出版社の「業績悪化」企業 過去最大の66.1% 物流費の高騰が響く

出版社をイメージした画像

出版業界は現在、深刻な不況に直面しており、出版社の6割超が業績悪化に苦しむ。

2024年には倒産および休廃業解散件数が62件発生し、コロナ禍前の水準に戻りつつある。

この厳しい状況下で、今後はデジタルシフトと出版流通の効率化が焦点となる。

大手出版社はIP(知的財産)ビジネスとデジタルコンテンツを駆使して海外市場への進出を加速させる。

一方、中小出版社は市場ニーズに応えるなど、市場変化に対応するオリジナリティが求められよう

2023年度決算の損益状況が判明した出版社675社を分析すると、36.6%にあたる247社が「赤字」となり、構成比は過去20年で最大となった。

さらに、前年度から「減益」(29.5%)となった企業を合わせた「業績悪化」の割合は66.1%に達し、過去最大を記録した。

コロナ禍での巣ごもり需要により、電子書籍などのデジタルコンテンツ需要が拡大したものの、書店での販売部数の減少を補うまでには至らなかった。

さらに印刷用紙やインクなどの仕入れコスト、人件費、物流費といった各種コストの上昇も業績悪化に大きく影響し、特に雑誌媒体が大幅に落ち込んだ。

また、「委託販売制度」(書店で売れ残ったものを定められた期間内であれば返品できる販売方法)を利用した返品率は3~4割超で高止まりしており、出版社の物流費や在庫負担増の要因となっている。

価格転嫁への動きも鈍い。

帝国データバンクが2024年8月に発表した「価格転嫁に関する実態調査(2024年7月)」では、出版社の74.9%が価格転嫁率50%未満であると回答した。

価格転嫁率は27.7%と全業種(44.9%)を大きく下回る結果となった。

新刊本の価格転嫁は徐々に進んでいるものの、既刊本については価格転嫁が難しいというのが実情のようだ。

2024年に発生した出版社の倒産および休廃業・解散件数は62件となった。

2年連続で60件を超えており、政府の各種支援策によって抑制されていた発生ペースは、コロナ禍前の水準に戻ったことがうかがえる。

企業からは、「印刷費の高騰や出版取次の仕入制限で業況は良くない」「書店の閉店に歯止めがかからず、返品も増えている」といった先行きを不安視する声が聞かれる。

とりわけ雑誌の落ち込みが大きく、直近の動向を見ても、育児誌の先駆けである月刊誌「母の友」をはじめ、老舗鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」やライトノベル文芸誌「ドラゴンマガジン」が2025年に相次いで休刊となることが発表されており、紙媒体の出版物の減少に歯止めがかからない状況だ。

他方、電子出版は好調で、2023年の販売金額は前年比6.7%増、2024年上半期は前年同期比6.1%増と堅調に推移している。

電子出版の約9割を電子コミックが占めており、アニメ化や実写化、ゲーム化などのコンテンツを通じて市場が拡大している。

ただし、ヒット作の有無や違法コピーして作品を掲載する「海賊版サイト」による著作権の侵害などの問題もあり、各社はIP(知的財産)ビジネスやデジタル広告などの多角化戦略や著作権対策を強化している。

紙媒体の出版物の低迷が続くなか、今後はデジタルシフトや出版流通の効率化が焦点となる。

業界大手のKADOKAWAは、2025年1月にソニーグループと資本業務提携を締結した。

IPビジネスを強化し、デジタルコンテンツを武器に海外市場への展開を加速させるなど、大手出版社では新たな市場の開拓が進められることが予想される。

一方で中小出版社は、書店との関係性強化や、特色ある企画で読者ニーズに応えるなどの市場の変化に対応するオリジナリティが求められよう。

参照元:Yahoo!ニュース