なぜ日本人も支払う?導入進む「宿泊税」に「疑問と課題」が山積みのワケ

宿泊税をイメージした画像

2024年の訪日外国人(インバウンド)数とインバウンド消費額が過去最高を更新した。

インバウンド消費額は8.1兆円と、自動車に次ぐ「輸出産業」となっている。

ただ、その一方で、人気観光地では混雑、渋滞、ごみの増加、地域住民が路線バスに乗れないなどの問題が起きている。

ごみ処理やバスの増便、トイレの整備などのコスト増にどう対応するのか。

そこで、最近、導入が広がっているのが、観光税の一種である「宿泊税」である。

東京都(2025年内をめどに見直し)、大阪府、京都市などに続き、多くの自治体が導入を探っている。

本稿では、宿泊税、それに対する自治体の不満や課題を踏まえ、増大する観光関連のコストをどう手当てすれば良いのか考えてみたい。

2024年の訪日外国人(インバウンド)数が過去最高を更新した。

コロナ下でほぼ鎖国状態だったのが遠い昔のように、前年比47.1%増の3687万人と驚異的な伸びを示している。

2024年のインバウンド消費額も8.1兆円と過去最高を更新した。

インバウンド消費は、GDP 統計(国民経済計算)の中で「サービス輸出」に分類される。

「居ながら輸出」と表現されることもあるが、2024年には半導体等電子部品を抜いて、なんと、自動車に次ぐ規模となった。

飲食店業・宿泊業など観光関連業界をはじめ、小売、農林水産業、製造業、運輸業など、多くの業界が恩恵を被っている。

ただ、2022年10月のコロナ水際対策の本格緩和以降、急速に増加したインバウンドは負の側面も見せている。

東京、大阪、京都など特定の地域にインバウンドが殺到することで混雑、渋滞、ごみの増加、地域によっては住民が公共交通機関に乗れないなど、さまざまな問題が起きている。

観光地ではトイレや観光案内所の整備、ごみ処理、インバウンドが私有地に立ち入らないように設置する監視カメラ、警備員や交通誘導員の配置、観光地と最寄り駅を結ぶバス便手配等に対する財政負担が増している。

こうした費用にどう対応すれば良いのだろうか。

日本には約1700の地方自治体があるが、多くは財政難にあえいでおり、観光予算を増額するのもままならない。

そこで、オーバーツーリズム対策の財源などとして、昨今、導入が広がっているのが観光税の一種である宿泊税である。

観光振興を目的に課される税金は一般的に観光税と言われる。

そのうち自治体レベルで課すものに宿泊者に課税する宿泊税等がある。

2000年、地方税法改正で地方自治体が「法定外税」を新設できるようになった。

法定外税には使途を特定しない「法定外普通税」と使途が特定されている「法定外目的税」があるが、宿泊税は法定外目的税である。

徴収すればそのまま自治体の収入になるので、観光関連の財源として有効である。

2002年、日本で最初に宿泊税を導入したのは、最もリッチな自治体・東京都だった。

石原知事(当時)の肝いりで観光案内所の設置などに使われたが、当時はインバウンド数も524万人と少なく、財政基盤が強い東京都が宿泊税をとることに反発の声も上がった。

東京都の後に続く自治体はしばらくなかった。

宿泊税導入に踏み切る自治体が相次いだのは、インバウンドが急増した2010年代後半以降である。

大阪府(2017年)、京都市(2018年)、金沢市(2019年)、ニセコ町に隣接する北海道倶知安町(2019年)など、2025年2月時点で全国11自治体が導入している。

このほか北海道、宮城県、広島県、札幌市、仙台市なども議会で宿泊税条例を可決し、北海道赤井川村と静岡県熱海市は導入間近である。

沖縄県、千葉県、熊本市、栃木県那須町なども導入に向けて動いており、観光振興の財源として宿泊税を利用しようという動きが全国的に広がっている。

すでに宿泊税を導入している京都市や東京都、大阪府、倶知安町では引き上げの動きもある。

京都市の現在の宿泊税は宿泊者1泊当たり200~1,000円だが、条例改正案では6,000円未満は200円、6,000~2万円未満は400円、2万~5万円未満は1,000円、5万~10万円未満は4,000円、10万円以上は1万円である。

客数減少を危惧する向きもあるが、1泊10万円以上払える人にとって、1万円はおそらく誤差の範囲だろう。

京都市は、2026年3月の適用を目指している。

ところで、宿泊税はどのように使われているのだろうか。

宿泊税は観光振興を目的としているため、観光施設の整備や改修、観光案内所の運営、交通インフラ整備、文化財の保護や修復などに使われることが多い。

2023年度の宿泊税収が52億円と、日本で最も同税収が多い京都市を見ると、無電柱化などの景観美化、観光地のごみの回収、混雑対策として始められた「観光特急バス」新設、京都駅整備などに使われている。

宿泊税の効用は観光関連の財源になるだけではない。

逆説的ではあるが、税金を課すことにより、高くてもいいからそこに泊まりたいという消費意欲の高い客を呼び込むという効果もある。

日本の宿泊税は現時点でおおむね数百円のささやかなものだが、引き上げることで数から質への転換も促せる。

宿泊税引き上げを図る自治体がある一方で、宿泊税導入でもめる自治体もある。

元々、宿泊事業者は宿泊税導入に反対するケースが珍しくない。

京都や大阪、東京、ニセコのような大人気の地域であれば導入しても客足に影響は出ないだろうが、インバウンドもあまり訪れないような地方では、客数が減少するかもしれないと危惧するのである。

宿泊税を導入すると宿泊施設の手間も増える。

約3%の手数料はもらえるが、事務手続きや徴収管理などの作業は増えるし、「どうして宿泊税を払わなければならないのか」と宿泊客に問われた時、説明しなければならない。

宿泊税導入の条例案が可決されたが、一部の宿泊業者が反対の姿勢を見せているのが宮城県と仙台市である。

反対する宿泊業者からは「東北の観光は回復途上で、オーバーツーリズムが問題となっている地域とは状況がまったく違う」「使途が不透明」「自治体からの説明が不十分」などの不満が噴出している。

自治体が宿泊税の導入を図るのであれば、財政状況や導入のプラス面だけでなく、集めた税金を何に使うのかも丁寧に説明する必要があるだろう。

導入後の情報公開も重要である。京都市や福岡市はウェブサイトで使途を細かく公開しており、北海道倶知安町を走る無料シャトルバスには「宿泊税活用事業」のステッカーが貼ってある。

このように、一部で反対の動きがあるものの、人気観光地を中心に宿泊税導入の動きが続いている。

そこでふと疑問が湧いてくる。

一部地域にインバウンドが殺到して大変なことになっているのは分かるが、観光目的でもない日本人の出張者からも宿泊税をとるのか。

同様のことを考えるのは筆者だけではないようで、宿泊税導入を目指してパブリックコメントを募集した札幌市には「インバウンドだけから徴収すべき」「観光目的でない宿泊者は免除すべき」との意見も寄せられた。

ちなみに、札幌市の見解は「税の公平性の観点から、日本人と外国人また、市民、市民以外といった区分で異なる税率とすることは難しく適当ではない」「宿泊目的や宿泊料金の多寡に関わらず、宿泊者は一定程度の行政サービスを享受するので免税点は設けない」だった。

マレーシアのようにインバウンドのみを対象とする例もあるが、日本の自治体でインバウンドだけから徴収している例はない。

インバウンド主体で負担してもらう方法はないのか。筆者の頭に浮かんだのが米国のESTAである。

ESTAは、外国人がビザなしで米国に入国する場合に、取得する必要がある電子渡航認証のことである。

米国国土安全保障省が2009年から義務化したもので、公式ウェブサイトから申請手続きを行い、渡航認証を完了させなければならない。

当初、手続き費用は14ドルだったが、2022年に21ドルに値上げされた。

米国は「渡航者の適格性を判定するため」と説明していたが、なぜ面倒な手続きを強いて費用を徴収するのか。

筆者は申請するたびに「お金が欲しいだけだろう」と邪推していた。

あながち的外れでもなかったようで、21ドルのうち、観光客誘致のためのプロモーションに17ドルも使われている。

欧州にも同様の制度導入の動きがあり、2025年から日本人が欧州に渡航する際、欧州版ESTAとも言える「ETIAS」を申請することになる。

導入日程は未定でお値段は7ユーロである。

観光税と言えば、日本でも2019年1月、国際観光旅客税が導入された。

出国する際、外国人と日本人の双方から徴収するもので、出国1回につき1,000 円である。

どうして日本人と外国人が同額なのか、1回1,000円は安すぎないか、などと疑問の尽きない制度ではある。

宿泊税は観光振興の財源として有効だが、すべての自治体が導入可能な状況にあるとは言えない。

観光に係るコストをどう手当てするのか、議論を深める時期に来ている。

参照元∶Yahoo!ニュース