神戸大の震災文庫、6万点の「語り部」収集 避難所チラシや代行バス音声など「人々が生産したもの全て」

阪神大震災をイメージした写真

神戸大学付属図書館(神戸市灘区)には、阪神大震災のあらゆる資料を収集・所蔵する「震災文庫」と呼ばれる部屋がある。

書籍だけでなく、警察や自衛隊による被災者救出の報告書、復興関連会議の議事録、避難所で配られた弁当の写真、鉄道駅で流れた代行バスの運行状況アナウンスの音声テープなど約6万点の「語り部」だ。

震災後、「地震関連資料を網羅的に見たい」という要望が何件も図書館に寄せられた。

上司に「対応できるか」と問われた当時の司書、稲葉洋子さん(73)は「やりましょう」と即答した。

あの日から「図書館が災害時にできることは何か」をずっと考えていた。

収集の責任者に就き、1995年4月から書籍や雑誌の購入を始めたが、すぐに「図書だけでは、震災の全貌(ぜんぼう)はつかめない」と気付いた。

仮設住宅の抽選案内文、生活ルールをまとめた避難所の手書きチラシなど震災を伝えるものは無数にあり、収集対象を「震災後に人々が生産したもの全て」に広げた。

特にこだわったのが復興計画が練られる過程などを記した1次資料だ。

「報告書では被災者の意見の検討経過が省かれ、全容がわからなくなる」と考えた。

住民団体が95年2月末、神戸市に提出した陳情書には「他府県に避難している人がたくさんおり、住民不在の中で『まちづくり』が決定されようとしている。地区の人々が参加できる状況になるまで、今少し待ってほしい」との訴えが手書きで記されている。

「家が倒れ、焼けてしまった市街地を一日も早く復興するために計画決定はどうしても必要。ご理解いただきたい」という市長名での回答文書も残した。 

集めた資料は、海外の被災地にも提供した。

99年8月のトルコ大地震では、現地の大学関係者から仮設住宅の資料をリクエストされ、翌月の台湾大地震では、現地入りした日本の研究者から「復旧活動の資料を至急ファクスで送ってほしい」と連絡を受けた。

震災文庫の理念は、他の被災地にも広がる。

東北大学付属図書館(仙台市)は2011年の東日本大震災発生直後から避難所で配布されたチラシなどを収集。

学校便りや個人の手記など約9000点を所蔵する。

佐藤初美・同館事務部長(58)は、雑誌で震災文庫の取り組みを知っており、「発生当初から資料収集に動けた」と振り返る。

兵庫県立歴史博物館(姫路市)で開催中の特別展「阪神・淡路大震災を伝える・知らせる」には、震災文庫から手書きのボランティア用マニュアルなどが出展されている。

解説文を手がけた神戸大大学院1年大久保雄基さん(22)は「情報を発信した人たちの思いが資料から伝わってくる。自分も同じ状況になったら主体的に動きたい」と話す。

東海国立大学機構の堀田慎一郎特任助教(アーカイブズ学)は「震災文庫の資料は、被災当時にしか生み出せない唯一無二のものばかり。特に被災者、住民の視点は重要で、今後の災害対策に活用する機会が多いだろう」と評価する。

参照元∶Yahoo!ニュース