想像もつかないレベルに達した“マンション価格”の行く末

マンションをイメージした写真

最近、何人かのマンションデベロッパーの役員と話をする機会があった。

いちように皆が口にするのが、昨今のマンション価格の高騰ぶりだ。

「いや、最近のマーケットは自分たちにもわからない」

「高いと思って販売をし始めても売れてしまうんだよね」

「どうみたってありえない現象だけど、売れるのだからしかたがない」

プロであるはずのマンション業者が首をひねりながら売るという何とも奇妙なマーケットになっているのが現在の新築マンション相場である。

2023年11月にオープンした森ビルが手掛けた麻布台ヒルズ。

最高層ビルである森JPタワーの上層部は、最高級ホテル、アマンのサービスが付くマンション91戸が分譲され話題になった。

最上層階の住戸は面積1,500㎡(453坪)、ちなみに1戸の面積である。

価格が2億ドルなどと言われた。もはや円建てではなくドル建てだ。

多くのメディアが私のところにきて「誰が買うのか」と聞かれたが坪単価にすれば6600万円、わかるわけがない。

購入者は発表されていないが業界筋の噂では香港人だという。

大阪だって負けてない。

大阪駅北口の「うめきた開発第2期」で登場したグラングリーン大阪 ザ ノース レジデンス(2026年3月引渡し予定)の最上層部の住戸は面積300㎡(91坪)、価格は25億円(坪単価2755万円)で売れたという。

麻布台ヒルズやうめきたの事例はもはや理屈の世界をはるかに超越した価格水準になっている。

なので私は、これは理論値ではなく「アート価格」と呼ぶことにした。

ゴッホの絵画を好きな人がどうしても手に入れたいので、好きな価格で買う感覚に近く、理屈もへったくれもないのだ。

東京都内の新築分譲マンション価格(2024年)は平均で1億1181万円、坪単価で565万円だ。

66㎡(20坪)の普通の3LDKを買ったとしても1億円超になる。

東京都の世帯平均年収の18倍近い価格水準になっているのだ(東京カンテイ調べ)。

これから都内で供給される新築マンションの販売予定価格をみると、坪単価で1000万円台の案件も目立つ。

2023年に分譲された港区三田の三田ガーデンヒルズは坪単価1300万円台から1400万円台で全1002戸が完売している。

マンション業者が首をひねりながらも、どんどん顧客が価格に追いついてくるのだから驚きだ。

最近沖縄に出張した。

新築マンション価格は坪300万円になっていた。

以前なら考えられない高価格だ。

さらに現在計画されている最新マンションはついに坪500万円となり価格で3億円の住戸が売り出されるらしい。

買い手のほとんどは内地(沖縄以外)の人間だと、案内してくれた地元業者は言う。

こうした価格形成は言うまでもなく、完全に投資マーケットでのものだ。

神戸市は最近、市内のタワマンの空室所有者に対して空室税なる新たな税金を課すことを検討していると発表し話題になった。

投資が邪魔をして実需層が買えない、だから税金を掛けて相場を崩そうという狙いだ。

なんだか相場に行政が邪魔してくる事態になっている。

いっぽう実需層は当然だが、中古マンションに群がる。

新築マンションの値上がりに呼応するように中古価格も上昇したが、ここにきて価格があきらかに寝始めている。

中古平均価格は東京都内で5000万円(これは中古戸建てでもおおむね一緒だ)、首都3県で4000万円、関西圏で3000万円を超えてこない。

いわゆる「壁」というやつだ。

この壁が今の日本人の実像に近いのだ。

投資マーケットの相場についていけないのが実需なのだ。

一般庶民がついてこられなくとも…

あるマンションデベロッパーの役員はこうも言った。

「価格が高すぎなのはわかっているが、地価も建設費もうなぎ上りだから原価増でしかたがない。これからの新築はもっと高くなるはず」

さらに、「でも、ニューヨークやロンドン、北京や上海よりも安いらしいから外国人はどんどん買ってくれる」「日本もこれからインフレ社会になるので価格にはついてきてくれるはず。だから当面、マーケットは大丈夫だという意見が社内でも強い」

つまり、一般庶民がついてこられなくともよい。

インフレで価格上昇は避けられないので、国内外の投資マネーを頼りに商売をやっていこうとのことだ。

だが投資マネーという世界は意外と危うい存在でもある。

海外からみて安いといっても、その原因の多くは円安によるものだ。

利上げにより円高に振れれば、この理屈は崩壊する。

もちろん、相変わらず、日本の東京がニューヨークやロンドンに伍していくだけの経済力を今後も発揮し続けられるかやや心もとなくなっていることも気になるだろう。

パワーカップルが多い大企業社員を中心にインフレで賃金も上がるだろうが、わずか数パーセント年収が増えたところで、高い所得税率と歯止めが利かない社会保障費の値上げで多くの部分は相殺されてしまう。

高い確率で発生するとされる南海トラフや首都直下型地震にも怯えなくてはならないのは日本における不動産投資では厄介なポイントだ。

実は実需ベースで考えるならば、新築マンションマーケットの活況は2020年頃には終焉していたはずのことは私も含め多くの専門家が予想していた。

だがデフレ脱却を見据えるとして大規模金融緩和をあまりにも長期にわたって継続し続けたために、膨大な外資マネーが日本に流れ込み、マーケットは思わぬ活況を呈することになる。

そしてその隙間をぬって個人投資家が多大な不動産投資収益を上げることができたのが現在だ。

投資マーケットと実需マーケットの差がどんどん拡大しているこれからをどうみていけばよいのだろうか。

ただ「山高ければ谷深し」という株式相場の格言があるように、これからのマンションマーケットがどういった展開になるか興味深い。

最後にもうひとりのマンションデベロッパー役員の言葉を紹介しよう。

「不動産投資マーケットもさ、なんだか平成バブルやリーマンのときとそっくりになってきているんだよね。利回りが低くなりすぎてるからキャピタルゲインをとるしかないっていうところがさ。あの時代と酷似しているんだよ。高くても誰かが買ってくれるから、というセリフ、あの当時もよく使ってたじゃない」

参照元∶Yahoo!ニュース