端島(軍艦島)が消える?静かな崩壊が進む世界遺産 水面下の”致命的な脅威” 前例なき技術者たちの挑戦
長崎市の「端島(軍艦島)」は世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の構成資産としても知られている。
しかし、無人島のまま風雨にさらされ続ける中、建物の倒壊だけでなく、島自体が崩壊する危険性が指摘されている。
島を後世に残すため、技術者たちによる前例のない保全工事が水面下で進められている。
かつて炭鉱の島として栄えた端島。
岩礁の周りを埋め立てて造られた人工島で、ことしで閉山から50年が経った。
無人島となった今、日本の近代化の歴史、それを支えた人々の営みがあったことを静かに伝え続けている。
しかし、無人島のまま風雨にさらされ続ける端島は建物の倒壊が進んでおり、島の形は刻一刻と変わっている現状だ。
そして今、島自体の崩壊につながりかねないもう一つの危機が迫っている。
その場所は、人の目が届かない海の中ー。
島の土台となる「護岸」に、ところどころ穴があいている。
加藤産業・木寺修工事部長:「崩れ落ちる。吸い出されて波で洗掘されて、中の埋め立てたものがどんどんどんどん流されていって空洞化して、最後はパタンとなるおそれがある」
端島を15年以上研究している長崎大学の出水享工学博士も、護岸の劣化が端島の存続を危うくしている現状を指摘している。
長崎大学・出水享工学博士:「端島は『波』との戦いが一つの歴史にも刻まれています。風だけではなく、遠くで発生した『台風のうねり』も島を襲っています。災害・波によって護岸の破壊が繰り返されているので、あれだけ大きな頑丈な護岸でも島自体を壊す大きな影響要因の一つになっています」
島を襲う「波」は建物や桟橋だけでなく、海中の護岸をも浸食している。
この水面下の危機に立ち向かう工事が、2023年から始まっている。
長崎市から工事を委託されたのは建設会社「Factory」と「加藤産業」の共同企業体だ。
岩礁の上に立つ既存の護岸が「波」によって劣化していることから、まずは島の東西2か所に幅およそ20メートルのコンクリート壁を作って補強する。
工事はことし9月までに第1段階が完了。
しかし、それからわずか3か月の間にも、想定を上回る波の影響が端島を襲っていた。
Factory建設本部 井手健一土木部長代理:「ここは本土の方から見たらしけていないと思う時も、実際来たら結構なうねりがあることもある。上から見た感じでは『仮設材』として袋詰めの石などを海底に設置しているものが転がってしまっている」
「海中」かつ「波」の影響で、一筋縄ではいかない端島の護岸工事。
そこで鍵となるのが「巨大な消波ブロック」だ。
Factory建設本部 井手土木部長代理:「今回工事する現場の海の中に置いて、波を消すのが目的のブロックなんです。だいたい高さは4.5m、重さは60トンぐらいです」
この消波ブロックを、工事箇所より手前に設置することで、波の影響を最小限におさえるのが狙いだ。
Q全部でいくつ作るんですか?
Factory建設本部 井手土木部長代理:「一応予定でいまのところ64個です。目的物を作るために波を消してくれる重要な役割のものだと思っています」
「消波ブロック」を1つ作るのにかかる日数はおよそ4日。
護岸を守る工事だけでなく事前の準備から長い時間と労力を要する。
Factory 山本清和社長:「結構難易度が高い工事です。なかなか稀に見る天候の地域なので、今まで培ってきた海洋土木技術を駆使して、なんとか端島の風景を残したい」
上陸観光が賑わう一方、崩壊の危険と隣り合わせの状況が続く端島。
風、波、時間の中で崩落していく人工島の姿を、日本の急速な近代化の歴史を伝え、学ぶための遺産として後世にも残すことができるのか。
長崎大学・出水工学博士:「護岸がなくなってしまうと、島自体の存在がなくなってしまうんです。長崎県に与える観光へのダメージというのはかなり大きいのではないかなと思っています。軍艦島・端島は文化財としての価値もかなり大きいので、護岸を守ることは生きている我々が守る一つの使命だと思います」
Factory建設本部 井手土木部長代理:「大変なところです、工地自体は。でもこの有名になった端島に自分も貢献したい。島を守りたい」
護岸の全周は1150メートル。
今回の工事箇所は東西およそ20メートルの部分だ。
島の存在自体が危ぶまれる「待ったなし」の状態の中、工事は進められている。
繁栄の残り香といつ崩壊するとも知れない儚さが多くの人をひきつけている端島。
これからの島の行く末は、島にかける人々の技術と思いに託されている。
参照元:Yahoo!ニュース