高い酒が売れない、欧米酒造メーカーのほろ苦い年末商戦
例年の12月と同じく、ミーガン・ドーマン氏がニューヨークで切り盛りする5軒のバーは満員御礼のように見える。
デート中のカップル、年末年始のパーティ、社用の会食客もいる。
だが売上高を見れば、財布の紐が固くなっているのは明らかだ。
「レインズ・ロー・ルーム」や「ディア・アービング」を経営するドーマン氏によれば、26─40ドル(約4080─6280円)の高額な特製カクテルの注文は減少し、客はすぐにワインなどの低価格メニューに切り替えるという。
ドーマン氏は「毎晩繁盛しているし、これからも満席が続くだろう」と言いつつ、売上高はここ数年に比べて落ちている、と続ける。
米国の大手酒類流通3社によると、インフレ率の高止まりなどの厳しい経済状況の中で、これまでホリデーシーズンに多くの支出をしていた中所得層が、酒類への支出を抑える傾向があるという。
ディアジオやペルノ・リカールなどの大手酒造会社にとっては悩みの種だ。
10月から12月は年間売上を押し上げる重要な時期で、ペルノは昨年、売上の30%をこの期間に達成した。
ディアジオ、ペルノ両社は、目下の販売状況についてはコメントを控えた。
ディアジオやペルノから酒類を仕入れる、サザン・グレーザー・ワイン&スピリッツ、RNDC、ブレークスルー・ビバレッジ・グループの3社よれば、消費者の間では、購入量を減らすだけでなく、安価なブランドや店舗に切り替えたり、外食の機会を減らす動きもみられる。
全米ワイン・スピリッツ卸売協会(WSWA)はロイターの取材に対し、スピリッツの卸売売上が年間で5.65%減少すると予測しており、前年の傾向から判断すると、ホリデーシーズンにおける売上の大幅な減少が懸念されている。
WSWAのフランシス・クレイトン最高経営責任者(CEO)は、「至るところでブレーキがかかっている」と語る。
「消費者は家賃や自動車関連の費用を払わなければならない。残されたわずかな可処分所得を何に使ってもらうか、競争は以前よりもずっと激しくなった」
WSWAのデータによれば、バーやナイトクラブではスピリッツの種類を問わず、高価なボトルから低価格帯へのシフトが進む。
消費者に高額な酒を購入させることを戦略の柱とする大手メーカーにとっては頭の痛い問題だ。
コロナ禍明けにブームがあったものの、その後アメリカでの酒類売上は急減しており、メーカー各社は対応に苦慮している。
ホリデー商戦が不調であれば、その苦境はさらに深刻化する。
場の傾向は一様ではない。
英国では、大手パブチェーンのマーストンズが、クリスマス当日の予約件数が前年比で11
%増加したと報告。消費支出の回復が見られる。
一方、西側諸国の大手酒造メーカーの多くにとって最大の市場である米国では、酒流通大手サザン・グレーザーズが「これまでより警戒を要する、困難な」ホリデーシーズンを迎えるとの予測を出した。
ただ流通大手3社は大幅な売上減少はないとみている。
利幅は薄いものの、家庭内消費向けの酒類販売額は昨年比で増加している。
サザン・グレーザーズのザック・ペルマ上級副社長は、高所得層の消費意欲が堅調な一方で、リーズナブルな価格帯の飲食店にとって「お買い得品」を好む消費者の志向が追い風になっていると述べる。
例えば、カジュアルレストランチェーン「チリズ・アップルビーズ」では、5─7ドルのホリデーカクテルを提供しており、最高額は13ドルに設定している。
これは、28ドルのカクテル「ウィービング・ウィーバー」とは比較にならない。
ニューヨークの「ディア・アービング」グラマシー・パーク店で提供されるオールド・ファッションド・カクテルで、アルテサナル・テキーラ、ジラ・リキュール風味のアガペーシロップ、アンゴスチュラ・ビターズを使う。
ドーマン氏によれば、最近はこの種のクラフト・カクテルを「自分へのごほうび」として1杯だけ飲む傾向があるが、かつてはもっと多く飲んでいたかもしれないという。
RNDCのエミリー・スー上級副社長は、飲酒量を減らしたり、THC入り飲料など酒に代わる飲料を試したりする動きもあると指摘する。
THCは大麻に含まれる精神活性化合物だ。
スピリッツ産業に投資するガベリ・ファンズのジョセフ・ガベリ氏は、愛飲家を高級な銘柄に誘引しようとする酒造メーカーの従来の働きかけが、これまで通り販売増につながるかは未知数だと語る。
参照元:REUTERS(ロイター)