東ハト新商品「パックル」が「カール」に激似と話題 法的にはセーフorアウト?弁護士の見解は

弁護士をイメージした画像

菓子メーカーの東ハトが2月3日に発売したスナック菓子の新商品「パックル」が、明治が発売している「カール」にそっくりだとして話題になった。

東ハトの発表によると、パックルは「パクッと食べやすいクルッとした形で、頬張りやすく、満足感のあるコーンスナック」で、まろやかチーズ味とコク旨カレー味の2種類がある。

関東などの一部エリアで先行販売し、順次全国発売するという。

このパックルの形や包装の色などがカールに激似だとネットなどで指摘する声が相次いでいる。

カールは1968年に「スナック菓子という概念がなかった日本に初めて登場した」(明治ホームページ)とされ、イメージキャラクターの「カールおじさん」とともに全国的な知名度を誇る菓子だが、2017年以降はチーズあじとうすあじの2種類を西日本限定で販売されている。

編集部では、パックルとカールそれぞれ2種を購入。パックルのコク旨カレー味やカールのうすあじも入手したが、味がまったく異なり比較が困難なため、パックルのまろやかチーズ味とカールのチーズあじを比べてみた。

包装の色が同色系であるほか、スナック菓子を噛んだ際の擬音語とみられる「サクッ‼︎」(パックル)、「サク!」(カール)の表記位置や菓子の割れ目から擬音語が出ているかのような表現方法などが似ている。

パッケージを開けて出てきた菓子の形状も似ていた。

食べ比べてみた味は、交互に食べるとパックルの方がやや濃いめでチーズのにおいも強い印象だが、編集部員が実物の見えない状態でどちらの菓子かわからずに食べてみて当てようとしても不正解が続出するなど、判別が容易でない程度には似た味だったようだ。

編集部の総評としては「かなり似ているスナック菓子」で一致したが、法的には特に問題ないのだろうか。

知的財産法に詳しい齋藤理央弁護士に聞いた。

──パックルがカールに似ていると評判ですが、法的に問題はあるのでしょうか?

今回、一番問題になるのはおそらく「パッケージデザイン」でしょう。

消費者はパッケージデザインを見て商品を購入するのが一般的ですし、パックルのパッケージがカールを意識して寄せていることは間違いないといえるほど似ています。

「不正競争防止法」という法律があります。

その名のとおり事業者間の不正な競争を防止するための法律で、パクリやフリーライドなどの問題もこの法律の守備範囲です。

不正競争防止法はいくつもの類型を不正競争行為として定めているのですが、パックルの場合はまず、商品パッケージをカールの商品パッケージを似せることで、出所や営業を混同させる行為(混同惹起行為)に該当するかが問題となります。

つまり、パックルとカールの混同はもちろんですが、明治からライセンスされてやっている正規の後継品という混同、特にカールのおいしさを明治から指導を受けて受け継いでいるという誤解を生じさせるような営業上の関係性の混同も不正競争行為に該当する可能性があります。

──パックルの販売が混同惹起行為に当たるのでしょうか?

たとえば、任天堂が公道カートを営業している事業者を訴えた事件(いわゆるマリカー事件)で、東京地裁は営業上の関係性を混同させるおそれがあるとして不正競争行為該当性を認めています。

特に、パックルが東ハトの販売しているお菓子であるということはパッケージに明記されているので、明治の新商品と考える人はいないでしょうし、パックルがカールの正式な(品質も受け継いでいる)後継品と勘違いする人がいないかどうかがポイントになるでしょう。

関東ですでにカールが販売されていないことは、商品の混同、つまり、パックルとカールを間違えることはないという方向には働きます。

その反面、カールを関東で売れなくなったので、別のお菓子メーカーに後継品の販売を許可したという捉え方もできるので、営業上の関係性を混同させるかどうかという面ではあまり有利に働く事情にはならないでしょう。

もっとも、お菓子の形態やパッケージこそそっくりですが、明治から許可を受けて品質も受け継いでいるのであれば「カール」という商品名で売り出すでしょうし、あえて「パックル」という別の商品名で販売している以上、東ハトが企業努力で似たお菓子を開発したんだろうと捉えるのが一般的ではないかと思います。

その意味で、私は、パックルはカールについて営業上の関係性についても混同を生じさせないのではないかと思います。

──菓子の形(形態・デザイン)自体がそっくりな点はどうでしょうか?

まず、商品のデザインを一次的に保護するのは、「意匠法」という法律です。

しかし、意匠は登録しないと権利が保護されません。

カールは意匠登録されていませんし、登録されていても保護期間は最長で25年です。

カールは1968年に発売されたお菓子なので、仮に意匠登録されていても、商品のデザインは意匠権という権利では保護されないことになります。

そこで、次に問題になるのがやはり不正競争防止法違反の有無です。

「商品等形態模倣」(不正競争防止法2条1項3号)という不正競争行為に当たらないかがまず問題となります。

商品形態模倣は、発売から3年以内の商品形態しか保護されませんので、やはり1968年発売のカールは保護されないことになります。

最後にカールという商品の形態が「周知表示混同惹起行為」(不正競争防止法2条1項1号)、「著名表示冒用行為」(同条1項2号)に該当するか検討することになります。

パッケージもそうですが、顕著な商品形態も商品を表示する要素になる場合があると考えられています。

つまり、顕著に特徴的な商品形態も一つの商品を示すシンボルとして、カールを見れば誰でも明治のお菓子を想起する場合に、勝手に同業他社が商品形態を真似することが商品のシンボルを勝手に利用する不正な競争行為に当たるおそれがあるのです。

しかし、カールのスナック菓子としての形状は非常によく知られていますが、そもそもスナック菓子は通常それほど複雑なデザインにならないため、商品のシンボルとなるほど顕著に特徴的とまでは言えないという考え方もできます。

つまり、それほど複雑でない上にすでに意匠法や商品形態として保護されないはずのカールの形態について、一社に独占させるのは行き過ぎという見解もあり得るでしょう。

そうであれば、不正競争防止法にいう著名表示冒用行為にも当たらないと考えた方がバランスの良い考え方ではないかと思います。

パックルは結構ギリギリのラインを攻めていますが、個人的には明治の知的財産権を侵害しないのではないかと思います。

日本ではここまでギリギリを攻めることは珍しいと思いますので、興味深い事例だと感じました。

参照元:Yahoo!ニュース