学びやに戻るガザの子どもたち、重くのしかかる戦争のトラウマ

イスラエルの国旗を撮影した画像

ガザでは子どもたちが学校に戻り始め、これまで避難所として使われていたテントの下や、破壊された学校のがれきの中で授業を受けている。

だが、紛争のトラウマや支援物資の搬送妨害、さらには戦闘再開の恐怖が子どもたちの学習意欲を阻害する懸念がある。

国連児童基金(ユニセフ)によると、戦火による子どもの死者は少なくとも1万4500人、他にも多くが負傷したという。

国連によると、教師も400人以上が死亡した。

支援機関では、今やガザの子どもたちの大半が、紛争に伴うトラウマに対処するためメンタルヘルス面の支援を必要としていると述べている。

子どもたちが、2023年10月7日の開戦により中断したところから学習を再開できるとは限らない。

人権団体「ウォー・チャイルド」で中東地域担当の教育アドバイザーを務めるケイト・マクレナン氏は、その理由として「学習経験の喪失と、戦争による深い心理的影響」を指摘する。

「学校という場所に対してもトラウマを抱える子どもがいる。ふだんは勉強や友達との遊びのために行く安全な場所だと思っていたのに、避難所として使用されてしまったからだ」とマクレナン氏は言う。

1月にはイスラム組織ハマスとイスラエルのあいだで停戦合意が成立した。

国連はガザ教育省の発表をもとに、3月3日の時点でガザの公立学校165校に15万人以上の生徒が在籍しており、7000人以上の教員が動員されていると述べている。

とはいえ、課題は非常に深刻だ。

複数の国連機関やその他国際支援団体が参加する「パレスチナ占領地域教育クラスター」の報告によれば、学齢期の児童65万8000以上が正規の教育を受ける機会を喪失し、約95%の校舎がイスラエル軍の攻撃や戦闘により損傷、その88%では本格的な再建が必要だという。

机や椅子は粉々になり、教材も灰燼(かいじん)に帰したが、イスラエルが支援物資の搬入を妨げているため、再建は進んでいない。

英慈善団体「イスラミック・リリーフ」で広報・渉外対応部門を率いるアルン・マクドナルド氏は、イスラエルによる封鎖が、学習スペースの拡大と損壊した学校の再建を妨げていると話す。

「数百セットの大型テントを(ガザに)搬入して一時的な学習スペースとして使用する予定だったのに、停戦期間中でも認められていない」とマクドナルド氏は語った。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップは、封鎖が継続した場合、再び飢餓が発生する恐れがあると警鐘を鳴らす。

イスラエルは、封鎖は停戦協議でハマスに圧力をかけるためのものだとしている。

「空腹を抱え、空爆が続いていれば、子どもたちが学ぶことなど不可能だ」とマクドナルド氏は言う。

「子どもたちを学校に戻すことは切迫した優先課題だが、そのハードルはあまりにも高い」

今回の紛争は、ハマス主導の武装勢力が2023年10月7日に南部イスラエルを襲撃したことをきっかけにイスラエルがガザ地区への侵攻を開始し、ガザ保健当局によれば4万8000人以上のパレスチナ住民が殺害された。

イスラエル側の集計では、ハマスによる奇襲攻撃で1200人が殺害され、251人が人質となった。

イスラエルは今月、ハマスに圧力を加えるため、食糧や医薬品、燃料のガザへの搬入を停止し、電力供給を遮断した。

支援機関によると、電力遮断によって上水道の供給が停止する恐れがあるという。

国連によれば、高校卒業試験の受験登録を行った生徒は約3万2000人。

だが、試験を滞りなく実施するには、タブレット機器やインターネット接続、充電設備が不足しているという。

支援に対する制限のために、生徒の学習を支援するための大型テントやレクリエーション、心理療法・社会療法のキットも不足している。

国連機関によれば、2月には、基本的な教育物資を運んでいたトラック10台が、事前に許可を得ていたにもかかわらず入域を阻止された。

だが、子どもたちを圧迫しているのは物理的な損害や物資不足だけではない。

マクレナン氏は、「紛争中・紛争後の状況、子どもたちの発達を見ていて分かったことの1つは、心理的なトラウマや子どもたちの心理面・社会面の支援ニーズが非常に深刻であり、脳の発達にも関連しているということだ」と話している。

「脳が学習内容を処理する準備が整っていない状況では、その定着も期待できない」とマクレナン氏は言う。

複数の研究者とUNRWAが昨年行った共同調査によれば、今回の紛争によって、ガザの子どもたちの教育は最大5年間後退させてしまった恐れがあるという。

「教育の機会が失われたことで、ガザのこの世代の子どもたちは生涯にわたる影響を受けるだろう」とマクドナルド氏は語る。

参照元:REUTERS(ロイター)