「耐震診断受けない」マンション 一体なぜ 改修の是非で迷走も

マンションの耐震度をチェックしている人

近年の資材高騰やインフレで、耐震化や建て替えが進まないマンションが全国に数多くある。

南海トラフ巨大地震や首都直下地震の危険が叫ばれる中、耐震性の不十分な共同住宅は全国で約110万戸(2023年時点)に上ると推計されている。

耐震化が難航する一方で、耐震診断すら受けていないマンションも少なくない。

東京23区内、JR山手線のとある駅から徒歩圏内の大通り沿いにある分譲マンション。

壁面のタイルは浮き上がり、地盤沈下のため、建物と路面の間には隙間(すきま)ができている。

耐震性の問題を指摘され、改修や建て替えを7年間も模索してきたが、実現していないという。

管理組合の理事長を務める女性(50代)は「いろいろ試行錯誤したんですが、難しいですね」と漏らした。

このマンションが完成したのは1980年代初頭。

いわゆる「旧耐震物件」だ。

建築基準法で定められた81年6月以降の「新耐震基準」では、震度6強や7にも耐えられる強度になっているが、それ以前の旧耐震基準では、震度5強程度の揺れを想定していた。

この建物が耐震診断を受けると、震度6強から7の地震で「倒壊、崩壊する危険性が高い」という結果。

しかし、理事長は「すぐに売却して引っ越すだけの経済力はなかった」と振り返る。

7年ほど前に耐震改修を検討したが、管理会社から提示された見積もりは2億円近く。

こんな高額の追加負担を提案しても合意は得られない。

理事長は、管理組合の総会に耐震改修の議題を諮ることすら見送った。

代わりに浮上したのが建て替え案だ。

不動産会社とタッグを組み、隣接地と一体的に開発するプランを検討。

タワーマンションを建て、増えた部屋を売却して費用を賄うという青写真を描いた。

隣接地の所有者と数年がかりで交渉したが、承諾は得られなかった。

やむなく、単独での建て替え案を検討していたところに、インフレの波が押し寄せた。

建築資材や施工の費用は高騰。

不動産会社に収支計画を立ててもらったが、想定される建て替え費用は1年あまりで3割も増えていた。

費用の捻出は難しく、計画は頓挫。

改修の費用も、今から工事すれば2億円を大きく超えるのは間違いない。

そうして月日が過ぎてきたが、朗報もある。

主要道路沿いのマンションの耐震改修について、区の補助額が引き上げられていたのだ。

理事長は再度、耐震補強を考えている。

一方で、耐震診断すら受けていないマンションも少なくない。

東京都が24年3月末時点で、都内にある建物のデータを分析したところ、「耐震性がない」マンションは1253棟。

このうち7割に当たる881棟は、その後も耐震改修を行っていなかった。

今後30年以内に70%の確率で起きるとされる首都直下地震で、東京では最悪の場合、19万4000棟以上の建物が被害を受け、約6100人が死亡すると推計されている。

国土交通省が23年度の調査で、耐震診断を行っていないマンション195棟にその理由を尋ねたところ、最多の72棟が「(耐震改修の)予算がない」を挙げていた。

参照元:Yahoo!ニュース