「日給だいたい2万円」ザブングル加藤 コンビ解散で本業のピンチを救った「消防設備仕事の誇り」とさんまからの「言葉」

副業をイメージした画像

お笑い芸人もYouTubeや趣味を活かした仕事を副業にする時代だ。

そんななか、ザブングル加藤さんが狙ったのは「消防設備」の副業。

名ギャグ「カッチカッチやぞ」を封印して、真摯な眼差しで仕事について話してくれた。

──ザブングル加藤さんは「消防設備士」の副業を始めて5年になるそうですね。本業のかたわら、副業で収入を得る芸人さんは多いですが、「消防設備士」との二足の草鞋は珍しいケースかと思います。消防設備士とは、どんな仕事なのでしょうか?

加藤さん:消防設備士は、ビルやマンションなど建物内の消火器やスプリンクラー、火災報知器、誘導灯などの防災設備が稼働するかを点検、整備して回る仕事です。これまで、すでに1万室以上を点検しています。

── 1万室とはスゴイ!現在、消防設備士の仕事で、どれくらいの収入を得ていらっしゃるのですか?

加藤さん:日給でだいたい2万円くらいですが、午前中でその日の仕事が終わってしまうときがあります。平均すると週に2、3回の勤務なので、月20万円前後というところでしょうか。この仕事の魅力は、なんといっても仕事が安定していること。消防法で半年に1度の点検が義務づけられているので、仕事が途切れることがないんです。芸能の仕事は不安定ですが、副業で安定収入が得られることで、気持ちの面でも落ち着いてお笑いと向き合うことができます。

じつを言うと、2021年に相方がお笑いをやめてコンビを解散したとき、正直、僕もお笑いをあきらめて、別の仕事をしたほうがいいのかなと考えたことがありました。でも、消防設備の副業に出会ったことで「これがあれば、お笑いを続けられるやん!」と。僕にとってひと筋の光でしたね。おかげで、こうしていまも大好きなお笑いの仕事を続けることができている。すごくラッキーだったなと思っています。

── どういうきっかけで、消防設備士の仕事と出合ったのですか?

加藤さん:2019年に消防設備会社の社長である吉村さんという方とテレビ番組でご一緒しました。そのときに冗談半分のような感じで「加藤さん、芸能界の仕事は不安定だから、安定した消防設備士の副業をやりませんか?」と誘われたんです。ただ、当時は、闇営業の謹慎処分が明けてすぐのころ。収入はかなり減りましたが「ここから頑張って盛り返していくぞ」と、お笑い1本でやって行く気満々だったので、その場は笑って聞き流していたんです。

ところがその後、コロナ禍で芸能の仕事が自粛になると、謹慎とコロナのダブルパンチで収入が4分の1くらいまで減ってしまって…。「さすがにまずいぞ」と思いました。養う家族がいるし、家のローンだって残っています。そんなときに副業の話を思い出し、連絡したのがきっかけでした。消防設備の仕事は国家資格がないとできないので、資格を取得するまで補助的な業務をしていました。

それほど難しい試験ではないと思うのですが、消火器なんて、これまでの人生で興味を持ったことがなかったので、初めは勉強が苦痛でした。ですが、消火器にはいろいろと種類があって場面に応じて使いわける必要があるなど、消防設備について知るうちに、「これは命にかかわる大事なことだな」と。試験では消火器を分解して粉を入れ替えたりもしましたね。

── 消火器にいろんな種類があるなんて、知りませんでした。

加藤さん:僕もそうでした。その後、さらに講習を受けて、点検資格者1種・2種を取り、晴れて消防設備の仕事ができるようになりました。たとえば、天井に煙の探知機がある部屋だと、実際に煙を出して稼働するかどうか確認します。こうした設備は、建物内の各部屋だけでなく、廊下やトイレなどにもあるので、大きなビルだとものすごい数に。タワーマンションだと5人体制のチームにわかれて、1週間ほどかけて行います。

この仕事を始めてから、プライベートでもオフィスビルや商業施設に行くと、消防設備が目に入るようになりました。ビジネスホテルに泊まったときも、まず避難経路をチェック。「もしも火災が起きたらどう逃げればいいか」と考えてしまう。一種の職業病ですね(笑)。

── 体力的にはハードな仕事なのですか?

加藤さん:いえ、建設現場や引っ越しのバイトのように体力を使う作業ではないので、キツい仕事ではないんです。いろんなビルを回ったりして移動は多いですが、僕としては、ほどよい運動という感じ。女性の少ない職場ですが、体力はさほど必要ではないし、危険な仕事でもないので、女性にも向いていると思います。女子寮など女性専用の場所も多いので、参入する方が増えるといいですよね。

── 意外でした。てっきりご自慢の筋肉を活かした副業なのかと。

加藤さん:僕としてはスポーツジムに行くような感覚で消防設備の仕事に行っていますね。マンションの点検ではエレベーターを使わず、できるだけ階段を上り下りしたり、消火器を運ぶときも「ダンベル」だと思って、筋肉を意識して運んだり。筋トレ感覚です。適度な運動になるから健康にもいいし、いろんな場所に行くので、気分転換にもなる。遠方でのビル点検の日なんて、ちょっとした地方ロケに行っているような気分で「さあ皆さん、今日はこのマンションにやってきましたよ!」みたいな感覚で楽しんでいます(笑)。

── 発想がポジティブでいらっしゃいますよね。でも、顔が知られているので、声をかけられたりしませんか?

加藤さん:思いきりバレますね(笑)。「ギャグをやってください」なんて言われますが、仕事中ですし、周りに迷惑がかかるといけないので丁重にお断りをしています。ただ、そんなに驚かれたりはしません。たとえば、超売れっ子芸人が来たら「なんであなたが?」と言われるのでしょうけれど、世間の方たちも「なるほど、生活のためにこういう仕事もやってるんだね」と察してくれるようで、温かく見守ってもらっています。

── 副収入を得るためなら、YouTubeチャンネルを始めるといった方法もありますが…。

加藤さん:昔から人と違うことをやりたいタイプで、みんながワーッと行くところが苦手なんです。だからYouTubeはやらないですね。昔、明石家さんまさんが「芸人を目指すなら人と違うことをやるほうがいい」とおっしゃっていたのが、ずっと頭にあります。

現に、芸人で消防設備士の仕事をやっているのって、僕ぐらいだと思います。おかげで、全国の設備会社の講演会や防災のイベントに呼んでいただくことも。防災系のイベントは、参加率がかなり低いらしいのですが、芸人が防災の情報を伝えることで興味を持っていただけるのか、たくさんの方にご参加いただいているようでありがたいですね。こうしたことは最初から狙っていたわけではないのですが、ニッチなジャンルに参入したことで「芸人×消防設備士」というユニークなキャリアになり、結果的に正解だったなと思います。

── イベントでは防災設備の使い方などのレクチャーをされることもあるのですか?

加藤さん:防災の設備って、どこをどうすればいいのか、いざというときにとまどってしまいますよね。実際、火災が起きても、消火栓や消火器などの設備は結局、使われずに終わることがほとんどなんです。たとえば、火災を知らせる「消火栓」を開けると、ホースが出てくるのですが、こうした防災設備の使い方を知っている人は決して多くありません。せっかく命を救えるものが目の前にあるのに、使い方を知らなければ意味がありません。自分や大切な人たちの命を守ることにもつながるので、ぜひ防災訓練やイベントに参加して、防災機器の正しい使い方を知ってほしいですね。

参照元:Yahoo!ニュース