餅による高齢者の窒息死には認知機能の低下も関係?雑煮はより注意!事故を防ぐ食べ方のコツと普段からできる予防法

お雑煮を食べている人

お雑煮を食べ、おめでたい気持ちで新年を迎える正月。

しかし、高齢者が喉に餅を詰まらせ窒息死してしまうというニュースを耳にすることも多くなる時期でもある。

自分の親は大丈夫かと心配になることもあるだろう。

悲しい事故を防ぐために、すぐに取り入れられる対策について、新潟大学大学院摂食嚥下リハビリテーション学分野教授の井上誠さんに教えてもらった。

高齢者の餅による窒息死を防ぐには、食べ方で対策を講じるほかにも、普段の生活でおしゃべりをしたりうたったりして、よく声を出すことが大切だという。

井上さんによれば、餅で窒息が起こる原因には、餅と高齢者の身体の特性の2つの側面があるとのこと。

まずは餅の特性と、食べる時にできる対策から。

餅の3つの特性を抑えておこう。

(1)噛んでもバラバラになりにくい
餅は噛んでも薄く伸びるだけで、バラバラになりにくい。したがって、口に入れたままの大きさで飲み込むことになる。

(2)温度が下がるほど硬く、喉にくっつきやすくなる
井上さんらが行った、餅の硬さ、まとまりやすさ、くっつきやすさを調べた実験によれば、餅の温度が60℃から30℃に下がると、硬さは約4倍になり、付着性は約2倍になるそうだ。つまり冷えるほど詰まるリスクも高くなる。また、加熱した餅を口の中に入れると、餅は体温と同じ36℃程度に一瞬で下がるため、硬さも付着性も上がることを覚えておきたい。

(3)雑煮の餅は喉に残りやすい
窒息により注意が必要なのは、「焼いた餅」よりも雑煮などに入っている「煮た餅」だと井上さんは言う。雑煮は汁物と固形物が合わさっている食品(二相性食品)という特徴をもつ。飲み込む際は食べ物が一気に喉を通るわけではなく、最初に汁が入って後で次々に具材が通る。餅以外にもさまざまな具材が入っているため、食材によって喉を通るタイミングや必要な筋の力も違い、飲み込むことが難しくなる。

「雑煮の中に喉の流れがいい具材があれば、先にそれを飲み込んでしまいます。そうなると飲み込みのタイミングを失った餅が喉に残ってしまいがちです。後からゆっくりと喉に落ちてきた餅が喉に詰まってしまうケースがあるので、汁物が混ざった食事は特に注意する必要があります」

したがって、対策としては次の方法が有効となる。

餅を食べる際に気をつけたいこと

・できるだけ温かい状態で食べる
・よく噛んで軟らかくして食べる(よく噛むことで唾液も分泌される)
・飲み込みやすいように細かく切り分ける、薄くスライスする

ただし、井上さんはこうも話す。

「こうした対策をやりすぎても餅の醍醐味がなくなってしまいます。餅を楽しく食べるためにも、食べる側、すなわち私たち自身にも注意を向けてほしいと思います」

では、どのような人が餅を喉に詰まらせやすいのか。

人間側の問題と対策も見ていこう。

年を取ると筋力が落ち、飲み込む力も次第に低下するため窒息のリスクが高まるといわれている。

しかし、井上さんによれば、餅による窒息には様々な要因が関係する。

なかでも大きな問題は「認知機能の低下」や「口内環境」だという。

「実は認知機能の低下が誤嚥や窒息と関係します。認知機能が正常なら、食材によって『一口の分量はこれくらい』『しっかり噛んでから飲み込む』などの判断ができますが、低下するとそれができなくなります。

しかし、飲み込む動作そのものは身体が反射的にやってしまうので、喉に詰まる危険が高くなる。

特に認知症の高齢者や早食いの癖のある高齢者は要注意です」

口内環境の問題については「薬」の影響が無視できないという。

唾液は、食べ物を軟らかくする、消化する、口の中の潤滑性を上げるなど、噛むことや飲み込むことになくてはならない役割を果たすが、高齢者は若い人に比べて唾液の分泌量が少なく、口の中が乾燥しやすい。

「さらに、血圧の薬など、高齢者が飲んでいる多くの薬の中には口腔乾燥をもたらす成分が入っているため、唾液の分泌量が少なくなってしまいます」

このような問題への対策について、井上さんはこう話す。

「『舌』は飲み込む時に重要な器官で、筋肉の塊です。常に使っている人はあまり心配がありません。意識的に舌を鍛えるトレーニングをしてもよいですが、おしゃべりをしたり歌をうたったりするだけでも予防につながる。頭の働きにも関係することで、認知機能の低下を防ぐことにもなります」

無理に人としゃべる時間を設ける必要はないが、舌と口に意識を向ける機会を増やしてほしいという。

その意味では、毎日の歯みがき・うがいなどの口腔ケアも大切だという。

口の中をきれいにすると、食べ物の味が分かりやすくなり、唾液の分泌量も増えるそうだ。

「衛生状態を含め、口に興味を持ってもつことで、『食べにくい』や『しゃべりにくい』といった機能の変化に敏感になることも大切」と井上さん。

毎日の食事で、硬いものや乾燥したものなどの特定の食べ物が食べにくい、時々むせる、何となくしゃべりにくくなった、食べる時間が遅くなったと感じる場合、呼吸器疾患や口腔がん、脳梗塞など、重大な病気の疑いもあるという。

その場合はただちに病院へ行き診察を受けてほしい。

高齢者の窒息の原因は、身体機能や認知機能など複雑な要因が混ざり合って起こることがわかった。

今一度、自身や親の健康状態や日常生活について話し合ってみるのもいいだろう。

参照元:Yahoo!ニュース