「震災知らない職員」、4割超える 「風化にあらがう」 Team Sendaiが歩んだ14年 東日本大震災

東日本大震災の発生から間もなく14年。
甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県では、震災後に採用された県庁の職員が全体の4割を超えた。
県職員だけでなく市町村職員の世代交代も進み、「震災当時の業務を知らない」職員が次に災害が起きた時の業務の担い手となりつつある。
こうした「風化の波」にあらがおうと、自主的な職員間の伝承活動に取り組む仙台市職員を中心とした団体がある。
「Team Sendai」(チーム仙台)の原点や活動に懸ける思いを取材した。
「私は復興について知見がない。頼りにならない市長だなと思った」―。
2009年~17年、仙台市長を務めた奥山恵美子さん(73)は、11年3月の震災直後に抱いた思いをこう振り返った。
記者が足を運んだのは、24年11月下旬に東北学院大(仙台市)で開かれた震災伝承のイベント。
そこでは被災地の最前線で働いた自治体職員たちが、当時の経験や心情を率直に語った。
100万人を超える人口を抱える政令指定都市。
大災害に見舞われた街をどのように復興させればよいのか。
自信をなくした奥山前市長の支えになったのが「前例」だった。
震災の翌朝、仙台市へ駆け付けた神戸市の職員が渡してくれた分厚い記録誌。
そこには、阪神大震災から立ち上がった神戸の行政職員たちの歩んだ復興の過程が詰まっていた。
神戸だけでなく、他の災害記録を読み込むと、被災地の首長たちが苦労してきた法律の壁や制度の不備を知ることができ、「前例を探し尽くせば道が開ける」と感じたという。
岩手県釜石市職員の宮本光さん(45)は震災後、大規模な被害を受けた市街地の再開発に向けた用地交渉を担当。
地権者の同意を得るための激務の日々が続き、「今頑張らなくていつ頑張るんだ」と自らを鼓舞した。
いつしか自分自身を追い込み、用地の一部の交渉を残して精神的にダウンした。
「なぜ休まずに踏ん張れなかったのか」「上司や先輩に頼れなかったのか」。
宮本さんの中には後悔や葛藤が何年も残った。
時間の経過と共に前向きになり、今では過去の失敗が財産だと気付けた。
「大規模災害の対応は長丁場で、復興事業に着手する2年目以降は疲労もピークになる。長丁場だからこそ、自分自身や周囲の仲間とのつながりを大切にしてほしい」。
震災対応の2年目に入る能登半島地震の被災地職員を念頭に、思いの丈を語った。
このイベントを企画したのが、仙台市の職員有志らでつくるチーム仙台を中心とするメンバー 。
なぜこうした活動を始めたのか。
チーム仙台発起人の市職員、鈴木由美さん(62)とメンバーの柴田恵美さん(58)に話を聞いた。
もともとチームは、縦割りの関係になりがちな職場で、職員同士の学び合いや市役所内外との横のつながりを広げようと震災の前年に発足した数人のグループが始まり。
震災から8カ月後の11年11月、久しぶりに顔を合わせたメンバーたちは互いの震災経験を語り合った。
どこでどんなことがあったのか。
集まった16人で雑談しただけでも、ホワイトボード14枚分ものエピソードが出てきた。
職員同士でも知らないことが多くあることに気付き、鈴木さんは「次の災害に備えるためにも、貴重な体験を残さないといけない」と感じた。
メンバーにはNPO法人の職員や会社員らも参加し、現在は約20人。
鈴木さんは震災の教訓を伝えるイベントについて、「格好つけた言い方になるけれど、風化にあらがおうと始めた」と振り返る。
チーム仙台が震災の経験を将来に伝えるために採用したのが、職員から当時の経験を聞き取る「災害エスノグラフィー」と呼ばれる調査だ。
当時の業務内容や失敗談、悩みや葛藤。
1人当たり2~3時間かけて体験談を聞き、文書や映像にまとめた。
鈴木さんによると、経験を語る職員の中には「話すことで今まで抱えていたものが軽くなった」と喜んだり、涙を流したりした人もいたという。
12年の調査開始から、これまでに聞き取った人数は仙台市職員108人。
鈴木さんは「一人ひとりの体験を、震災を知らない人たちにいかに伝えるか考えながら聞くように心掛けてきた」と話す。
聞き取った話は冊子による周知に限らず、一般の人や自治体職員を聴衆としたイベントや研修の場で読み上げ、紹介もする。
「農林水産省の職員が『(被災者用に)60万食を頼みました』とあっけらかんと言うのを聞き、直面する事態のあまりの大きさを痛感した」「被災された方々にとって、役所は最後のセーフティーネットだ」。
記者が取材した昨年11月下旬のイベントでも、ありのままの言葉で語られる体験談に参加者は耳を傾けていた。
岩手、宮城、福島の3県によると、震災後に採用された、県警や教育委員会を除いた知事部局の職員は、25年1月1日時点で岩手が43.9%、宮城が45.7%、昨年4月1日時点で福島が48.6%に上る。
震災対応の経験がある職員が少なくなっていく状況を受け、県が主体となって当時の職員の体験を残そうとする動きもある。
岩手県は21年度から、県職員が利用する専用サイトで毎月、復興に携わった県内外の関係者の声をまとめた提言集の一部を紹介。
宮城県は23年3月、被災直後の現場対応をした約600人の声をまとめた記録誌を発行した。
記録誌に登場する職員らが人事研修で「語り部」となる場もあるが、県の担当者は職員の世代交代が進み、将来的に語り継ぐ人材が減ることに懸念を抱く。
「当時の教訓をどう伝えればいいか、試行錯誤を続けている」と実情を明かす。
東京電力福島第1原発事故の影響が今も続く福島県は20年度から、新規採用職員を対象に、県内唯一の震災遺構「浪江町立請戸小学校」などを巡る研修を始めた。
ただ、廃炉作業などの問題が今も山積しているため、記録誌の編さんについては「手が回っていないのが現実だ」(県の担当者)という。
震災から間もなく14年を迎える今、チーム仙台は、語り継ぐ活動に課題も感じるようになっている。
発起人の鈴木さんには、聞き取った職員の体験を網羅的に伝え切れていないという思いがある。
「避難所へ行った職員の話など、特定の分かりやすい話を伝える機会が多かった」と振り返り、「災害業務は避難所運営だけでなく多岐にわたる。さまざまな話を、興味を持って聞いてくれる人を増やしたい」と、今後について話した。
仙台市では、既に震災対応を知らない職員が5割を超えた。
柴田さんは「それでも行政職員である以上、『東日本大震災を経験した自治体の職員』として見られる。震災後に職員になった人たちに私たちが体験したことを伝え、災害対応力を高めないといけない」。「いずれ私も退職する。職員間で伝える活動をどう続けていけるのか模索している」と語った。
災害伝承に詳しい東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は、東日本大震災後、多くの自治体で災害対応マニュアルなどが改定され、書面上では震災対応の反省点が盛り込まれていると説明。
「ただ、ひとたび災害が起きると職員の心構えや、これまで暗黙知で共有してきた業務の優先順位といった、マニュアルには載っていない事柄が重要になってくる。それは文章では伝わりづらく、口伝えで残していくことが必要だと思う」と指摘する。
職員有志の伝承の取り組みを続けていくにはどうすればいいのだろう。
佐藤准教授は「復旧・復興を効率的に行うためには、自治体にとって語り継ぎは今後も必要。
宮城県沖地震のように災害の周期が10年以上になる災害があるため、伝承活動には持続可能性が重要だ」と強調。
さらに、「職員同士が震災の経験を語らう場は、自治体内部だけで完結するのではなく、NPOや研究機関などいろいろな立場の主体が関わったほうが、質や持続可能性が高まるのではないか」と話した。
参照元:Yahoo!ニュース