「孤立出産」事件、逮捕された女性の「実名」報道に疑問の声も 裁判闘った弁護士「女性は3度傷つけられる」

孤立出産の末に赤ちゃんを遺棄した女性が逮捕される事件があとを絶たない。
原則として「実名報道」されるが、はたして、このような事件で本当に「実名報道」は必要なのか、そして逮捕は必要なのかという疑問もある。
ベトナム人の元技能実習生が死体遺棄罪に問われた裁判で、最高裁が2023年3月、逆転の無罪判決を言い渡した。
主任弁護人をつとめた石黒大貴弁護士は、孤立出産をめぐって「実名報道は困難な状況におかれた女性をさらに追い込んでいく『負のスパイラル』を加速させてしまう」と指摘する。
今年2月12日、自宅で出産した赤ちゃんを放置して死なせたとして、三重県四日市市の女性が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。
報道によると、女性は2月9日、市内の路上でうずくまっていたところ、駆けつけた警察官に「自宅で出産して放置してきた」などと話した。
警察が女性が1人で暮らす部屋を確認すると、トイレの前で赤ちゃんが亡くなっているのが見つかった。
女性は病院から退院した12日に逮捕されたという。
実名報道は「事件報道の原則」とされる。
今回の事件でも、NHKや通信社、地元テレビ局などのメディアは、女性の実名を出して報じた。
「女の子は身長33センチ、体重およそ710グラム、死因は敗血症でした」(CBCテレビの記事より)
この記事が配信されたYahoo!ニュースのコメント欄には、女性の置かれた境遇に思いをめぐらせる投稿が相次いだ。
中には、女性の実名を出すことに対する疑問の声もあった。
今回のような事件について、社会はどのように受け止めるべきか。石黒弁護士に聞いた。
ーー孤立出産で女性はどのような状況に置かれていますか?
孤立出産では、女性が誰にも妊娠を言えない状況で、独りで苦しみながら子どもを出産します。
生まれる前から亡くなっていたり、生まれてきてくれたけど女性が貧血で動けず、動けたとしても子どもをどうしてあげたら良いかわからないまま不幸にも亡くなったりします。
孤立出産をめぐる事件では、本人が出血も多量で、本人の意識がしっかりしていないことがほとんどです。
そして、出産後に適切な対応ができなかったことを理由に逮捕されることが共通します。
罪に問われる女性たちの中には、境界知能やグレーゾーンの方や、愛着障害のある方もいます。
このような特徴のある女性が、父親が誰かわからないままに妊娠して、さらには自身の親にも相談できない人間関係にあり、独りで抱え込んでいるうちに出産して、子どもを手にかけてしまったり、放置や隠して死産に至るという構図が背景にあります。
孤立出産の前後の特殊な事情を踏まえて、そのような女性たちだけを杓子定規に罪に問おうとすることは本当に適切でしょうか。
刑罰の対象ではなく、本来は保護の対象になると考えられます。
女性たちは何度も傷つきます。
まず、孤立出産で身体的・精神的に第一の傷を。
それを理由に身体拘束することで第二の傷を。
そして実名報道によって第三の傷を負います。
「子殺し」などのレッテルを貼られて、社会復帰の際に問題になりうるのです。
孤立出産に至るまでの道筋は複雑で、そう単純ではありません。
親との関係性に問題があったり、彼氏からDVを受けたりしています。
実名報道にはそうした「負のスパイラル」を加速させてしまう危険性があると思います。
ーー保護責任者遺棄致死罪での逮捕をどう考えますか?
孤立出産した女性は大量に出血し、めまい・頭痛など強い貧血の症状にあります。
三重県の女性は路上でうずくまっていたという報道内容からも、保護責任者として期待できる行動が取れなかった可能性が相当程度あるのではないかと思われます。
また、退院してから逮捕したというのも、身体拘束せずに在宅で捜査できると思います。
孤立出産では、女性が母子健康手帳を持っていないことが多く、出産後の客観的情報が重要となります。
もし起訴されて裁判になれば、出産直後に病院に搬送されているので、その際の血中のヘモグロビンの指数などを記録したデータをもとに、たとえば日本産婦人科学会が定める妊婦貧血の基準を下回っていたなど、女性が子どもの救護義務を果たすことができなかったことを客観的証拠をしっかり見て判断してほしいです。
ーー今回のような事件を社会はどのように受け止めるべきでしょうか?
このような事件がおきるたびに、なぜ実名報道にするのだという問題意識で報道をチェックしていた時期がありました。
以前にくらべれば、実名報道は減ったという印象もあります。
困難を抱えた女性が孤立出産の末に犯罪に問われるケースは絶えません。
そうした人たちを独りにして無視する社会が少子化を克服できるとは思えません。
あってはいけない悲劇であり、事件の重大性は理解できますが、逮捕することが妥当か疑問ですし、実名で報じるべきでしょうか。
孤立出産の逮捕報道では、相手男性の名前や社会の責任は書かれません。
女性が安心して安全に出産できることが重要です。
海外に目を向けると、フランスでは名前を明かさずに出産できます。
妊娠・出産は個人的なことではなく、社会的プロセスであると言われています。
匿名出産した子どもは、国の子どもとして登録され、その後に特別養子縁組の制度などで新しい親につながります。
しかし、そんなフランスでも、制度ができて社会に浸透するには半世紀近い時間がかかると言われています。
孤立出産した女性に「罪深い女性」というレッテルを貼ろうとせず、孤立に至った背景、当時の状況に思いを馳せてほしいです。
そのうえで、同じ境遇であるとき、自分ならどうするか考えてほしいと思います。
参照元∶Yahoo!ニュース