スクープの舞台裏 安倍政権の閣僚の“疑惑”を激写した文春砲!週刊文春記者の回顧
日本一の発行部数を誇る週刊誌「週刊文春」といえば、「文春砲」の異名が示すように、世間を驚かすスクープ報道が目玉となっている。
文春砲を受け、失脚した閣僚・政治家は少なくない。
週刊文春の本山裕記記者(45)は、10年を超す文春記者のキャリアの中で、多くのスクープを世に送り出してきた。
本山記者が手掛けた代表的なスクープの一つが、安倍晋三政権下であった2019年の「菅原一秀経済産業相の公職選挙法違反問題」だ。
この報道が引き金となり、菅原氏は閣僚辞任に追い込まれた。
「安倍一強」と呼ばれた時期、国政の中枢・永田町に衝撃を与えたスクープは、どのようにして生まれたのか。
しめやかな雰囲気の東京都練馬区の斎場で、喪服姿の本山裕記記者は、ある人物を待っていた。
2019年10月17日午後6時前、目当ての男性が姿を見せる。
参列者にあいさつを済ませると、男性は受付に向かった。
本山記者の視線の先にいたのは、菅原一秀経済産業相の秘書。
練馬区は菅原氏の地元選挙区で、有権者の通夜を訪れた秘書が香典を渡す「決定的瞬間」はカメラに収められた。
寄付行為を禁じる公職選挙法において、政治家本人以外が香典を持参した場合、公選法違反となる。
菅原氏の秘書の行動は、これに該当した。
2019年9月に発足した第4次安倍再改造内閣で初入閣を果たした菅原氏。
この時だけに限らず、地元への「ばらまき」は長い間、当たり前のように行われていた。
カニ、メロン、たらこ・すじこ、みかん…。リストに記された品々と、それらを送った先の住所や氏名。
本山記者が知り合いの政治関係者から入手したのは、菅原氏による2006年夏~07年冬の「贈答品リスト」だった。
住所や氏名は菅原氏の地元有権者で、その数は100人以上に上る。
「これはエグいリストだな」と思った。
菅原氏は 練馬区議会議員、東京都議会議員を経て、2003年の衆院選に自民党から東京9区に立候補し、初当選する。
「ジバン(組織力)やカンバン(知名度)が弱いから『ばらまき』でのし上がってきたんだな」と本山記者は想像を巡らせた。
贈答品リストには「安倍晋三先生」など、自民党の大物議員らの名前も見えた。
本山記者を中心とする取材チームが取りかかったのが、過去の秘書に話を聞くことだった。
国会議員に関する情報をまとめた「国会議員要覧」などで歴代秘書を洗い出し、接触。
一人に話を聞けば、また別の元秘書を紹介してもらうという流れで、後輩記者たちと共に汗をかき「ほぼ全員に当たり尽くした」といえるほど取材を積み重ねた。
すると、複数の元秘書が贈答品リストの存在を認め、また菅原氏が自ら「この人はメロン2個」などと細かく指示を出していたという証言を得た。
疑惑の裏付けを固め、週刊文春2019年10月17日号(10日発売)、10月24日号(17日発売)と2週連続で報じた。
そして「香典事件」は起きる。
10月17日に菅原氏の秘書が香典を持って行くという情報が寄せられた。
写真はインパクトがあり、強い証拠能力を持つ。
「このチャンスに現場写真を押さえる」と意気込んだ。
芸能人の不倫スキャンダルなどにたけた猛者がそろう「最強の張り込み班」がチームに合流。
写真週刊誌出身記者の「狙ったら逃さない」プロの仕事で、香典シーンを激写した。
この時、本山記者は「文春を警戒して来ないかもと思っていたら、本当に来た」と、スクープとは違う意味で衝撃を受けていた。
週刊文春は菅原氏の疑惑を2週連続特集中で、国会でも野党議員による追及が続いていた。
香典事件はその最中の出来事で、“有権者買収”の常習性を感じさせる一幕といえた。
そして特集3週目となる10月31日号(24日発売)に「菅原一秀経産相『有権者買収』撮った」の見出しが躍った。
報道翌日の10月25日、菅原氏は「結果として秘書が香典を出した」と認め、安倍首相に辞表を提出した。
事実上の更迭だった。
2021年6月に自民党を離党し、衆院議員を辞職。
その後、東京地検に公選法違反(寄付行為)の罪で略式起訴され、東京簡裁から罰金40万円、公民権停止3年の略式命令を受けた。
なぜこんなことをしたのか―。
本山記者は取材の中で、地元有権者から「一秀さんいい人だよ」と、よく言われた。
一方で報道後、「俺は悪くない」「秘書が勝手にやった」など、菅原氏の往生際の悪さが漏れ伝わってきた。
一連の公選法違反の問題について、十分な説明責任は果たされなかった。
「今後、政治家を続けていく上で、この人は有権者に誠実でいられるのだろうか」。
スクープの後味は失望だった。
公民権回復後、菅原氏は2024年10月の衆院選で地元・東京9区に立候補。落選した。
参照元∶Yahoo!ニュース