中国の輸出企業、米関税で新市場開拓に殺到 懸念は競争激化

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中国のアルミ製品メーカーで販売部門の責任者を務めるジェレミー・ファン氏は、米国による対中追加関税の影響を穴埋めするためにアジアやアフリカ、中南米市場への輸出拡大を模索している。

問題はライバル企業も同じ経営戦略を取ろうとしていることだ。

「これでは過当競争が強まるだけだ」と語るファン氏は、値下げや利幅縮小を予想。

「パイの大きさは限られているのに誰もが分け前を奪おうとするから、競争は激化する」と覚悟を決めている。

トランプ米大統領は「開戦の一撃」として中国製品に10%の追加関税を課すと発表。

米中間の貿易戦争は今月に入ってエスカレートしており、両国以外の国・地域に新たな供給ショックを引き起こしそうだ。

中国企業は国内需要の低迷に加えて、年間4000億ドル余りの製品を輸出している米市場で厳しい状況に直面し、一斉に米以外の輸出市場への切り替えを急ぎ進めている。

しかし米国ほどの購買力を持つ国は他になく、他の市場よる中国の生産能力の吸収には限度がある。

中国の輸出業者は業界内で価格競争が激しさを増し、利益が圧迫される可能性が高まっている。

また利益率の低下によって雇用削減や賃金カット、投資の縮小が起きれば、アフリカなど新たな市場で政治的反発やデフレ圧力を強める恐れもある。

HSBCのアジア担当チーフエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏は、市場の多様化は戦略として理解できるがこれをずっと続けるのは不可能だと指摘。

「リスクの1つは中国の全輸出業者が突然同じ市場を開拓しようとすること」で、こうした動きは利益を圧迫するという。

その上で、「しかし本当のリスクは、中国製品の輸入国が国内の生産者を保護するために中国製品への規制措置を強化せざるを得なくなることだ」と述べた。

すでに緊張は高まっている。

過去1年間に欧州連合(EU)は中国製電気自動車(EV)への関税を引き上げ、インドやインドネシアなどの新興市場も一部の中国製品に対する貿易障壁を強化している。

中国は一部の産業で強力な競争力を持つ。

例えばEVメーカーのBYD(比亜迪)や人工知能(AI)技術のディープシークなどはすでに海外市場で存在感を見せている。

「われわれは非常に強力なサプライチェーンシステムを持っている」 と語るのは、中国でスクールバッグ、音声機能の付いたテディ・ベア、家電製品を製造するデイブ・フォン氏。

フォン氏の企業は欧州やアジアでの広告・事業開発に30―40%の追加投資を行っており、「アイデアが出てから量産まで、全てが極めて迅速だ」しかし中小企業は生き残れるのか気をもんでいる。

中国南部でクリスマス装飾品の工場を経営するリチャード・チェン氏は、利益がほぼゼロで、今年は80人の従業員を維持できるか不安を抱えている。

「ポーランド市場に参入しようとしたが、米国の消費者のようには買ってくれなかった。状況はこれまでで最悪だ」

中国は海外での価格競争のあおりで国内でデフレ圧力が一段と高まりかねない。

北京の南方約300キロの石家荘にある浴槽工場のマネージャーは、米国の最近の関税引き上げを受けてブラジルやアルゼンチンへと販路を広げようとしている。

米国の小売業者から10%の値下げを求められているが、既に10―15%の賃下げで競争力を維持している状態で、受け入れをためらっている。

「この業界には中国企業がひしめいていて、どの企業も青息吐息だ」

主に国内向けに電動スクーターなどを製造する企業の幹部も、賃金や人員の削減、国内の不動産危機の影響で国内需要が縮小し、20―30%の減益に見舞われると予想する。

「中国企業はあらゆる業界で海外市場に進出しているが、外国政府は関税や制裁を次々に課している。ほとんどの工場はコスト削減のために従業員を解雇している」という。

ナティクシスのアジア太平洋チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレーロ氏は、中国がこの状況を打開する唯一の方法は「生産を減らすこと」だが、「それは非常に痛みを伴うだろう」と述べた。

「誰かが永遠に製品を買い続けてくれることはありえないのだから、残る道は1つだ。一層の繁栄と成長を望むなら消費を増やすしかない」

HSBCのノイマン氏は中国にとって国内消費の促進は対外的にもプラスに働くだろうと見ている。

詰まるところ、内需を喚起して生産の一部を吸収することは海外諸国との貿易摩擦を減らすことにもなるという。

参照元∶REUTERS(ロイター)