スキマバイト募集に「美容師求人」なぜ多い?「若手が居着かない」と深刻な人手不足に苦しむ現場の悲鳴 一方で「信用第一なのに“日雇い”でいいのか」の懸念も

スキマバイトに応募している人

自分の空いた時間を効率的にお金につなげる「スキマバイト」だが、その求人で目立つのが“美容師”だ。

スキマバイト募集アプリにも求人が多く掲載されていて、美容師免許を持っている人向けに、「ブランクOK」「スキマ時間OK」、さらには「経験3年以上」など、短時間でも即戦力となる人材の求人は少なくない。

この背景には、美容院業界で「若手が定着しない」「離職率が高い」など、深刻な人材不足も指摘される。

実際、「ホットペッパービューティーアカデミー」が今年4月に実施した「美容サロン就業実態調査」によると、美容師の初職就業期間は1年未満が10%、1年~3年未満が26.7%と、3年以内の離職率が約4割にのぼることが明らかになっている。

美容院業界に「猫の手も借りたい」ほどの切実な事情があることが透けてみえるが、その人手不足はどれほど深刻なものなのか。

また、スキマバイトを活用して求人することをどう考えているのか。

現役美容師たちの声から探った。

下積みを嫌がる一方で現場に出すと「すぐ独立」 都心の繁華街で美容室を営んで10年になるAさん(40代・男性)は、以前から自サイトや大手求人サイトでは募集をかけている。

スキマバイト募集アプリで美容師の求人が多いことにも「そうでしょうね」と理解を示す。

「ここ数年若手の退職が続き、長い間人材募集をかけているのですが、なかなか応募はありません。たとえば2時間だけでも掃除や洗髪専門のスタッフがいてくれれば、私がお客様と向き合う時間に余裕がもてるのに……と歯がゆい思いをすることがあります」(Aさん)

Aさん自身は30代半ばで独立し、店舗では若手の育成も行ってきた。

しかし、「いまの若手は、給料を上げても長く居着かない」と苦労しているようだ。

「給料面以上に、直接的なやりがいや、自分の自由がきく労働環境を求める人が多くなっている印象です。まず、下積みが嫌がられます。美容師といえば数年のアシスタント修行を経て一人前になるという慣習がかつてはあり、僕の時代もそうでしたが、今はすぐに現場に出さないと辞めていきます。だから、スキルが上がっていないうちでもドンドン現場に出して、やりながら覚えさせるという感じにならざるを得ない。ただそうなると次は、早い段階で『独立する』といって辞めていくケースも多くなりました。そういうことが続くと、もう若手を育てる気力もなくなっていきます」(Aさん)

大手信用調査会社「東京商工リサーチ」の調査では、2024年1~11月の美容室の倒産は107件に上り、2000年以降で年間最多となった。

そのひとつに挙げられているのが「人件費の高騰」だ。

人気スタイリストの引き留めや、新人が早期退職しないよう給料を上げることで、人件費が逼迫するケースが多いという。

「“育てても辞めるかもしれない若手”より“すでに経験値のあるベテラン”を募集する気持ちはわかります」というAさんの店舗では、「人手不足のまま無理やり営業を続けるのもイヤ」という考えから、2年前から定休日を増やして営業している。

神奈川県内の美容室で店長を務めるBさん(20代・男性)は、スタイリスト歴5年。

人手不足ではあるが、「スキマバイトは怖い」と慎重な見方だ。

「美容室はお客様の信用が第一です。『シャンプーだけ』とはいっても、お客様の髪に触れますし、店内にはたくさんの刃物もあるので、どこの誰かもわからないスタッフをその日だけ雇うわけにいきません。スキマバイトの募集内容を見ると、たしかに単純な仕事が多い印象ですが、とはいえリスクは避けられないと思います」(Bさん)

Bさんの店舗では現在、女性スタッフ2名が産休・育休に入っており、「追加の人材はいつでも欲しい状況」だと明かす。

それでも“スキマバイト採用”に乗り気でない理由に「そもそも、本当にスキルがある人や成長意欲がある人が応募してくるのか疑問」だと語る。

「美容師を一度辞めた人が『お小遣い稼ぎをしたい』とか、『ゆるく稼ぎたい』とかであればあり得るかもしれませんが、本気でやる気のある美容師は興味を持たないと思います。基本的に美容師は、お客様の喜ぶ姿を見て成長する仕事。コミュニケーションが不要な激安カット店ならともかく、日常的に“その日限り”のスタッフがいるのは、サロン側のブランディングを毀損するような気がします」(Bさん)

スキマバイトのサービスが業界の内情に上手くフィットすれば、人手不足や人件費などの問題解消の一助になるかもしれないが、そのリスクへの懸念から利用に踏みだせないジレンマを抱える美容室もあるようだ。

参照元∶Yahoo!ニュース