「僕は無精子症でした…」明かした男性不妊の苦悩、“心も体も痛い”夫婦で乗り越えた「妊娠18カ月生活」
「目の前で赤ちゃんがへその緒を切られて、“オギャアー”と泣き始めた瞬間、自然と涙が頬を伝いました。妻へのありがとうの気持ちが、とめどなく溢れてきて……」
俳優の仁科克基さん(42)が、歯科衛生士で元タレントの西原愛夏さん(29)との間に第一子となる男の子を授かったのは、2024年11月18日のこと。仁科さんに当時を振り返ってもらった。
妻で元タレントの西原愛夏さん、そして待望の赤ちゃん。
20年前、当時22歳のイケイケな仁科克基さんも 当初、愛夏さんは無痛分娩を予定していたが、直前で妊娠高血圧症候群を発症し、急きょ帝王切開に切り替えることに。
仁科さんも手術室に同行し、隣で妻を励ました。「妻の顔を見ているつもりでも、視界の片隅にお腹を切っている様子がチラチラと映り込んできたが、自分が弱っている場合じゃありませんよね。無事に赤ちゃんが出てきてくれるところまで見届けられて、本当に貴重な経験をさせてもらいました」
愛息の誕生から1週間後、自身のInstagramに《このベビーを授かるにあたり、様々な苦労もありましたが、それらを本当に全部、忘れられるぐらい感謝、感動でした》と綴った仁科。
ただ、「様々な苦労」が指しているのは、出産の出来事だけではなかった。
仁科が語った「苦労」とは「初めてお伝えしますが……僕、『閉塞性無精子』で、息子は不妊治療を重ねたのちに授かった子どもでした」
閉塞性無精子とは、いわゆる男性不妊症の一種。
産生された精子を体外に射出するための通路(精巣上体管や精管など)が、何らかの原因で閉じてしまう精路障害。
精巣内で精子は産生されるが、精子が通るための管が閉鎖してしまうことで精子が体外に射出されることはなく、無精子症と診断される。
ゆえに、相手側の自然妊娠はほぼ不可能とされている。
「妻には交際している時にすべてを伝え、話し合い、ふたりで納得して結婚しました。それでも、僕がどうしても子どもを諦めきれず、妻と相談して治療を受けることにしました。自分が不妊の原因だったので、妻には申し訳ない思いでいっぱいでした」
仁科さんが向き合ったのは、顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)だった。
精巣を切り開いて精細管を採取し、その中から精子を見つけ出す。
精子回収率は、施設にもよるが20~40%ほどと言われているものの、仁科さんは運良く複数の精子が得られ、凍結保存した。
「自分の陰嚢を切開するというだけでも恐怖感がありましたが、局所麻酔を打つ時にかなり痛みを感じました。あんな痛みは人生で初めてです。術後も、1カ月くらいは違和感が続きました。でも、精子がいたから精神的にはまだ救われました。しかし、ここから大変なのが妻なんです」
採取した精子は、女性側の体内で卵子を育てて排卵前に取り出し、その卵子に精子を直接注入する顕微授精(ICSI)を行う。
成長した受精卵(胚)を子宮に戻して着床すれば、妊娠できる可能性がある。
ただ、その過程には投薬や注射による採卵準備、採卵のための手術、そして培養させた胚の子宮内への移植と、少なくとも数カ月にわたり、物理的・精神的な負担がともなう。
それでも、夫婦は一縷の望みをかけ、治療に臨んだ。
「妻は毎日、数種類もの薬を飲んで、自分自身で注射を打たなきゃいけない。薬の副作用もあったと思うのですが、急に泣き出したり、悲しんだり苦しんだりと、メンタルが不安定になる時期もありました。彼女は本来なら問題なく自然妊娠できるのに、相手が僕だったばっかりに、痛くてしんどい思いをして……。申し訳なくて、とにかく妻に謝っていました」
背中をさすり、ほとんどの家事も行ったが、できることは「妻の側にいることくらいだった」と、仁科さんは振り返る。それでも妻は「あなたも手術、頑張っていたし」と、治療を続けてくれたという。
卵子が育つと、全身麻酔による採卵手術が行われた。注射で卵子を育てる過程で卵巣が腫れてしまい、痛みを感じたというが、採卵と顕微授精の結果、3つの受精卵を作ることができた。
そのうち1つを子宮内に移植し、夫婦はすがる思いで着床を祈った。
そして約1週間後、医師から告げられたのは、待望の「妊娠」だった。
その瞬間、流れ出した「涙」「本当に嬉しかった。無精子病の僕が、子どもを授かれるなんて……。一にも二にも、妻のおかげです。妻もやっと少し安心できたのか、その場でポロポロと涙を流していました」
奇跡的ともいえる妊娠に、互いの親も大喜びだった。
妊娠後は産婦人科に移り、赤ちゃんも問題なく育っていった。
今でこそ明るく話す仁科さんだが、妊娠に至るまでの苦悩、そして無事に生まれてくれるかという不安は、計り知れなかっただろう。
今回、仁科さんが無精子症を打ち明けることを決めた思いを次のように打ち明けた。
「男性不妊だったからこその苦しみや、夫婦で乗り越えなければならない試練も多かったけれど、そのぶん命の尊さや、妻へのありがたみを身に染みて感じることができました。それに、一般的な人は妊娠から出産まで“10月10日”ですが、僕らの場合は受精卵という初期の状態から1年半くらいずっと見守り続けられたからこそ、“この子の父親になるのだ”という自覚も強く持てました。そのなかで、自分の経験を発信していくべきなんじゃないか、という気持ちが芽生え、不妊の事実を公表することにしました。不妊と聞くと、どこか女性に原因があるように感じる人が未だにいるかもしれません。でも、僕みたいに無精子症だと、女性側には問題がないのに、すごく大変な思いをさせる場合もある。それを知ってもらいたくて……」
日々の子育ては「大変だけど楽しいです」と、柔和な笑みを見せた仁科さん。
不妊治療を経て、夫婦の絆はより深いものとなり、親としての我が子との人生を歩み始めた。
参照元∶Yahoo!ニュース