相談してみてほしいですね。仕事の悩みを相談しにいらっしゃった方が、話しているうちに本当の悩みは家族関係など仕事と全く別のところにあると気づくケースもあります。仕事も含め包括的に相談できる場所が世の中にもっとたくさんあったらいいなと感じます。それで私もキャリアコンサルタントのほかに、メンタル心理カウンセラーの資格、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅲ種を取得しました。
――真面目ですね……!
十束:今は産業カウンセラーの資格を取るための学校にも通っています。私の思い込みかもしれませんが、どうしても“元アイドル”という経歴に対して、「この人に相談して大丈夫なの?」と不安になる方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。そういう方に安心していただくためにも、ひたむきに学び続けるしかないと思っています。
――十束さんはそれだけ真面目だと、アイドル時代も頑張りすぎて大変だったのでは?
十束:とても楽しかったので来世もアイドルになりたいと思っています。でも、過呼吸や円形脱毛症になっているのにステージに立ち続けて、心と体が乖離していた時期もあったのかなと今になっては思います。
当時は生活の全てをアイドル活動に繋げようとしていましたが、今はあえてぼーっとする時間を作るなど、意識して息抜きするようにしています。年齢を重ねて、「こうなりたい」とひたすら上を目指し続けるのではなく、自分自身の「こうありたい」を優先し、いろんなことをゆるやかに捉えられるようになりました。
参照元:Yahoo!ニュース