「赤字路線存続を」JR株を買う沿線自治体 〝モノ言う株主〟提案をJRは聞き入れるのか

株主をイメージした写真

地域の足を支える鉄道の廃線や減便に対抗するため、株主総会での発言を視野に入れ、鉄道会社の株を買う沿線自治体が増えている。

実際に、廃線や減便に歯止めがかかるかどうかについては疑問符がつくものの、沿線自治体からは同様の悩みを抱えるほかの自治体とも連携し、事態を打開しようという狙いがみえる。

京都府亀岡市は2月、新型コロナウイルス禍の影響で減便されたJR山陰線(嵯峨野線)の復便などを求め、JR西日本の発行済み株式総数の約0.006%にあたる3万株を約8300万円で購入した。

市によると、今回の株式取得で株主提案が可能となる。

亀岡市は山陰線の沿線自治体と連携し、同様の「モノ言う株主」を増やしたい考えだ。

「ほかの自治体にも(JR西の株購入)を依頼している。これから広がっていくのではないか。JRに課題を感じる自治体にしっかりと声を掛けたい」。

株購入直前の1月末、桂川孝裕市長は記者会見で語気を強めた。

嵯峨野線の亀岡―園部(京都府南丹市)間は令和4年3月、新型コロナウイルス禍による利用者減などで減便されたが、コロナ禍の収束後、観光客は急回復しており、特に同線の京都―嵯峨嵐山間の混雑ぶりも課題となっているにもかかわらず、現在も元に戻っていない。

市は、このままでは人口減少や地域経済の停滞などの課題に対応できないと判断し、JR西の株の取得に踏み切った。

JR西の株は、ふるさと納税の寄付金を財源に、証券会社を通じて購入したという。

桂川市長は今後、株主総会に直接出席し、復便などを直接呼びかける考えだ。

岡山県真庭市も昨年7月、JR西の株式3万4千株を約1億円で取得した。

持ち株比率は亀岡市と同じ0.006%。

真庭市では、年間251万円が見込まれる配当額を市内を通るJR姫新線(兵庫・姫路駅-岡山・新見駅)の利用促進に活用するとしているが、最大の目的はここではない。

太田昇市長は「重要な市民の足である姫新線の存続と利便性向上の取り組みを強く推進していく意思を示す」と説明。

「株主として覚悟を持ち資本参加することで発言力を高めるとともに、JR西とさらなる連携強化を図り、路線運営に対して責任を持つ」と強調する。同じく株式を取得した亀岡市とも情報共有しているとしたうえで、同様の課題を抱える自治体に対し「全国市長会などを通じてこの手法を伝え、株主として連携し現状の仕組みを見直すきっかけにすることなどを想定している」とした。

次回の株主総会について、市くらし安全課は「現時点では出欠も含めて未定」としながらも「最も効果的と思われるタイミングでの出席および発言を検討している」と含みを持たせた。

JR西の対応はどうか。

同社の長谷川一明社長は2月19日の定例会見で「沿線の自治体は私どもにとって非常に重要なステークホルダー(利害関係者)」としたうえで、「株主であるかないかにかかわらず、日々話し合いをさせていただく関係にある。

株主かどうかで、向き合い方は変わることはない」と述べるにとどめた。

流通経済大学経済学部・板谷和也教授(交通政策)20年ほど前に完全民営化したJR各社にとって、ステークホルダー(利害関係者)である株主の声を聴くことは重要だ。

自治体にとっては株を少額でも取得し、総会で質問するなど一定の発言力を持つことで、少しでも自治体の声を届けようとの狙いがあるのだろう。

ただ、株を持っていないより影響はあるだろうが、全体の中では少数株に過ぎない。

大株主が自治体の主張を認めるなら話は別だが、幅広く全体の利益をみるのが通常だし、効果は限定的になるだろう。

民営化の際に残すとしていた路線が廃線や減便の議論となるのは、地元にとって感情的になるのも無理はないが、利用者がごくわずかでも路線を維持したい場合では、沿線市町村が参画して第三セクターで残す考えなどもある。

今回のような株式取得も一つの方法だが、路線をどうしていくのかJRに要望するだけではなく、自治体側も知恵を出し合って方策を考えていくのが望ましい。

今回は、自治体が鉄道会社の株主になるということで注目を集めたが、平成23年の東日本大震災後、関西電力の株主である大阪、神戸、京都の3市が合同で株主提案をするなど、これまでにも自治体が〝モノ言う株主〟となった事例はある。

東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故の影響で、原発依存に対する不安が増したこともあり、大阪市では同年6月の株主総会に当時の平松邦夫市長が株主として出席、中長期的に原発依存からの脱却と新エネルギーへの転換を目指す「脱原発」を提唱した。

同年11月の市長選で初当選した橋下徹氏は翌年の株主総会で「速やかな全原発の廃止」などを株主提案したが、反対多数で否決された。

神戸市や京都市も東日本大震災以降、市長が株主総会に出席し、脱原発依存について共同で株主提案するなどしてきたが、いずれも否決されている。

関電のホームページによると、令和6年9月末時点では大阪市は関電の株式7.65%を保有し、信託口を除けば筆頭株主だ。

神戸市は同3.06%を保有、京都市によると同市の保有は0.5%未満にとどまる。

参照元∶Yahoo!ニュース