なぜファミマは“涙目”を選んだのか 「値下げシール」導入の舞台裏
ファミリーマートが全国での採用を決定した、値下げシールのデザインが話題になっている。
消費期限の迫ったおむすびや弁当などに貼るもので、「たすけてください」のメッセージと涙目のおにぎりのイラストが描かれている。
2025年3月から順次、全国の店舗に導入予定だ。
同社が2024年秋に実施した実証実験では、シールのデザインを変えることで値下げした商品の購入率が5ポイント向上した。
これを受けて全国への拡大が決定、同施策により店舗における食品ロスが年間で約3000トン削減すると見込んでいる。
新デザインを決定するにあたり、イラストとメッセージを約10パターン作成して消費者モニター調査を実施しているが、同プロジェクトを牽引したサステナビリティ推進部環境推進グループ マネジャーの原田公雄氏と同グループの松村陽氏は、「予想外の結果だった」と話す。
どのような経緯からデザイン変更にいたったのか取材した。
ファミリーマートでは、環境の中長期目標「ファミマecoビジョン2050」に則り、店舗における食品ロス削減に取り組んでいる。
食品ロスを2018年比で2030年に50%、2050年に80%削減するという数値目標を掲げている。
そうしたなか、包装の改良による消費期限の延長や規格外の食材の活用、AIなどを活用した発注精度の向上、消費期限の迫った中食商品の割引(エコ割)などを実施して、成果を上げてきた。
2023年度は2018年対比で28.9%の削減となり、2024年度は集計中だが、より上向くと予想している。
「さまざまな施策の複合的な効果としての実績ですが、肌感として2021年7月から開始したエコ割は、食品ロス削減に非常に貢献していると思います。現在、全国9割以上の店舗でエコ割を活用しています」(原田氏)
ファミリーマートでは、比較的早期に値下げを実施してきたことから、その認知が広がっているという。
調べてみると、大手3社のうちローソンが最も早く開始しており、2021年12月時点で全国の9割の店舗で導入していた。
ファミリーマートでは同タイミングで8割が導入済みだった。
セブン-イレブン・ジャパンでは、2021年8月に売れ残った商品を加盟店の判断で自由に値下げできるシステムを導入したと報道されているが、2024年時点で常に値下げをする店舗は約3割にとどまっていた。
同年5月に本部が主導して値下げを推奨する方針転換が行われている。
各社が食品ロス削減に取り組むなか、ファミリーマートでは数値目標の達成を目指し、値下げシールのデザイン変更を思いついたという。
「キャラクターの表情を『笑顔』『号泣』『焦り顔』『困り顔』など約10パターン用意し、それに添えるメッセージも『このままだと捨てられてしまう』『私を連れていって』『私を買ってください』など表現を変えました。デザインを決めるにあたって消費者モニター調査を行ったところ、『涙目』の表情と『たすけてください』のメッセージが圧倒的に評判が良かったんです」(松村氏)
松村氏は当初、「笑顔のイラストが売り上げにつながるのではないか」と仮説を立てていた。
しかし、調査では「笑顔だと販促として買ってほしいようなイメージがわく」といった声が聞かれたという。
メッセージについても、直接的な「たすけてください」よりも、やや控えめな「私を連れていって」や「私を買ってください」などのほうが好まれそうだと予想していたが、それらは「目的が食品ロス削減だと伝わりづらい」「セールやキャンペーンのように思える」と、あまり評判が良くなかった。
「『なぜ買ってほしいのかが分からない』といった声が多く聞かれました。一方、涙目のキャラクターと『たすけてください』というメッセージは、『このままだと捨てられてしまうから助けてほしい』という当社のメッセージが一番伝わりやすいと好評でした」(原田氏)
モニター調査では、多くの人が「食品ロス削減に貢献したい」「社会を良くするために何かアクションをしたい」といった意思を持っていることも読み取れたという。
その意思を後押しするにも、「涙目」に「たすけて」というメッセージがベストだと判断し、このデザインで実証実験を行うことにしたそうだ。
実証実験は、2024年10月30日~11月26日までの4週間、東京都と神奈川県の合計6店で実施した。
エコ割の利用状況が全店平均レベルの店舗を選定し、デザインを変更した値下げシールを使用した場合と従来の値下げシールを使用した場合で、値下げ商品の販売状況や食品ロスの削減状況にどのような変化が起こるかを比較検証した。
「結果的に、デザインを変更したシールを使用した商品の購入率が5ポイント向上しました。購入した方に購入理由をヒアリングしたところ、『涙目のイラストが目にとまったから』『食品ロス削減に賛同したから』という声が聞かれ、このデザインが購入につながっていると感じました」(松村氏)
「デザインに関係なく、『単純にお得だから』という理由で購入する方は一定層いると思います。一方で、『キャラクターがかわいそうで助けたくなる』という方や、『通常の値下げシールよりも買いやすい』という方もいました。これまでエコ割の商品には手を伸ばしづらかった方でも、食品ロス削減を目的に購入するのだからと意識が変わり、行動しやすくなるようです」(原田氏)
新デザインの値下げシールは、2025年3月から順次、全国の店舗に導入予定だ。
全国的に展開することで、年間で約3000トンの食品ロス削減を見込んでいる。
筆者は、ファミリーマートで値下げ商品を時々購入するが、言われてみれば、若干の恥ずかしさを感じることがある。
特に、値下げ商品を複数まとめ買いするときに、そのような感情が生まれやすい。
店舗にはセルフレジもあるが、エコ割の商品はそれが使用できず、必ず店員のいるレジで会計する必要がある。
シールのデザイン変更に加え、セルフレジでもエコ割の商品を会計できるようになれば、より値下げ商品の購入率が上がるかもしれない。
参照元:Yahoo!ニュース