甦ったアバクロ、「5年で利益10倍」の大復活劇 「全米で最も嫌われたブランド」をどう抜け出した?

有名ブランドのブティックが立ち並ぶ東京・銀座の中央通り。
セールシーズンまっただ中の1月中旬、訪日客らでごった返すユニクロとは打って変わり、6丁目交差点に面したアバクロンビー&フィッチの店内は落ち着いた雰囲気に包まれていた。
縦に細長い店舗の構造は変わっていないものの、アップテンポな曲が大音量で流れ、上半身裸のマッチョなイケメンスタッフが客を迎え入れた店の面影はほとんどない。
アメリカのアパレル大手、アバクロンビー&フィッチ社が今、大復活を遂げている。
1月13日、同社は昨年末のホリデーシーズンが好調だったとして、2024年度通期の業績見通しを上方修正した。
会社のガイダンスでは、通期売上高は49億ドル超、営業利益は約7.35億ドルに達する見込みだ。
コロナ前の2019年度(売上高は36.2億ドル、営業利益は0.7億ドル)からわずか5年で、売上高は3割増、営業利益は10倍に膨らむ計算だ。
同社が拡大路線を進めた2000年代以降では、2012年度に記録した売上高の最高実績を塗り替えることとなる。
復活の兆しが鮮明になったのは、ここ2〜3年のことだ。
2023年度以降、主力ブランドであるアバクロの既存店売上高は毎四半期、前年同期比で10〜20%台の高成長を続け、若者向けブランドのホリスターも2024年度に入ってから2桁増を記録している。
2023年の株価の上昇率はエヌビディアをも超えたと話題になった。
「私たちは複数年をかけて会社を再建し、非常に強力なグローバル基盤を構築した。2025年も勢いを継続していく」。
上方修正発表後の1月14日、アバクロのフラン・ホロヴィッツCEOは現地メディアCNBCの番組に出演し、そう自信をのぞかせた。
2010年代半ばには大量撤退を余儀なくされ、身売り交渉まで飛び出したアバクロ。
いかにして復活を遂げたのか。
アバクロの創業は1892年、当初はアウトドアや狩猟、釣り道具の販売店だった。
転機は1992年に訪れる。
マイク・ジェフリーズ前CEOが着任し、10〜20代向けのアパレルブランドに大きく転換、全米に出店を広げた。
クラシックながら、体のラインを強調するセクシーさも取り入れたカジュアルなデザインが若者の間でヒット。
強い香水が漂う薄暗い店内で、マッチョな白人男性が客を出迎えるスタイルはアバクロの代名詞にもなった。
2000年代後半にはカナダやロンドン、東京など海外展開も加速した。
ところが2010年代に入ると、成長に陰りが見え始める。
リーマンショック後、消費者の低価格志向が高まりファストファッションの攻勢を受けたことに加えて、容姿端麗な白人ばかりを店員や広告モデルに起用するような、排他的な戦略が敬遠されるようになった。
業績悪化を受け、2014年にジェフリーズ前CEOが退任。
同氏は昨年、モデル志望の男性らに対する性的な人身売買に関与した疑いで、逮捕・起訴されている。
「全米で最も嫌われる小売ブランド」――。
アメリカの顧客満足度指数(2015年)において、そう認定されるまで落ちぶれたアバクロ。
CEO不在の期間を経て2017年、新CEOに就いたのが、高級百貨店での商品政策に携わってきたホロヴィッツ氏だ。
ホロヴィッツCEOは赤字店舗の撤退を進めていった。
就任直後に15年以上ぶりとなる新たな店舗モデルを発表。
大型店の面積縮小を行う一方で、オンライン注文の受付・商品の店頭受け取りなど、ECと連携する機能の強化を推し進めた。
並行して、モバイルアプリや顧客会員制度の構築、ソーシャルメディアを活用した広告展開など、デジタル分野へ集中投資。
数年をかけ、強烈なブランド戦略に基づくトップダウン型から、デジタル基盤をベースに顧客の購買傾向やニーズを吸い上げ、商品構成を練る組織運営への転換を図った。
マッチョな上裸の店員は姿を消し、商品カテゴリー、サイズ展開も見直した。
多様な体型や用途に合わせたドレスライン、仕事着などを展開。
年齢層も引き上げ、ミレ二アル世代をメインターゲットに据えた。
一方のホリスターは、新学期商戦をにらんで30以上の大学と提携し、限定コレクションを販売するなど、アバクロと差別化したマーケティングで10代顧客を取り込んでいる。
2020年にはコロナ禍が襲った。
アバクロも店舗閉鎖や外出自粛の余波を受けたが、店舗の撤退・縮小やECへの移行を進めていたことが奏功し、競合他社よりも打撃を受けずに乗り切った。
オンラインの販売比率は2017年度の28%からコロナを経て一段と成長し、現在は約5割に達している。
一連の改革で大きく改善したのが販管費だ。
直営サイトやアプリでの販売は、販売員の人件費や賃料がかからないため、利益率が相対的に高まる傾向にある。
売上高に占める店舗流通費(マーケティング費用や一般管理費を除いたコスト)の比率は、2010年代は45%前後だったのに対し、2023年度は36%に低減している。
もともと粗利益率は約6割と高く、販管費が抑えられたことで、2024年度の営業利益率は15%を見込むまでに改善した。
収益性では、同業のGap(2023年度実績は3.7%)やアメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(同4.2%)を引き離し、ZARAを展開する世界首位のインディテックス(同18.9%)に近い水準だ。
「私たちはかつてのジーンズとTシャツの会社ではなく、真のライフスタイルブランドになった。年齢層とカテゴリーを拡大し、20代から買っていた顧客が40代まで長く利用している」
この勢いはどこまで続くのか。
業績見通しの上方修正を発表した1月13日、株価は前営業日終値(160.92ドル)から20%安となる128.3ドルまで一時急落した。
その後も上方修正前の株価を大きく下回る水準が続く。
修正後の直近四半期(2024年11月〜2025年1月期)の売上高成長率見通しが、前年同期の実績を下回ることから、成長鈍化の懸念も一因とみられる。
ここ数年の快進撃のほとんどは、売り上げの8割を占める北米事業によるものだった。
持続的な成長に向けて、ヨーロッパ、アジアなどの拡大が焦点となる。
足元では、多様性重視の姿勢に対する反発の動きもある。
1月20日に発足したトランプ政権は、政府内でのDEI(多様性、公平性、包括性)を推進する取り組みを廃止する方針で、アメリカの小売業界ではDEIに関連した施策を縮小する大手企業も出始めている。
多様な消費者に受け入れられるブランドへ転換し、窮地を乗り越えたアバクロ。
デジタルと連携させた収益基盤のさらなる拡大と、社会の変化を嗅ぎ取るバランス感覚が、次の成長ステージへの移行を占うこととなる。
参照元∶Yahoo!ニュース