<つながる毎日新聞>東京で飛ばした風船、どこまで行った? 児童のメッセージが結んだ縁

記念行事などのイベントで、空に向けて一斉に放たれる風船は一体どこへ飛んでいくのだろう――。
東京都内のある小学校が風船を飛ばしたところ、「拾った」との連絡が続々と寄せられた。
児童が手書きのメッセージを付けていたことが、拾った人たちと学校をつなげる手がかりとなった。
毎日新聞の情報提供窓口「つながる毎日新聞」に寄せられた情報を元に、風船が結んだ縁を追ってみた。
2024年6月7日、創立70周年を迎えた西東京市の市立谷戸(やと)小学校が記念式典を開いた。
児童たちが快晴の青空に約400個の天然ゴムの風船を校庭から一斉に放った。
将来の夢や自分の好きなことを思い思いに書いたメッセージの紙を付けて。
風船は風に乗って空に消えていった。
一般社団法人「日本バルーン協会」によると、ヘリウムガスで膨らませた天然ゴム製の風船は、高度3000メートルから8000メートルまでふわふわと上昇する。
富士山(標高3776メートル)と同程度、またはもっと高く舞い上がる。
風船は上空の低い気圧の中、パンパンに膨れる。
ついには耐えきれなくなってパーンと破裂して粉々に裂け、拡散しながら地上に落ちる。
天然ゴム製の風船なら、落ち葉と同様に時間の経過とともに微生物が分解して土に返るので、環境破壊の心配もない。
谷戸小には、風船を飛ばしてから数日の間にメッセージの紙を目にしたとの情報が次々と舞い込んだ。
いずれも学校から10~30キロ離れた土地からで、東京都内は町田市、稲城市、国立市、府中市、多摩市から。神奈川県は横浜市の青葉区、都筑区、緑区、川崎市の宮前区、麻生区――からだった。
反響の数は飛ばした風船の1割ほどに上った。
谷戸小によると、メッセージの裏面に学校名と連絡先が記載されており、それを頼りに各地の住民が連絡してきたという。
その一人、川崎市麻生区在住の近藤みゆきさん(60)は24年6月7日の夕方、庭のオタフクナンテンの木に引っかかっている紙片を発見した。
飛ばしてからわずか数時間後に地上に落ちていたことになる。
こんなメッセージが書かれていた。
「谷戸小のいいところをしょうかいします。谷戸小は校庭がとても広いところと校庭がしばふなところです」
近藤さんは、児童のメッセージに目を細めながら「西東京方面にうちのお墓があります。亡くなった祖父と父が届けてくれたのかと思いました」と語った。
ナンテンは語呂合わせで「難を転じる」という縁起のよさもある。
近藤さんはナンテンの木に引っかかっていたことに「特別な縁を感じました」とうれしそうに話した。
稲城市在住の神野佳奈子さん(43)の場合、同じ7日に学校帰りの小学生の娘がメッセージを見つけ、興奮ぎみに持ち帰ってきた。
「おれのやとしょう おれのがっこうのともだちはすごくやさしくておもしろくて大すきです」--。
大きな文字でそう書かれていた。
ひもでくくられた紫色のゴム風船はビリビリに破れていた。
神野さんは娘と一緒に「やとしょう」がどこにあるのかをタブレットで検索した。
「娘も小学生なのですてきな思い出になりました」と語った。
バルーンリリースから2日後の6月9日、川崎市麻生区で半導体の製造過程に必要な精密温調装置を開発する「伸和コントロールズ」の山本拓司社長が、会社敷地内の駐車場に落ちていたメッセージを発見した。
「しょうらいのゆめは、マンガ家です!そのために、絵やマンガをいっぱいかくことをがんばります!おうえんしてくれると、うれしいです!」
谷戸小に連絡すると、書いたのは5年生の佐藤美音(みおん)さん(11)だとわかった。
「これも一期一会」。
山本社長は、谷戸小と何かコラボレーションできないかと考えた。
会社は22年に創業60周年を迎えたことを記念して絵本の社史を作っていた。
「絵本を通じて、子どもたちに会社の活動や地域社会とのつながりを伝えるような交流ができれば」と、24年12月18日に出張授業を行う運びとなった。
山本社長の出張授業は5年生の教室で開かれた。
始まる前、主任教論の原沢敏恵さんが集まった児童たちに「佐藤さんが書いたメッセージが、神奈川県の川崎市という町にある、伸和コントロールズさんという企業の駐車場に落ちて、谷戸小と縁(えにし)をつないでくれました」と説明した。
山本社長は絵本の社史に書かれた自分の会社のこと、「半導体」がどんなものかについて説明した。
ふだん手にしているスマートフォンに組み込まれたのが「半導体」だ。
子どもたちは興味津々、熱心にノートを取りながら授業を受けていた。
山本社長への質問の手も次々と挙がった。
メッセージの主、佐藤さんは「ここまですごいことになるとは思わなかった」と驚いた様子だった。
伊藤正明校長は授業を見学し「子どもたちが興味深く話を聞いている様子がうかがえました。飛ばした風船が、思わぬ縁をつないでくれました」と話した。
参照元∶Yahoo!ニュース