相続した土地100坪もいらないのに手放せない 「ただでいいから使ってほしい」63歳苦悩 要件厳しい 国が引き取る制度の実態
相続したものの使い道に困る土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」が2023年4月に創設されてからの1年半余で、長野県内で国有化された土地は申請の3割弱にとどまる。
法務局の審査を通れば一定の負担金を納めることで国に引き渡せるが、更地でなければならないなど多岐にわたる要件を満たせず、申請そのものを断念する例も多いのが実態だ。
長野地方法務局(長野市)によると、県内では制度が始まった23年4月から24年11月までに61件の申請があったが、うち国有化されたのは17件(27・9%)。
内訳は宅地が4件、農用地が2件、森林が3件、その他(雑種地や原野など)が8件だった。
法務省によると、全国でも同期間の申請3008件に対し、国有化されたのは1089件(36.2%)にとどまる。
国有化が進まない背景には審査要件の厳しさがある。
同制度では、土地を国が引き取る要件として「建物がある土地ではない」「債務の担保になっていたり、他人が使用する権利が設定されたりしている土地ではない」など18項目を設定。
法務局職員の実地調査もあり、審査には8カ月ほどかかる。
承認されると10年分の管理費用として原則20万円の負担金を国に納める。
長野地方法務局国庫帰属審査室は要件のうち「一つでも該当しない項目があると承認できない」と説明。通路や水道用地として利用されていたり、周りの土地との境界が明らかでなかったりすると「却下」や「不承認」となる。
崖があって管理に多額の費用や労力がかかる、管理を阻害する工作物や樹木がある―といった土地も承認されない。
相続手続きや同制度の申請について相談を受ける県司法書士会の小林雅希会長(50)=長野市=は、自身が受けた相談の中では同制度への申請までこぎ着けた例はなく、要件の厳しさから「大体は説明を聞いて諦めていく。申請の前段で相当ふるいにかかっている」と話す。
特に山林は境界があいまいで、要件を満たしにくいとする。
「ただでもいいから使ってほしい」。
千曲市稲荷山の会社員市川正幸さん(63)はため息をつく。
長野市篠ノ井塩崎に所有する約100坪(300平方メートル余)の土地は雑草が伸び放題で、夏場は毎週末、他の時季は2週に1度の頻度で草刈りをする必要がある。
隣家の庭木に影響が出ないよう、除草剤は使わないようにしている。
土地は千曲川堤防に隣接した農地で、自宅からは車で10分ほど。
両親が生前に耕作していたが、父親に続いて2017年に母親が亡くなり相続。
会社勤めの傍らの野良仕事は自宅庭の家庭菜園で十分といい「100坪の農地なんかとてもいらない」。
無償で貸していた近所の人も高齢で農作業ができなくなり、10年近く持て余している。
農地を農地として売却する場合、農地法の規定で相手は専業農家らに限られる。
市街化調整区域に当たり、河川法上の河川保全区域でもあるため宅地化も難しい。
使い道が限られ、買い手が付かない。
24年夏、市川さんは相続土地国庫帰属制度の存在を知り、長野地方法務局に相談した。
だが、地下にガス管が通っていることや一部が堤防への通路になっていることから、「他人の使用が予定されている土地ではない」「通常の管理・処分を妨げる物が地下に埋まっている土地ではない」といった要件を満たさず、断念した。
各行政機関に問い合わせたが「八方ふさがり」。
3人の子どもたちには「草刈りや農作業をやれ」とは言えず、「少子高齢化の今、ますますこの傾向は増していくだろう」。同様の悩みを抱える人は多く、周囲にも草だらけの空き地が増えている。
市川さんは使い道がない相続土地の問題について、「今の状態だと個人任せになりすぎている。農業委員会が仲介するなど、行政も関与して少しでもいい方向に進んでほしい」と訴えている。
参照元∶Yahoo!ニュース