《缶コーヒーが1本50円》関西で注目を集める「激安自動販売機」のカラクリ 展開する企業は「高級住宅地ほど売れ行きがいい」と説明、活用されるのは「賞味期限が切迫する商品」

自動販売機をイメージした画像

関西で“激安自販機”が注目を集めている。

「1缶100円」が当たり前だったのは昔の話で、今は缶・ペットボトルが1本140~180円の値付けとなっているのが目立つなか、「1缶50円」を含む衝撃的な価格設定が実現している。

輸送費、人件費、原材料費が上がって様々な品目で物価が高騰するなか、なぜこうした自販機が設置できるのか――。

一般社団法人日本自動販売システム機械工業会の資料では、2023年12月現在で全国に清涼飲料自販機は197万7200台ある。

全国紙経済部記者が言う。

「2023年は前年比99.2%と微減で、ここ10年で50万台ほど減少している。さらに昨年は清涼飲料の値上げによる売上減少に加え、新札発行やタッチ決済への対応にコストがかかることから自販機の数は大幅に減少したと見られています」

実際、2023年5月には大手各社が25年ぶりとなる値上げに動き、主力商品の希望小売価格が140円といった水準となった。

昨年10月にはペットボトル飲料が値上げされ、炭酸飲料やお茶の希望小売価格が160円から180円に引き上げられた。

そのような状況で、注目を集めるのが関西で展開される「おいでやの自販機」だ。

いつも利用しているという兵庫在住の男性会社員はこう話す。

「遠くからでも目立つ大きな看板で『おいでやの自販機』と書かれ、飲料大手メーカーの商品が50~80円でラインナップされている。初めは躊躇したが、たまたま商品の補充に来ていた担当者から『賞味期限が近いものほど安く販売している』という説明を受けて買うようになった。賞味期限が近いといっても1か月以上あって、本当に間近のものは10円で売られている」

記者が兵庫・西宮に設置された自販機のラインナップを見てみると、たしかに飲料大手の缶コーヒーが1本50円で販売されている。

他にもスポーツドリンクやミネラルウォーターの500mlペットボトルが50円、お茶のペットボトルが70円といった値付けだ。中には100円のペットボトルもあるが、一般的な自動販売機より明らかに安い価格設定だ。

値段を表示する札には「本日の一押し」や「なくなる前に買っといてや」といったコメントも付記されている。

試しに50円の炭酸飲料を買ってみると、出てきた商品の賞味期限は2か月後だった。

店の前にこの自販機を置いている飲食店オーナーはこう話した。

「うちは場所を“賃貸し”しているだけや。あとは(自販機の)担当者が補充をしてくれる。去年の夏は暑かったので1日3回補充した真夏日もあったな。買ってすぐに飲むんやから、賞味期限が迫っていても関係ないがな」

物価高騰のなか、なぜこんなに安い商品を販売できるのか。

この激安自販機を展開する大阪市福島区に本社を置く「大阪地卵」に取材すると、釜坂晃司社長が応じた。

どのような場所に設置しているのか質問すると、釜坂社長は「(大阪と兵庫にまたがる)北摂や阪神と呼ばれる高級住宅地が多い地域を中心に350台ほど設置しています」と答えた。

安さを売りにした店舗などが展開するエリアではないというのは意外に感じられる。

そして、釜坂社長は「物価が高い地域ほど、安さウケするんです」と続けた。

安売り競争に参戦するのではなく、物価が高い地域で安さをアピールするほうが売れるというのだ。

同社の本業は鶏卵、一般食品、清涼飲料、冷凍食品などの卸売り業。

50円といった激安商品を自販機で扱うようになった経緯についてはこう説明する。

「賞味期間が切迫した商品を大量に仕入れてディスカウントショップに卸していたのですが、10年ほど前からスーパーの統廃合でディスカウントショップが激減。自販機で販売をしようということになったが、自販機の多さに驚いた。そうなるとインパクトがないと売れないと考え、50円の商品を販売するようになったんです」(釜坂社長)

この価格設定で利益は出るのだろうか。

「自販機専門でやっているところは、粗利50%とかで設定している。我々は卸業者として粗利8%で商売をやってきたので、場所代や人件費を考慮してそれより粗利が少しでも多いならいいという考えでやっています。もちろん儲けは多いほうがいいのですが、旧型の商品のスポット品もあってなんとか商売になっているという水準です(苦笑)」(釜坂社長)

なかには10円という価格設定の商品もあることについては、「仕入れと販売のバランスで賞味期限がより切迫した商品が残りそうな場合、売れ残るよりいいという考えで赤字で放出しています」と釜坂社長は説明した。

釜坂社長によれば、この10円商売の原点は意外なところにあるという。

「東京で『10円饅頭』が売られているのを見て、大阪・道頓堀で同じように10円の饅頭を販売したところ、もの凄く売れた。家賃が高くて商売としてはうまくいかなかったが、10円はインパクトがあるというのがその時にわかりました。そこで自販機でも在庫処分として赤字覚悟の10円で売っていたら、やはり話題になったわけです」

他の自販機で賞味期限などが迫っていないものでも粗利を下げて100円で売るところが出てきたというが、やはり50円や70円の設定は大阪地卵のように切迫商品を扱わないとできないという。

同社の自販機で値段表示の横に「本日の一押し」「なくなる前に買っといてや」といったコメントが添えられていることについてはこう説明する。

「やはり何か書いていないとおかしい。(ディスカウントスーパーの)オーケーさんが『オネストカード』として正直な商品情報を貼り出しているのを見て、商売はこうあるべきだと感じ、自販機でやり出した。最近は商品が目まぐるしく変わるので貼り紙が追いつかないのが状況ですが(苦笑)。他の自販機と差をつけるために踏ん張っていきます」(釜坂社長)

物価高のなかで実現する安さには理由があり、それを正直に伝えることで消費者も受け入れる、という流れが生まれているようだ。

参照元:Yahoo!ニュース