朝市のおかあさんも英語で 大都市パワーに頼らず45万人を呼び込む「飛騨高山」 外国人が「また来たい!」と痛感する納得の理由
コロナ禍で一時落ち込んだ訪日外国人数ですが、円安の影響もあって現在は順調に回復。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2024年の11月までの累計は3,337万9,900人と過去最多を記録し、目標とする2030年の訪日外国人数6,000万人に向けて増え続けている。
一方で、東京や京都、大阪など大都市圏への集中や、オーバーツーリズムの問題も指摘されており、今後は地方へのさらなる送客による訪日外国人の分散が不可欠とみられている。
実際京都では、急増する訪日外国人への対応が困難となり、老舗のお店が惜しまれつつも廃業を選択せざるを得ないといった事例も見受けられる。
急増する訪日外国人への対応に必要なのは、「来てもらい、満足してもらい、再訪してもらう」街づくり。
雄大な自然や古い町並、伝統ある文化、温泉、グルメなど、魅力あふれる観光地の高山市。
実は日本一広い市でもあり、その92%は森林で占められている。
地理的には長野、富山、石川、福井の4県に囲まれた岐阜県北部に位置しており、東京や大阪から高速バスで約6時間と大都市からのアクセスはよくないにも関わらず、訪れる観光客は年々増加。
年間の外国人観光客数は、コロナ禍で一時3,000人を割るなど落ち込んだものの、現在は45万人を超えるなどV字回復を果たしている。
好調の理由はさまざまですが、ひとつには先ほど挙げたような自然や温泉、江戸時代からの面影を残す古い町並、飛騨牛や高山ラーメンといったグルメなど多彩な魅力を備えていること。
また、高山市は「ありのままの暮らしに触れること」を観光の重要な柱として捉えている。
他地方の観光業の成功例をみてみると、山口県山口市はニューヨークタイムズ紙「2024年に行くべき52ヵ所」の1位に。
2023年のリストでは、岩手県盛岡市が2位にランクインしています。
数々の著名な観光地を差し置いてマイナーともいえるこの2市が選ばれたのは、なぜなのだろうか。
この選出は、従来の観光名所巡りではなく、より深く日本文化や生活に触れたいという、リピーターを中心とした訪日外国人のニーズを反映していると考えられる。
高山市と同様に、これらの都市には、旅行者に真の日本体験を提供するという共通の理念がみてとれる。
さらに、高山市では昭和61年の「国際観光都市」宣言以降、早くからインバウンドに精力的に取り組んできた歴史もあり、それが実を結んでいるとも考えられそうだ。
昭和35年の米国デンバー市との姉妹都市提携をはじめ、中国麗江市・昆明市、ルーマニアシビウ市、マチュピチュ遺跡で有名なペルー共和国ウルバンバ郡と友好都市提携するなど、国際交流に古くから注力。
台湾旅行博への出展など海外プロモーションも積極的に行っており、こうしたさまざまな要素が相まって現在、多くの観光客を呼び込めているようだ。
ただ、そんな高山市も「観光に対する住民意識の乖離」に強い危機感を覚えている。
高山市・市長公室東京事務所の永田友和所長によると、「市内において住民生活に大きく影響するようなオーバーツーリズムの問題は起きていないと考えていますが、そうならないような未然防止対策は必要でしょう。『住んでよし、訪れてよし』の持続可能な地域の実現を目指しており、そのためには、住民の方からの理解が大切です」といいます。
高山市では、観光庁の「持続可能な推進モデル事業」のモデル地区に指定されている。
その事業を活用して、令和5年度に実施した市民アンケートでは、外国人観光客の急回復に伴うマナー問題や、交通渋滞などの課題が明らかになったとしている。
「外国人観光客それぞれが持つ文化・風習の違いも要因の一つと考えられますが、ごみの捨て方や信号無視、自転車の乗り方が危険であるなどの声も寄せられています」
そこで同市では、滞在中のマナー、ルール遵守を観光客に周知するための方策として、高山旅行で求められる旅行スタイル「TAKAYAMA STYLE(仮称)」の提唱を計画。
「TAKAYAMA STYLE(仮称)」は、高山の美しい町並や自然が地域の住民によってしっかりと守り伝えられたことを理解いただき、観光客も一緒になって守っていただく、楽しんでいただきたいという思いを伝え、それによりマナーやルールに関する理解も深まることを期待しているとのこと。
永田氏は「高山は広いので、混雑を緩和し、観光客の回遊性を高めるためにも、中心部だけでなく、ぜひ観光客の方に訪れてもらいたい、素晴らしい観光スポットがたくさんあることをしっかり情報発信していきたいと思っています」といい、情報発信力を強化して観光客を分散させる構想を明かす。
「特定エリアへの観光客の集中」という日本全体でみられる現象は、高山市内でも起きているようだ。
この問題は、地域の観光スポットや二次交通情報(周遊バスの利用促進等)の発信を強化することでの解消を見込んでいる。
訪日客の増加に伴うオーバーツーリズムの問題は、いまや国内全体の課題。
地元住民と観光事業者とのあいだでインバウンドに対する意識の乖離が出る懸念について、永田氏は「やはり『観光が住民生活にも寄与している』と思ってもらうことが大事。観光は、裾野が広い分野ですので、観光業だけが潤うわけではなく、そこからさまざまな形に派生することが、市民生活にいい影響を与えるのだと思ってもらえるように丁寧に説明していく必要があります」と話す。
ただ、もともと高山市は山の中にあるという地理的な特徴から、住民に「観光客をもてなそう」というマインドが根付いているようだ。
「来にくい場所なので『しっかり歓迎したい』という思いは、昔からずっとあると思います」と永田氏。
さらに、前述の昔から国際交流を進めてきたという背景も、外国人観光客を迎え入れるうえでプラスに働いているという。
「高山がほかの地域よりも恵まれていると思うのは、長い間、国際交流などに取り組んできたこと。訪日観光客の方とは言語も商習慣も生活も違いますが、住民はそこに対して相手の気持ちを考えて理解する気持ちがある。それはこれまでに積み上げてきたもので、高山の強みのひとつでもあるのかなと。また、市民にはなんとなく『海外の都市と姉妹都市になっている』という意識があるのでは。『世界各地とつながっている』という意識を持つことは大事だと思います」
そんな高山市の国際交流に取り組む姿勢は、30年以上続いている「英語スピーチコンテスト」にもみることができる。
飛騨高山国際協会が主催する中学生、高校生を中心に市民から希望者を募って行う年に1度のコンテスト。
学生上位者を海外都市へ派遣する取り組みで、今年は米国デンバー市へ派遣し、学生らは現地の高校生との交流やホームステイを体験した。
「これまでに多くの子どもたちを海外に派遣し、異文化に触れてもらいました。『ここで英語に目覚めた』という学生もいます。また、小学生が登校途中に外国人観光客に普通に朝の挨拶を行ったり、学校の授業で外国人のインタビューを行ったりする機会をつくれることは、とても恵まれていますよね」
学生たちが英語を身近に感じやすい環境を作り上げてきたことは、国際交流の意識を醸成する重要な取り組みのひとつといえそうだ。
こうした英語に対する取り組みや観光客を歓迎したいマインドは、居酒屋や有名な朝市でも見ることができる。
「多くの観光客が訪れる時期は居酒屋も満席で、ひっきりなしにお客さんが来ます。そんなとき、外国人観光客の方が来られると、店のご主人は英語で『ごめんなさい、席がいっぱいだから入れません』と説明するんです。また、朝市でも売り手のおかあさんが英語で『全部でいくらですよ』と説明していますね。高山では、そんなふうにお店の人たちが外国人観光客の方とコミュニケーションを取って商売しているんです」
さらに、高山市が外国人観光客が滞在しやすい環境をつくるために取り組んでいる「ワンストップ受診相談窓口(高山QQ(救急)フォン)」も注目したい施策。
これは高山市を訪れる外国人観光客がけがや病気などをした際に観光施設、宿泊施設などから24時間、受診に関する問い合わせができる相談窓口として設置したもの。
「相談窓口は、観光関連施設と医療機関のあいだに立って外国人の受入が可能な医療機関や薬局を紹介したり、診療にかかる費用など医療制度の質問について説明を行ったりするなどしています。外国人患者にひっ迫する市内医療機関からの声を聞いて設けた相談窓口で、病院側の負担を軽減する効果があると考えています」
外国人観光客にとって心強い仕組みであるとともに、医療機関の負担軽減にも役立つ取り組みとなっているようだ。
豊富な観光資源と高い国際度を武器に、魅力ある観光地づくりを進める高山市。
「TAKAYAMA STYLE(仮称)」をはじめ、予定しているさまざまなインバウンドへの取り組みは来年以降に実を結ぶことが期待されており、その成果によっては、オーバーツーリズム問題に悩むほかの観光地にとって、高山市がひとつのモデルとなるかもしれない。
高山市の事例が国内のインバウンドにおける問題を解消する手掛かりとなるか、注目を集めそうだ。
参照元:Yahoo!ニュース