ゴルフ場ドタキャン対策「キャンセル料」導入の波 “お天気商売”で「触らぬ神に祟りなし」だったが

ゴルフ場を撮影した写真

新年会やこれから新年度に向けた歓送迎会などのシーズンになってくる。

毎年のように「問題」となっているのが、飲食店の予約のキャンセル。

「キャンセルポリシー(規定)」にそったキャンセルなら問題ないが、いわゆるドタキャンや無断キャンセルで店側が被害を受けるケースが多々ある。

「キャンセル料を取ればいい」といわれてはいるが、店の評判を気にしたり、そもそも相手の連絡先が曖昧なまま予約を受けているケースなどもあり、泣き寝入りするケースも多いという。

ゴルフ界でも、同じことが続いていた。

「キャンセル料」について多くのゴルフ場では「触らぬ神に祟りなし」とばかりに深入りしてこなかった。

歴史から言うと、かつてメンバーシップのゴルフ場がほとんどだったころは「そのゴルフ場の会員(メンバー)が予約してプレーする」「直接ゴルフ場に行ってスタートの順番を待つ」などが主だった。

客の顔が見えているので、キャンセルにしても「今日は行けなくなった」という断りだけで済んだのだろう。

会員権を買って、年会費を払っているのでキャンセル料という概念もなかったといえる。

しかしその後、ゴルフは多くの人に普及し、ゴルフ場が増えて近隣の「ライバル」との争いも熾烈になった。

収益を上げるため、メンバーシップのゴルフ場で会員以外の「ビジター」を受け入れるようになったところも多い。

するとビジター枠の予約でキャンセルが発生することもある。

しかし「キャンセル料を取ると嫌がられ、次に来てくれないかも……」といった駆け引きもあって、規定はあっても適用しない状態を長年続けていることが多かった。

そこに「メス」を入れたのが全国で149ゴルフ場を運営する「パシフィックゴルフマネージメント株式会社(PGM)」。

昨年7月のビジター予約分(プレー日は同10月1日以降)からプレー日直前のキャンセルについて、ゴルフ場によって多少の違いはあるがキャンセル料の徴収を開始した。

今年1月1日からは順次メンバーの予約にもキャンセル料が発生するようになった。

ゴルフは「お天気商売」と、某ゴルフ場の支配人が言っていた。

野球などに比べて雨には強いほうなのだが、雨具を用意するなどのわずらわしさがある。

また濡れた地面から打つのは通常より難しく、一般ゴルファーはスコアが悪くなりがちで雨が降ると「キャンセルしようか」となってくる。

「気軽に」キャンセルしようと思うのは、直前でもキャンセル料が取られることがなかったから。

キャンセル規定のあるゴルフ場は多くあるが、悪天候時はゴルフ場側が「安全にプレーできない」とクローズする場合もあり、定義があいまいなためキャンセル料を取らずにきた。

「雨が降ったらキャンセルしてもいい」「キャンセルされても仕方がない」というお互いの「暗黙の了解」のような風潮がずっと続いてきたのだ。

しかし、近年ではそれが拡大解釈されて、天候が理由でなくてもキャンセルするケースが増えてきた。

たぶん「仕事が入ったから」とか「風邪気味だから」とかで簡単にキャンセルする人が出てきたと思われる。

特に、プレー日間近の「ドタキャン」をされると、ゴルフ場側には空いた枠を埋める時間的な余裕がない。

連絡したからいいというものではなく、対外的に仕事をしている人なら「ドタキャン」の迷惑具合は常識としてわかっているはずだ。

予約がすぐに埋まる週末や大型連休に「とりあえず」予約して、都合がつかなければキャンセルする。

あるゴルフ場によると、コンペで10組の予約があったが、プレー日前日に組み合わせ表が送られてきて、そこには7組分しか記載がなく、何の断りもなく3組がキャンセルされていた、というケースもあったという。

そうしたキャンセル無料の拡大解釈に歯止めをかけるのが、今回のPGMのキャンセル料の徴収となる。

ビジター予約に適用した後の状況をPGM営業推進部の門伝正広部長に聞いたところ、「キャンセル料が発生するようになってから100件ほどの声をいただいています。半数は『他では取っていない』といったネガティブなご意見でした。あとの半数はご理解いただいているものと、『高齢者は体調不良になりやすいので取らないでほしい』といった要望でした」と話した。

PGMでキャンセル規定を検討し始めたのは2022年。

コロナ禍が落ち着き、コロナ禍中に感染リスクが少ないゴルフが注目されて新たに始める若い層が増えてきたことは当時紹介したが、そうした人たちがゴルフ場に来るようになった。

コロナ前の2019年9月~2020年3月と2023年度の同期を比較すると、女性は123%、39歳以下は121%に伸びたという。

「女性や若い世代の新規ゴルファーが増え、2020年8月ごろから予約が急増した。メンバーを含めて予約が取れない状態が続き、予約枠を広げたり時間帯を増やしたりしても追いつかなかった」という。

ところが、同じゴルフ場でデータを取ると、いっぱいのはずの土・日曜日の入場者の伸びは1.4%(2022年度)ほどしかなかった。それはキャンセルの影響だった。

 「ゴールデンウィークに調べたら、36ホールのコースで98枠が予約されていたのに、終わってみれば70組だったということもありました」(門伝氏)。23年は全予約の8%、約72万人の直前キャンセルが発生したという。

 「とりあえず予約しておこうということではないかと推定できます」(門伝氏)。1人1万円とすれば72億円がキャンセルで失われていることになる。

 何より、キャンセルはゴルフ場側に負担がかかる。「売り上げを失うのもそうなのですが、予約に応じた準備をしているので人件費の増加、食材の仕入れのコスト増やフードロスなども起きる」と、門伝氏。キャンセルが増えれば入るものが入らず、出ていくだけになる。結果、プレー費の値上げなどにもつながりかねない。

 そのようなとき、ロシアのウクライナ侵攻で始まった世界的な物価高騰もあり、PGM傘下のゴルフ場担当者から「キャンセル料を取れないか」という声が上がったという。

 そこで、そのゴルフ場独自で理事会決議をし、キャンセル料を徴収するようにしたところ、キャンセルが減少。実際に効果が確認できたことから、PGMの運営するコース全体でキャンセルポリシーを作り、実行していくことにした。

 「何十年もキャンセル料を取っていなかったので、スキームをまとめるのに時間がかかった」という。地域性などもあって、キャンセルポリシーは4パターン作ってゴルフ場側で選択した。

 ちなみに、地方の中堅ゴルフ場では、2組以下の場合、プレー日当日を含む7日前から土日祝日は1組当たり8000円、3組以上はプレー日当日を含む7日前から平日1組当たり4000円、14日前から土日祝日1組当たり8000円などとなっている。無連絡の場合は予約時料金の100%がキャンセル料となる。

 キャンセル料の請求は、ホテルなどにも導入が進んでいる他社のシステムを利用しているという。「シンプルに、名前と携帯番号のみ入力すればいい」と利用者側の手間は省きながらも、確認のショートメールでキャンセルポリシーも改めて提示している。

 「ゴルフ場のクローズ以外は原則請求する」というキャンセル料は、プレーヤーにとっては少しプレッシャーになっているようだ。徴収を開始した10月の土日8日間を前年と比較してみると、1コース当たりビジターが平均40人増えたそうで「キャンセルを踏みとどまったのかと思われます」という。

■キャンセル料請求は当たり前になるか

 PGMの取り組みは、ゴルフ場業界にも影響を与え「各地のゴルフ場から『説明を聞きたい』という問い合わせが来ています」と、これまで手を付けられずにいたキャンセル料徴収に踏み出すきっかけになっている。県単位のゴルフ場支配人会では検討を始めている県もでてきており、ゴルフ場個別ではなく、まとまってキャンセル料請求の運用に舵を切っていく考えのようだ。

 予約をキャンセルするのは、理由によっては仕方のないところもある。ただ、予約は相手との約束事なので、原則は守るべきもの。特にドタキャンで枠が空いてしまえば、プレーをしたい人の機会を奪うことにもなる。

 「キャンセル料を取られるならもうゴルフはしない」という人は多分いないだろうと思う。確かに、これまでのような「気軽に予約」はできなくなるかもしれない。だが、後ろめたい気持ちでキャンセルするより、キャンセル料を請求されたほうが「すっきりする」という人もいるのではないだろうか。

 2024年12月19日にPGMの親会社の株式会社平和が、国内最大の173コースを運営する「アコーディア・ゴルフ」の親会社を買収し、子会社化することについて説明会を行った。今後はアコーディア・ゴルフの運営コースにもPGM同様のキャンセルポリシーを適用していくことになるかもしれない。

 今後、こうした動きが多くのゴルフ場に広がっていく可能性は高い。ただ、これが一般的に見れば「普通のこと」なのではないだろうか。

参照元:Yahoo!ニュース