インドの成長構造にほころび、けん引役の家計消費が低調

インドの国旗を撮影した画像

インドが停滞気味の経済成長を上向かせたいならば、国際舞台での同国の存在感を支えている金融の安定性をある程度犠牲にせざるを得ないだろう。

過去10年にわたるモディ政権の下で、インドの家計消費は3倍近くに膨らみ、国内総生産(GDP)の60%を占めて経済のけん引役を務めてきた。

だが足元の消費は低調で、2023年3月までの年度以降、その動きはGDP成長率の軌道と一致しなくなっていることが、パンジャブ・ナショナル銀行のエコノミストチームの分析から見て取れる。

富裕層と大口取引が主体の高級品分野以外では、インド消費市場のほころびが露わになったようだ。

自動車販売は、ヒンドゥー教の祝祭期間で通常なら活況期のはずの10―11月も横ばいにとどまり、外食費は減少。

スターバックスと提携先のタタ・コンシューマー・プロダクツは事業拡大にブレーキをかけ、2028年までに1000店を展開する目標は維持したものの、新規開店ペースを落としつつある。

現状では、インドの今年3月までの年度のGDP成長率は6.4%と4年ぶりの低い伸びになり、政策担当者が向こう10年で想定した持続的成長軌道の下限にまで落ち込む見通しだ。

端的に言えば、消費は盛り上がる本格的なチャンスをつかむ前に勢いが消えようとしている。

問題の核心にあるのは、さえない雇用環境だ。

世界最大の人口を有するインドでは労働力が有り余り、賃金の伸びを抑え込んでいる。

せっかくの「人口ボーナス」が裏目に出た形で、国際労働機関(ILO)が政府データに基づいて調査したところでは、23年の勤労者の平均実質賃金は前年を約1%下回った。

これは中間層が拡大するどころか縮小しているとの懸念を高めるものだ。

実質所得が伸び悩んだ結果、インドの中間層には米国流の消費主導経済をもたらす裁量的な買い物に使える金額は乏しくなってしまった。

ネスレのインド現地法人のスレシュ・ナラヤナン会長は昨年10月、同社のような消費財企業が顧客層としてきたインドの中間層が縮んでいるように見受けられると警鐘を鳴らした。

心配なことに、そうした問題は広範囲に及んでいる。

民間セクターで雇用規模が最も大きい事業の一つ、ITサービスは採用と給与支給額を減らしつつある。

タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のような企業が提供するこのようなサービスの需要は鈍化が続く。

オートメーションや人工知能(AI)を含めた先端的な技術の発達で、人材派遣と金融サービスにおける単純労働職は消滅し、各企業は退職者が出ても補充をしない。

インドの労働力人口の46%を占める農業分野の所得は24年、十分な降雨に恵まれたおかげで堅調だった。

しかしこれは23年までの2年間の所得停滞の流れを一時的に変えたに過ぎない。

気候変動は天候や食料価格の面で従来のパターンを覆し、6月にはムーディーズがインドの水資源逼迫(ひっぱく)をソブリン格付け低下リスクに挙げた。

長期的な解決策は、農業以外でより多くの雇用を創出することになる。

モディ政権は工業が労働力を吸収し、従業員により高い賃金を払ってくれると期待して、製造業分野への投資を促進している。

だがこの取り組みを進める上で不可欠な外国からの直接投資は減少中だ。

短期的には、インド政府はコロナ禍後の「リベンジ消費」に沸いた2年を経て、再び生産と消費の伸びが軟化するトレンドに戻るのを避けなければならない。

民間消費の減少は経済成長に直接響き、税収が落ち込む。

需要不振は民間投資の減少も意味し、成長押し上げにおいて政府の負担がより大きくなってしまう。

当局は減税を通じて消費を刺激することはできる。

実際2月に提示する予算案に、個人所得課税の軽減を盛り込むことが検討されている。

ただ政府として、26年3月までに財政赤字のGDP比を4.5%に収めるという目標の達成を危うくせずに、歳入源を手放すという行動はなかなか取りにくいだろう。

財政赤字拡大はかえって消費にさらなる打撃を与えかねない。

政府の借り入れコストが増大すれば、ソブリン格付けが低下し、外国為替市場で通貨ルピーが下落するので、インドが輸入する石油の価格が上昇し、物価高騰につながるからだ。

石油価格はただでさえ、ロシア産原油を運ぶタンカーを米政府が制裁対象としていることで、跳ね上がっている。

想定されているように、インドの政策担当者が輸出競争力を維持する目的でルピー安を容認するようなら、こうした問題はあっという間に深刻化してもおかしくない。

減税の代わりに、インド準備銀行(RBI、中央銀行)が個人の借り入れ環境を緩和し、消費を喚起する手もある。

とはいえRBIのマルホトラ新総裁は、インドの銀行システムが最近ようやく企業の不良債権危機の痛手から回復したばかりということもあり、消費者ローン残高の急増に起因するリスクには慎重になるだろう。

一方でRBIが23年11月に無担保融資のリスクウエートを引き上げた結果、個人向けローン残高の伸びは1年前の半分近くまで下振れ、消費を冷え込ませた。

いずれにせよ、力強い経済成長とマクロ経済の安定というバラ色の言説は土台が崩れやすい。

政策担当者が介入するのであれば、遅くなるよりは早めに動くのが得策だろう。

参照元:REUTERS(ロイター)