転職ネイティブ世代は「こんなはずじゃなかった」ですぐ離職 「リベンジ転職」の落とし穴とは

転職したい人

新卒で入社した人の3年以内の離職率は34.9%(2021年3月大学卒業者、厚生労働省調べ)で、前年より2.6ポイントも上昇した。

なぜ、せっかく入った会社を辞めてしまう新社会人が増えているのか。

昨春、東京都内の私立大学を卒業し、幼稚園に勤める中島美和さん(23、仮名)は、「第二新卒」の転職活動の真っ最中だ。

中島さんは就職直後、体調を崩し、有休を使って休むことがあった。

職場は女性が多く、先輩や同僚は笑顔で、気づかいの言葉をかけてくれた。

「いい人ばかり。職場に恵まれた」そう思っていた。

ところがある日、園長からこう切り出された。

「あなた、みんなから『休んでばかりだよね』『ずるい』って言われているのよ」

ショックだった。

それ以降、陰で何か言われているかもしれないと思うと、職場に出勤するのが怖くなった。

女性同士の人間関係の難しさを実感した。

この環境で働き続けたら、自分が壊れてしまうかもしれない。

そう感じた中島さんは、転職サイトに登録した。

「改めて業界研究をしました。次は全く別の業界で働くつもりです」(中島さん)

2024年、入社直後の4月に大手転職サイト「doda(デューダ)」に登録した新社会人の数は、調査を開始した11年比で約28倍に増加した(実数は非公開)。

24年は23年、22年に次ぐ過去3番目に多い水準になった。

ここ数年、「1年以内」「1~3年以内」の転職を希望する新社会人の割合は4割を占めるという。

dodaの桜井貴史編集長はこう話す。

「入社直後に違和感を抱き、『こんなはずじゃなかった』と、転職の相談を受けることが多いと感じています」

その理由のひとつとして、桜井さんが挙げるのがコロナ禍だ。

確かに、冒頭の中島さんの大学時代はコロナ禍の真っただ中、インターンシップが中止され、対面での説明会や面接ができない企業が続出した。

就職活動の第一歩ともいえる業界研究が十分にできないまま就職した結果、多くの「ミスマッチ」が生じてしまったのではと、桜井さんは指摘する。

コロナ禍では、企業の新卒採用活動の「中止」「縮小」も相次いだ。

希望していた業界への就職を断念する大学生もいた。

「採用が再開されるのを待って、当初、希望していた業界への『リベンジ転職』をする人もいます」(桜井さん、以下同)

そして、コロナ禍が明けると、反動で人手不足が深刻化し、人材の獲得競争が激しくなった。

早期に内定を出す企業が増えた。

このこともミスマッチを生んでいる。

「『自分は何をやりたいのか』、十分に分析しない段階で内定をもらい、就職した結果、『この会社ではなかった』というギャップを感じる。この状況は今も続いています」

いっぽうで、転職サイトに登録する新社会人が増えた背景にはこんな理由もあるようだ。

「『転職市場での自分の価値を知る』ために、転職サイトを使う新社会人が増えました」

転職サイトに登録すると、企業から「法人営業、予定年収400万~600万円」といった求人情報が発信される。

それを見れば、自分が他の企業からどう評価されているかの目安がわかる。

転職エージェントのキャリアアドバイザーに相談すれば、現在の環境や、将来の可能性を客観的に分析してもらえるというメリットもある。

こうした「情報収集」を目的に、大学卒業と同時に転職サイトに登録する若者は、「現在働いている企業規模や知名度に関係なく増えている」という。

桜井さんは言う。

「彼らは、近い将来、転職することを前提に就職した『転職ネイティブ世代』といえるでしょう」

dodaが22年7月~23年6月の1年間に転職した人を対象に行った調査によると、20代で最も多い転職の理由は、「人間関係が悪い/うまくいかない」(12.6%)だった(単一回答)。

30~50代と比較して、2~3倍ほど高い割合だという。

複数回答では、「給与が低い・昇給が見込めない」が35.2%、「人間関係が悪い/うまくいかない」が25.9%。3番目に多いのは「社員を育てる環境がない」の23.5%で、前年の14位から大きく順位を上げた。

「転職の質が変化しているのを感じます。これまでは、『職場にフィットしない』というネガティブな理由ばかりでしたが、今は『職場で成長したい』というポジティブな転職が増えている」

転職が収入アップにつながるケースが多いことも、若者の転職に対するイメージをよくしている。

19年度上期の20代の転職前と転職後の平均年収は373万円で変わらなかったが、24年度上期は396万円から414万円にアップした(doda調べ)。

「深刻な労働力不足を背景に、仕事の経験の浅い20代でも転職すると昇給する傾向があるのです」

企業は、経験値の低い若者に対して、「柔軟性とキャッチアップする意欲」に期待して採用を決めることが多い。

桜井さんは、新社会人の転職希望者に、こうアドバイスする。

「まったく異なる業界に転職するのであれば、これまでの経験から活かせるスキルがないかを整理したうえで、自身でどんな勉強をしてきたのか、新たな仕事に対する意欲を具体的に説明することが大切です」

桜井さんによると、職場に違和感こそ抱いたものの、「本当にやりたいこと」がはっきりしない若者は少なくない。

「目先の利益ではなく、何をすることに喜びを感じるのか。さらに報酬面、勤務条件など、仕事選びの軸や優先順位をきちんと自己分析しないまま転職すると、また短期離職しやすい。企業からは『すぐに辞めてしまう人』と見られ、以後の転職が難しくなってしまいます」

転職エージェント側にも短期離職者を減らしたい切実な理由がある。

転職が決まると、エージェントは企業から報酬を受け取る。

しかし、一定期間経たずに離職すると、報酬の一部を返却しなくてはならない。

「転職希望者の信用も、企業からの信用も失ってしまう」という。

転職にある種の慎重さが求められる現実はいつの時代も変わらない。

だからこそ、新社会人は早々に備えておきたいのかもしれない。

参照元∶Yahoo!ニュース