人と一緒に食事ができない『会食恐怖症』 給食の完食指導も発症の一因に 「な吐き気がして、ものを口に入れることも難しい」“食べられない自分”と向き合う人々の孤独と葛藤 勇気を出して踏み出した一歩の先に
友人や職場の同僚で、食事や飲み会の場にあまり参加しない人いないだろうか?
その人は、『会食恐怖症』を抱えているのかもしれない。
周囲に打ち明けられずにひとりで悩み、人間関係や仕事に影響を及ぼす人も…。
食べられない自分と向き合おうと、一歩を踏み出した人々を取材した。
京都市内の病院で事務として働く、ともさん(49)。
昼食は、コンビニのサンドイッチ。
この日は部屋の片隅で、一人でとりました。
(ともさん)「周りの人も一斉に食べ始める環境になると、食べるのが遅かったり、まだ残っているのを見られて、それを焦って食べようとする気持ちになり、それで逆に食べられなくなります。しんどいときは吐き気がして、ものを口に入れることも難しい」
ともさんが小学生の時から40年以上抱えているのが、『会食恐怖症』だ。
人と一緒に食事をすることに強い不安や恐怖を感じる、『社交不安症』という心の病気のひとつ。
家族や親しい友人など限られた相手とは食事できる人もいれば、水を口にすることすら難しい人もいる。
度合いは、人それぞれだ。
定食やコース料理といった決まった量を食べるのに苦痛を感じる人が多く、麺類や鍋・回転寿司などは比較的気楽だという人もいる。
量を調節できるからだ。
周りに知られたくないという思いも…
(ともさん)「一口食べたときに気持ち悪くなってしまうと、2口目から口に入れることができなくなります。言葉を発することも気持ち悪くなって、できない。脂汗をかきながら、ひとりで愛想笑いして。男の人って、みんな食べるじゃないですか。その中で、自分が食べられなくなったときの“みじめさ”というか…。どうやったら知られずに過ごせるかということのほうが、大きかったです
しおりさん(仮名・23)も、会食恐怖症の症状に悩むひとり。
昼食は、仕事の休憩時間に自宅に戻って、一人でとることがある。
(しおりさん/仮名)「自分が人と一緒に食事ができないと認識し始めたのが、中学生ぐらいのころです。お店に入った時点からしんどい、なんだか動悸がするとか…」
もともと小食で、修学旅行での大人数での食事が苦手だった。
デザイン関係の会社に就職して2年目。
友人以外との食事の機会も増えました。症状や実情を知ってほしいと、SNSで発信している。
【しおりさんのSNSより】「ショッピングや楽しく会話している時は、いつも通りなのですが…。『ご飯行こう』その一言で動機がして、喉が閉まったような感覚になります。メニューから探すのは『食べたいもの』ではなく、量が少なくて『食べられそうなもの』。運ばれてきた料理を前にすると突然全身が強張り、冷や汗が止まらなくなります。手は震え、吐き気を抑えるために、飲み物を流し込む。話も当然楽しめず、相手に伝わらないよう隠すのに必死でした」
「必要以上に人のことを気にしてしまうところがあって。小食のことを人に指摘されるのが嫌とか、待たせてしまうから急いで食べなきゃとか…。そういうところが、自分を追い詰めてしまったのかなと感じています」
「人との関係が築きにくい」
大学時代、体に不調を感じるだけではなく、交友関係に影響が出たこともありました。
(しおりさん)「行きたいけど、怖いからという理由で(食事の誘いを)断ってしまったり、『用事があって』と嘘をついて、食事の場から逃れてしまった経験があります。症状のせいで、人との関係が築きにくいなと…」
2024年8月、学校の栄養教諭を対象にした研修会が開かれた。
講演したのは、克服支援の活動をする山口健太さん(30)。
自身も、過去に会食恐怖症を経験した。
(日本会食恐怖症克服支援協会・山口健太さん)「高校生のときに、野球をやっていました。合宿で『食事のノルマ』があって、『山口、昼飯食ってなかっただろ』と監督から指導されて。食べなきゃと思えば思うほど緊張して不安になって、一口がんばって口に入れても、喉を通っていかないんです」
部活動や学校給食での、“残さず食べること”を指導する完食指導。
日本会食恐怖症克服支援協会のアンケートでは、2人に1人が「発症のきっかけに給食の完食指導が関わっている」と答えている。
(山口さん)「『食べないことはダメなこと 自分はダメな人間だ』と、自分で思ってしまいます」
山口さんは、深まる心の傷を克服するために大切なのは、“考え方を変えること”だという。
(山口さん)「一番つらいときは、誰にも言えない。症状を受け入れられていないから隠そうとしていたり、隠さないといけないから不安や緊張が高くなって、症状が強くなる。一歩受け入れられるようになると、症状も出にくくなるし、不安も、ゼロではないけど軽減されます」
そうした経験を基にしたカフェが、大阪市内にある。
無理して食べなくてもいいカフェだ。
利用者もスタッフも含めて、全員が会食恐怖症の当事者たち。
前向きな考え方を身につける、悩みを分かち合う場所だ。
利用者・スタッフの全員が当事者(スタッフ)「最近、会食の場面はありましたか?」
(参加者)「できるだけ避けるようにしているので、あったとしても断っています」
(参加者)「仕事のお付き合いで会食に行かないといけなくて、上司も『若いので、どんどん食べてください』と優しさで気遣ってくれるけど、それがプレッシャーになって…」
(ともさん)「就職も、外回りでご飯を食べないといけないから営業を避けて、出張がある職場は避ける。やりたい職種で仕事を選ぶんじゃなくて、この会社は外で食べないといけないとわかっていたら、避ける」
(しおりさん/仮名)「食べるのが難しい・緊張してしまうのは、なかなか共有されない悩み。この世で一人だけなんだろうという悩みがあったので、同じ悩みがある人がこんなにもいるんだなと、びっくりしました」
悩みも経験も、人それぞれ。
ただ、ここでのルールは、たった一つ。
食べても、食べなくてもいいこと―。
(食べなくてもいいカフェ・けいさん)「当然、食べられなかったシチュエーションで食べられるようになれば、人生の幅は広がるので良いことですが、もっと良いのは、『食べられない自分でも全然いいんだよ』と思えるような、自分がオープンにできる関係性が、安心できる・リラックスして過ごせる関係性なのかなと思うので、克服に向けた大きな要因になると思います」
誰かと食事ができなくても、そんな自分を認めるのも、一つの克服の形です。
(しおりさん/仮名)「もともとは、ご飯が食べられない自分を嫌な自分というか、直したい、でも直せないと、食べられないことを受け入れられなかったけど、カフェに来て、同じような人がいることを知って、食べられない自分をありのままに受け入れることができました」
食べられない自分とうまく付き合っていくには、どうしたらいいか―。
しおりさんは友人たちに、思い切って症状のことを打ち明けました。
【しおりさんのSNSより】「『そんなこと全然気にしなくていいよ!』悩みをちゃんと聞いてくれた友人のあたたかい言葉に、涙が止まりませんでした」
40年以上『会食恐怖症』に悩む、病院勤務のともさん。
これまで、周りに深く説明していなかった症状について、初めて伝えることに決めた。
誘ったのは、同じ病院で働く気心の知れた仲間だ。
他愛もない会話をしてから、本題を切り出した。
(ともさん)「外で食べると、たまに気分が悪くなるときがあるねん」
(同僚・前田さん)「一人でも?」
(ともさん)「一人では、ならへん」
(前田さん)「お酒ではなくて?」
(ともさん)「そう。でも、結構こういう人いるってわかって。自分だけじゃなくて、結構いる。でも、言ったら言ったで引かれたり、変なふうに捉えられるから、それを言いたくない人もいる」
振り返れば、食事の場面で、ちょっとした違和感を覚えたこともあった同僚たち。
ともさんが打ち明けたことで、理解が進んだ。
(同僚・細渕さん)「みんなで楽しく食事をしようと集まった中に、食べない人がいたら、ノリが悪いのかなって思われがち」
(ともさん)「そうそう、ノリが悪いとか、この場が嫌やからそういう行動をしていると誤解される」
(細渕さん)「薬は飲んでいるの?」
(ともさん)「吐き止めみたいな、対症療法的な」
(細渕さん)「今の話を聞いて、そういうことなんやと。気を使えずに、ごめん」
(ともさん)「そんなん、言ってないからわからないのは当たり前やし(笑)」
会食恐怖症の自分を認める―周りに伝えて、改めて気づいたことがあった。
(ともさん)「自分が思っているほど、周りはそこまで気にしていないと再認識できて、良かったと思います」
あまり参加しないあの人も、人知れず悩んでいるのかも…
少しの勇気と共感が広がれば、食事は誰かと一緒に過ごす楽しい時間になるかもしれない。
食べても、食べられなくても―。
参照元∶Yahoo!ニュース