幻の「1銭陶貨」、額面の70万倍にも 50万枚発見後に取引価格が急上昇

フリマアプリをイメージした写真

太平洋戦争末期に製造されたものの未発行に終わり、流通しなかった陶器の貨幣「1銭陶貨」が、インターネット上の取引で高騰している。

終戦後に流出した一部が以前から売買されていたが、今年10月、京都市内で50万枚超が発見されたと造幣局が公表し、にわかに脚光を浴びた格好だ。

「未発行」「昭和20年」。

フリーマーケットアプリ・メルカリでは18日現在、そんな売り文句とともに、1銭陶貨が1枚4000円前後で取引されている。

保存状態が良好だと7000円の値を付けたケースもあった。

陶貨は「幻の貨幣」と呼ばれ、知る人ぞ知る骨董(こっとう)品。

基本は茶色だが、焼き上がり具合により濃淡にばらつきがある。

以前から古銭コレクターの間で取引されたり、各地の博物館で展示されたりしてきた。

メルカリの取引では、半年以上前だと、保存状態にかかわらず2000円前後。

価格が上昇したのは、造幣局の公表がニュースで広まった後だ。

新たに発見された50万枚は造幣局で保管され、出回ることはない。

古銭も取り扱う出張買い取りサービス「福ちゃん」の運営会社の担当者は「世に出なければ、骨董品として値崩れしない。注目度が高まり興味を持つ人が増え、値段が上がったのだろう」とみる。

大量の陶貨が見つかったのは京都市東山区の歯科器材メーカー「松風(しょうふう)」の敷地内の一角だった。

1944年頃、当時の大蔵省造幣局は、銅やアルミなどが軍需物資として不足したため、陶貨の研究を開始。

45年に委託先の京都市、愛知県瀬戸市、佐賀県有田町の民間3工場で約1500万枚が製造された。

松風は委託先の一つ、京都市の「松風工業」(1967年に解散)の関連会社だ。

結局、陶貨は終戦で発行されず、国は廃棄を決定。

粉砕処分されたはずだが、詳細な記録は残っておらず、戦後の混乱で一部が流出し、ネット上で取引されている。

松風工業の敷地を引き継いだ松風社内では「どこかに大量に埋まっているんじゃないか」とのうわさがあったという。

昨年8月、社員が古い倉庫を整理していた際、木箱15箱を発見。

中から大量の1銭陶貨が見つかった。

岩崎滋文総務部長(58)は「『残っているかも』とは思っていたが、これほど大量だとは」と驚く。

松風から連絡を受けた造幣局は、保管場所などを検討した上で譲り受け、今年10月に公表。

それまでにも1銭陶貨約2000枚を所有していたが、その250倍もの量が一気に増えた。

松風には、感謝状とともに100枚を贈呈。

発見された50万枚を調べている。

陶貨には、造幣局も37枚しか所有しておらず、ネット上では数万円単位で取引される「10銭陶貨」も存在する。

その製造も松風工業に委託したとする記録が残っており、50万枚超の中に紛れている可能性もある。

造幣局は、発見された陶貨を局内の「造幣博物館」で展示しているほか、大学や博物館など研究機関から申し入れがあれば、貸し出しや提供を検討する。

担当者は「当時の製造技術などの解明がより進むのではないか」と期待する。

造幣局は来年2月16日まで、造幣博物館で特別展「造幣局と戦争I」を開催中。

松風で見つかった1銭陶貨の一部が展示されている。

参照元∶Yahoo!ニュース