ネットに抜かれ「テレビ離れ」、地方の民放の対策は サーモン陸上養殖・地元中小企業支援・系列局内で再編

地方の民間放送事業者(民放)が、環境変化の波にさらされている。
主力のテレビ事業はインターネットの動画配信サービスなどの影響を受けているため経営基盤の強化が不可欠となっているほか、ラジオやBS放送では異業種からの新規参入企業との競争も始まっており、新時代を切り開くためのかじ取りが問われている。
「本番、入ります。3、2――」
福岡市中央区の九州朝日放送(KBC)本社にあるスタジオで2月中旬、夕方の情報番組「ぎゅっと」の生放送が行われていた。
同社が1月に始めた番組で、水色を基調としたセットを背景に、出演者が地元のニュースなどを紹介した。
テレビ朝日系列のKBCは自社制作番組に重心を置いており、全番組に占める比率は2割と、1割台が一般的な地方局の中で高い。
朝の時間帯では約40年前から情報番組の枠を設けているが、今回、キー局の番組を放送していた夕刻に同社として初めて自社制作番組を充てた。
森君夫社長は「地域密着を徹底し、幅広い層にアプローチする」と狙いを語る。
民放によるテレビ放送は1953年、日本テレビ放送網が関東で放送したのが始まりだ。
九州・山口・沖縄では、TBS系列のRKB毎日放送(福岡市)が58年に全国6番目の民放としてスタートした。
翌59年には長崎放送(NBC、長崎市)や熊本放送(RKK、熊本市)、山口放送(KRY、山口県周南市)などがそれぞれ放送を開始。
95年に琉球朝日放送(QAB、那覇市)が開局し、地上波の放送局は9県で計29社となった。
各局で長く続く番組も生まれ、テレビ熊本(TKU、熊本市)の若者向け番組「若っ人ランド」は、放送開始から37年を超えた。
福岡放送(FBS、福岡市)を代表する情報番組「めんたいワイド」も、今年10月に30年の節目を迎える。
自宅で様々な番組を楽しめるテレビは「茶の間の主役」としての地位を保ってきたが、近年は動画投稿サイトや配信サービスの浸透で逆風が吹き始めている。
総務省が2024年6月に公表した調査結果によると、23年のテレビの視聴時間(録画を除く)は全年代の平日平均で135.0分と、ネット(194・2分)より約1時間少なかった。
休日もテレビがネットを約25分下回った。
平日のテレビの視聴時間は20年に初めてネットに抜かれ、休日も22年に逆転された。
地方の放送局にとっては「テレビ離れ」が加速すれば広告収入が脅かされる恐れがあり、「このままでは生き残れない」(地場民放首脳)との危機感が強い。
「『地産他消』も充実させるべき」 難局を打開するため、経営基盤の強化に乗り出す民放が相次いでいる。
RKBを傘下に持ち、九州・山口・沖縄の民放で唯一の上場企業として福岡証券取引所に株式を上場しているRKB毎日ホールディングス(福岡市)は23年、市場の成長が見込めるサーモンの陸上養殖を展開する会社を設立したほか、地域企業の合併・買収(M&A)も積極的に進める。
佐藤泉社長は「地域経済に貢献でき、将来の収入源として期待している」と話す。
MRT宮崎放送(宮崎市)は昨年8月、人工知能(AI)を使って企業の経営状況を分析する東京の新興企業と業務提携し、地元の中小企業を支援する事業を始めた。
大分放送(OBS、大分市)は、大分銀行や地場百貨店のトキハなどと共同でデジタルサービスの新会社を4月に設立する。
多角化ではなく、系列局内での再編に踏み切ったのはFBSだ。
札幌テレビ放送(札幌市)、中京テレビ放送(名古屋市)、読売テレビ放送(大阪市)の日本テレビ系列3社と4月1日に経営統合し、認定放送持ち株会社「読売中京FSホールディングス(FYCS)」を設立する。
統合後も各社で放送を続けて人員も維持しつつ、グループで番組制作力を高める狙いだ。
放送局の経営に詳しいコンサルティング会社「KPMG FAS」の森谷健・執行役員パートナーは「地方局の経営は厳しく、統合や連携の動きは加速するだろう。設備投資の負担軽減は急務で、系列や県域を超えた協力もありうる。収益力向上には、地域に根ざした制作力を生かし、地方から国内外へコンテンツを発信する『地産他消』のような取り組みも充実させるべきだ」と指摘している。
放送機材や中継局など多額の費用がかかる設備の負担を減らすために放送局同士で連携するケースも広がりつつある。
KBCや南日本放送(MBC、鹿児島市)は、局の情報を提供するスマートフォン向けアプリで、南海放送(松山市)が開発したプラットフォーム(基盤)を利用している。
アプリの開発費を抑えるためで、系列の異なる全国10社以上が南海放送の基盤を使っている。
MBCと南海放送では、アプリと連動した共同企画も実施した。
放送設備は「数年ごとに(更新などで)億単位の投資が必要」(関係者)とされるため、国も連携を後押ししている。
2023年5月に成立した改正放送法・電波法でNHKや民放が中継局の設備を共同利用することなどが認められ、NHKは昨年12月、中継局の共同利用を進めるための子会社を設立した。
参照元∶Yahoo!ニュース