中国個人投資家がディープシークで一変、AIモデルに熱視線

AIをイメージした画像

勝ち目がないなら手を組め――。

これが「ディープシーク」などの人工知能(AI)を投資に取り入れ始めた中国の個人投資家らの合い言葉だ。

政府がコンピューター主導のクオンツトレーダーらを取り締まり、「吸血鬼」呼ばわりされた昨年とは様変わりした光景が広がっている。

オンラインでは短期集中コースが続々と生まれ、街の教室はAIモデルを使って市場平均以上の利益を得ようと目を光らせる個人トレーダーでいっぱいだ。

それ自体がクオンツファンドを後ろ盾とするディープシークの人気は、中国株式市場の流れを変えただけでなく、7000億ドル規模の中国のヘッジファンド業界に対する認識も一変させた。

個人投資家が支配する中国の株式市場では、ディープシークの急速な採用がブローカーや資産運用会社にも変化を起こすと同時に、投資家に新たなリスクももたらしている。

「これからはデジタルの時代だ。AIは必須になる」。

2月のある週末、AIを使った取引を学ぼうと上海の教室に押し寄せた個人投資家を前に、ホン・ヤンジュン氏はこう語りかけた。

「未来の戦争がドローンとロボット同士の戦いになるのと同じく、株式市場はコンピューター同士の戦場になる」

1年前、コンピューター主導のクオンツファンドは個人投資家から「吸血鬼」と悪し様に言われ、規制当局は市場に不公正さとボラティリティーを招いていると問題視。

取り締まりの対象にしていた。

しかし先月の週末、自動取引戦略を採用する中国のヘッジファンド、アルファ・スクエアド・キャピタルの創業者マオ・ユーチュン氏が開いたAIを使った株式取引の講座には、1人当たり1万5800元(2179.91ドル)の受講料を払う個人投資家が集まった。

主催者が売り物にしたのは、ディープシークの親会社ハイフライヤー・クオント(幻方量化)とアルファ・スクエアドの地理的近さだ。

中国のAI新興企業ディープシークは低コストで大規模言語モデル(LLM)を構築して米シリコンバレーをあっと言わせ、中国株上昇の立役者となった。

一方、中国のソーシャルメディア上には、ディープシークを使って企業評価や銘柄選定、取引戦略プログラミングなどを行う方法を教える講座がひしめき合っている。

「クオンツのツールを使って銘柄を選ぶと時間を大いに節約できる」と語るのは杭州市のトレーダー、ウェン・ハオさん。

「ディープシークはプログラミングにも使える」と言い、売買のタイミングを見極めるのにコンピュータープログラムを用いていると説明した。

ブラックロックやルネッサンス・テクノロジーズ、トゥー・シグマなどの米巨大ファンドも、しばらく前からAIを投資に活用している。

アナリストは、ディープシークのオープンソース型モデルが登場したおかげで、中国では小規模な資産運用会社や個人投資家でさえ恩恵を受けられると言う。

中国では米国の生成AI「チャットGPT」は使用が禁止されている。

クオンツ取引に対する認識が好転したのと同じタイミングで、ここ数年低迷していた中国株も今年は好スタートを切った。

ゴールドマン・サックスによると、MSCI中国株指数の年初来のパフォーマンスは過去最高で、ブローカーは競ってAIモデルをプラットフォームに取り入れようとしている。

湘財証券のジョウ・ルフェン社長は「将来、中国の投資家は投資決定と売買注文の方法をがらりと変えるだろう。顧客は以前ならウェルスマネジャーに投資アドバイスを求めていたが、これからはディープシークに聞く」と語った。

フィンAI・リサーチの首席アナリスト、ラリー・ツァオ氏は、ディープシーク人気の理由について、コスト効率が高く、思考力に優れ、チャットGPTと違って入手可能で、中国政府も推進しているためだと説明する。

ただツァオ氏は、投資家がAIモデルに絶大な信頼を寄せていることには驚いており、「人々はファイナンシャル・アドバイザーズよりもAIモデルの方を信頼しているが、少なくとも現段階ではそれは勘違いだろう」と話した。

AIを駆使した取引を行うヘッジファンド、バイオン・クオントのファン・ジー最高経営責任者(CEO)は、ディープシークがクオンツファンドの社会への寄与について個人投資家の認識を変えたことだけは確かだと言う。

「われわれが個人投資家に損失をもたらしたとは考えていない。実際には流動性を提供し、市場をさらに効率的にしている」とジー氏は語った。

参照元:REUTERS(ロイター)