被災3県のインフラに年565億円、震災前の1.7倍 小学校再建10年で閉校

東日本大震災後に防潮堤や道路などが新たに整備された結果、岩手、宮城、福島3県と沿岸37市町村のインフラの維持管理費が、少なくとも年565億円に上ることが読売新聞の調べでわかった。
実に震災前の1.7倍になる。
各自治体はその費用の捻出に頭を抱える。
震災から14年。
国が先導し、約40兆円を投じた復興の実相を追った。
震災の津波で全壊し、2014年に約12億円をかけて再建された岩手県山田町立船越小学校が昨年3月、わずか10年で閉校した。
海抜24メートルの高台に立つ鉄筋コンクリート2階建てのまだ新しい校舎には、町の教育支援施設が入る予定だが、具体的な活用方法は決まっていない。
「こんなに早く閉校することになるとは」。
地元の自治会長佐々木善朗さん(74)は嘆く。
震災前から少子化は進んでいた。
しかし、町教委は統廃合ではなく、再建を求める保護者の意見を尊重した。
国が震災後の5年間を「集中復興期間」として、復興事業を全額負担することも大きかった。
町は20年、少子化の進行を理由に町内の全9小学校のうち8校を2校に統合したが、再建間もない船越小は見送られた。
しかし、児童の減少は続き、別の小学校に統合された。
町は、災害公営住宅や道路137路線なども復興事業として整備した。
道路を含む公共施設の保有面積は、21年までの6年間で38%増。
道路だけで維持管理費は震災前の6倍を超える。
24年度末の町債残高は約148億円で9年連続増の一方、貯金にあたる財政調整基金は約7億円に減る見込みだ。
「財源不足に人員不足、資材や燃料の価格高騰もある」。
町の担当者は頭を抱える。
国の巨額支援が、あの壊滅的な状況から復興を推し進めた。
その「副作用」に悩むのは山田町だけではない。
岩手、宮城、福島県では、国の手厚い財政支援により真新しい建物や道路、巨大防潮堤が相次いで誕生した。
その維持管理費が被災自治体の財政を圧迫しかねない事態となっている。
読売新聞は1~2月、3県と37市町村の計40自治体に「公営住宅」「海岸保全施設(防潮堤や水門など)」「道路」「学校・医療施設」の維持管理費を質問し、震災前と最新を比較した。
岩手県と12市町村が総額109億円で49%増、宮城県と15市町が同354億円で84%増、福島県と10市町が同102億円で53%増だった。
被災地では、壊滅的状況だったまちが再建され、人でにぎわう施設もある。
仙台市や宮城県名取市は震災前よりも人口が増えた。
しかし、3県の人口は2050年までの30年間で21~35%の減少が予想される。
仙台市も28年をピークに減少に転じるとされる。
インフラは維持管理のほかに改修も必要だが、人口減は税収減につながるため、自治体にとって予算の確保が今後の課題になる。
自由意見では岩手県と3県の17市町が、維持管理費の負担増へ懸念を示した。
3県の13市町は将来の歳入減に言及し、「国の財政支援を維持管理へシフトしてほしい」(岩手県久慈市)、「職員数が削減され、維持管理を満足に行えなくなる」(福島県富岡町)とした。
国土交通省は、次の災害に備え、仮設住宅用地の確保や産業、教育など分野別の復興方針を決める「事前復興計画」の策定を全国の自治体に推奨している。
しかし、同省が都道府県と全国1741市区町村に行った調査では、昨年7月末時点で「策定済み」はわずか2%にすぎない。
東北大災害科学国際研究所の今村文彦教授(津波工学)は「事前復興は災害ありきのネガティブなものではない。地域の課題を明らかにし、持続可能な街づくりにつながる」と指摘する。
宮城県南三陸町は震災後、町営19漁港の集約計画を打ち出した。
だが、漁業者の反発で断念。
約65億円かけて全ての漁港を再建した。
町は23年度までの5年間で、漁港の補修などに約3億円を支出した。
町にとって小さい額ではない。
漁業人口は震災前の7割以下だ。
「震災直後は皆、冷静な話し合いができなかった。災害を想定した復興のあり方を平時から議論しておくべきだった」。
佐藤仁町長は自戒を込めて語る。
参照元:Yahoo!ニュース