生後3カ月で国内に約100人しかいない難病と診断された長女 障害の可能性がある子を産むのをためらった母と家族の今【アイカルディ症候群】
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7歳のあかりちゃんは、生後3カ月のときに指定難病のアイカルディ症候群と診断された。
アイカルディ症候群は、脳梁(のうりょう)欠損、目の異常、点頭てんかんの症状が確認されることで診断され、患者数は国内では100人前後と推測されている。
母親のますみさんに、あかりちゃんの症状やあかりちゃんとの生活について聞いた。
どんな薬でも、てんかん発作はゼロにならない可能性が最近のあかりちゃん(7歳)。
抗てんかん薬を服用しているが、今でも多いときは1日数回てんかん発作が。
あかりちゃんがアイカルディ症候群と診断されたのは生後3カ月のときだ。
自宅で首をすくめて寄り目をし、左右非対称に腕を上げる動きを頻繁にするようになり、大学病院で検査をしてアイカルディ症候群と診断された。
入院中は、脳波の検査や血液検査などをしながら、てんかん発作を抑える薬を探した。
「あかりは生まれつき、脳の神経繊維の束の脳梁(のうりょう)がありません。それは私のおなかの中にいたときからわかっていました。脳梁欠損はアイカルディ症候群の症状の1つです。生後3カ月で診断されたとき医師からは、『アイカルディ症候群は、てんかんを起こしやすい脳のため、どんな薬でもてんかん発作はゼロにならない可能性が高いけれど、あかりちゃんに合う薬を見つけていきましょう』と言われました」(ますみさん)
生後3カ月のときのあかりちゃんは、ACTH(アクス)療法などを試した。
ACTH療法は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を筋肉注射することで副腎皮質からステロイドホルモンの分泌を促し、てんかん発作を改善する治療だ。
「薬の影響で、あかりは寝ていることが多くなり、起きてもボ~っとしているか泣いて不機嫌でした。どんどん笑わなくなる姿を見ているとかわいそうで、『もしかして、あかり自身生まれてくるんじゃなかったと思っているかも…』と考えて自分を責めました。あのかわいい笑顔が見られないと思うと、本当に悲しかったです。『あかりも苦しいよね…。ごめんね』と、心の中で何度も謝っていました。また目の前で発作が起きても、何もしてあげられないことが、親としてつらかったです。あかりは約1カ月で退院しましたが、この1カ月はさまざまな葛とうの連続でした」(ますみさん)
退院後、てんかんの薬でてんかんをコントロールしながら、ますみさんは、あかりちゃんの成長を促すためにいいと思うことにどんどんトライした。
「最初は、障害がある子を育てることに不安があった私ですが、産んだのは私なんだから、あかりをちゃんと育てていくことが私の責任! 育てるのは私の役目! 私がしっかり育てないと! と自分を奮い立たせました」(ますみさん)
アイカルディ症候群と診断されてから、あかりちゃんの発達を少しでも促すために、ますみさんは療育に力を入れた。
「あかりの病気がわかってからの私は、少しでもあかりの発達を促さないと! と必死でした。最初は、近所の療育園に通ったのですが、そこは軽度の障害の子が多く、ママやパパが子どもを呼んで、子どもがはいはいでママ・パパのところまで来るはいはいレースがあったんです。でもあかりは、はいはいなんてできません。まわりの子と比べて、悲しくて、むなしくて…。あかりに合う療育園を探そうと思いました」(ますみさん)
あかりちゃんが次に通ったのは、もう少し大きな療育園だ。
「生後9カ月から、プレで月2回通うことにしました。1歳からは、別のところにも通い始めて、週3回療育に行くようになりました。療育の先生が1人1人の子の前で大きなシャボン玉を作ってくれたことがあるのですが、あかりの番になったとき、あかりがニコって笑うんです。抗てんかん薬の影響で、無表情なことが多かったので、あかりが笑ってくれるだけで本当にうれしかったです」(ますみさん)
ますみさんは、大阪の病院で入院療育をしたこともある。
「あかりが1歳になる前に、ボイタ法という療育を知って、それを行っている大阪の病院で入院療育をしました。ボイタ法とは、子どもの特定の部位(誘発帯)を刺激することで、運動反応を引き出す運動療法です。担当の理学療法士や作業療法士の方がすごく親身になってくれて、1カ月ほど母子入院してリハビリをしました」(ますみさん)
あかりちゃんのてんかん発作を抑えるために1歳6カ月からケトン食療法も取り入れた。
ケトン食療法とは、食事の内容を工夫することで、ケトン体を糖分の代わりに脳のエネルギー源として活用できる状態にして、てんかん発作を抑える方法だ。
「かかりつけの大学病院の医師に相談したところ、試しにやってみようと言われました。ケトン食療法の効果には、個人差があるのですが、あかりには合っていて、だいぶ発作が収まってきました。あのころの私は、とにかく必死でした」(ますみさん)
現在、あかりちゃんは、特別支援学校に通っている。
「あかりは話すことができないので、特別支援学校では、専用の機器を使ってパソコンを視線で操作する練習をしています。専用のゲームソフトを使い、楽しみながら追視をしたり、注視する練習を繰り返し行っています」(ますみさん)
また、あかりちゃんには、6歳の妹と3歳の弟がいる。
「2人目のことで悩んでいたときに、療育で知り合った3人子どもがいるママに相談したんです。そのママは、第1子に生まれつきの障害があり、第2子、第3子は健常児でした。そのころの私は、きょうだい児問題のことで悩んでいました。そのママに不安を打ち明けたら「育て方よ!」と明るく言われて、前向きに考えられるようになったんです。二女は、あかりに障害があることを知っています。末っ子は、あかりがしつこく触ると怒るのですが、二女が『あかりちゃんは動けないから、〇〇(末っ子の名前)があかりちゃんの手の届かないところに行かないと!』と教えています。ほほえましい光景です」(ますみさん)
あかりちゃんが幼く療育に力を入れていたころは、ますみさんは1人で頑張って前に進もうとしていましたが、今は人に頼るようにしていると言う。
「あかりのことは、ヘルパーさんにお願いすることも多いです。体も大きくなったので、入浴は週3回ヘルパーさんにお願いしています。また特別支援学校が終わると、放課後等デイサービスにも行っています。また3カ月に1回の診察は、夫が車で病院に連れて行ってくれます。あかりが大きくなり、下の子たちが生まれて、子育てってチームでやっていくものなんだな…と実感しています」(ますみさん)
ますみさんはエステサロンの経営者だ。
「あかりが生まれる前まで、私はワンマン社長でした。目標を掲げたら達成する! 達成できないのは努力がたりないから! と考えて、競争社会の中で頑張ってきました。過程より結果がすべて! という考え方でした。しかしあかりが生まれて、価値観が変わりました。私のこれまでの価値観を肯定すると、あかりのことを否定することになると気づいたんです。あかりは、私がこれまで見たことがない温かな世界を見せてくれるし、これまで気づけなかった人の優しさに触れる機会をたくさん与えてくれます」(ますみさん)
ますみさんは、あかりちゃんがアイカルディ症候群と診断されてすぐにアイカルディ症候群家族会「姫君会」に連絡をした。
「生後3カ月でアイカルディ症候群と診断されて、てんかん治療で入院しているときに、とにかく不安で情報がほしくて長文のメールを「姫君会」に送ったところ、代表の方がすぐにアイカルディ症候群の娘さんを連れてわざわざ病院まで、会いに来てくれたんです。本当にうれしかったです。あかりが生まれてから、かけがえのない人たちとの出会いが増えました。あかりが導いてくれているんだと思います。これまでの私は、1人で片意地をはって頑張っていたけれど、あかりが人と支え合うことの大切さを教えてくれました」(ますみさん)
アイカルディ症候群は、現代の医療ではまだ根治療法がないそうだ。
公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターのサイトによると、女の子に多い病気で、原因は不明ですが、X染色体の変異が報告されている。
ますみさんが入会している家族会「姫君会」の名前の由来も、女の子に多い病気だからだそうだ。
参照元∶Yahoo!ニュース