友達が同僚に?広がる「リファラル採用」とは 転職理由は「口コミ」、新卒獲得も

リファラル採用をイメージした写真

社員が友人を会社に引き入れる「リファラル採用」が注目を集めている。

「referral(リファラル)」とは、紹介・推薦を意味する言葉で、いわゆる「コネ採用」が進化したものだが、優秀な人材を低コストで獲得できると好評だ。

近年はスキルを持った中途だけでなく、新卒獲得にも取り入れられているという。

なぜ、令和にいまさら「コネ採用」が支持を集めるのか気になり、転職者や導入企業に取材すると、人材獲得に苦心する企業の姿が見えてきた。

約3万6000人の社員を抱える富士通は2018年4月、中途人材を確保するため、リファラル採用を採用経路の一つとして導入した。

全部署の求人を対象にしており、累計採用者数は昨年度、400人に達した。

「信頼できる知人の紹介だから転職しようと思った」。

そう話す男性社員(37)も、今年10月にリファラル採用で同社に転職した1人。

前職を定年まで勤めるつもりだったが、仕事を通じて知り合った知人から富士通への転職を誘われた。

それまで中小企業に勤めていたという男性。

「大手で通用するのか」と初めは不安もあったが、「気心の知れた知人から会社の話を包み隠さず聞けたことが安心材料になった」。

実は、この男性を会社に紹介した男性社員(46)も、リファラル採用で入社している。

「自分自身が前職にはなかった魅力を感じて転職している。仕事の選択肢は他にもあることを知り合いにも知ってほしかった」。

これまでに2人を会社に紹介したといい、「知り合いが同じ会社にいた方がコミュニケーションしやすい」と笑った。

富士通では、リファラル採用に専用のスマホアプリを活用している。

社員はアプリを通じて、各部署からの求人情報を確認したり、友人を推薦したりできる。

社員からの紹介者を採用候補者とする点では、旧来のコネ採用と同じだが、リファラル採用では面接や適性検査の結果によって不採用になることもあり、紹介が必ず内定につながるとは限らない点が異なる。

このアプリを開発したのは、企業向けにリファラル採用の導入支援サービスを展開する「TalentX」(東京都新宿区)。

同社の鈴木貴史社長によると、企業がアプリを利用するメリットは、より手軽に社員が友人を紹介できるようになる点だという。

「企業が自社だけでやろうとすると、社員が求人を把握した上で、その条件を友人に伝えるなどの負担が大きい。実際、そのまま失敗してしまう企業もある」と話す。

サービス開始以来、採用実績は伸びている。

2015年度は導入企業全体で内定者数が年間1人だったが、23年度には5000人まで増加した。

鈴木社長は、リファラル採用が支持を集める一因に、転職者が抱く求人広告への不信感を指摘する。

「インターネットやSNSが普及し、普段から大量の情報に触れられるようになった転職者は、企業の求人をうのみにはしなくなった」といい、「求人の『アットホームな職場です』という言葉を疑う人は多い。それを誰が言っているのかも含め、よりリアルな情報を求めている」と分析する。

企業にとってリファラル採用の魅力は、転職活動をしていない「潜在層」にも口コミで求人が届くところにある。

富士通で採用業務を担う福谷郁子さんは「転職サイトに登録しているような『顕在層』のエンジニアは、引く手あまたで採用が難しくなっている。企業からの求人が届かない潜在層を採用するため、社員に口説いてもらっている」と話す。

既に転職市場にいるエンジニアは、求人倍率が高い。 

同社はターゲットを潜在層まで広げたことで、他社と競合せずに採用できるようになり、エンジニア不足を解決したという。

採用コストの安さも魅力だ。

富士通では候補者が採用されると、紹介者に謝礼を渡しているが、それでも人材紹介会社を通じた従来の方法と比較して、5年間で2.7億円のコスト削減につながった。

紹介された側にとっても、友人から仕事内容や給与といった転職後の待遇を気兼ねなく聞けるメリットがある。

待遇に納得した候補者が集まるため、リファラル採用で内定を辞退した人は、他の採用経路の人よりも30%少なかったという。

一般にリファラル採用では、友人のスキルや経験が推薦の判断材料になるため、中途人材を対象にした募集が多い。

ただ、人手不足で「売り手市場」が続く中、新卒の募集にも口コミを活用する企業がある。

高知銀行は21年から、既に内々定が決まった学生に就職活動中の知人を紹介するよう依頼している。

選考は、学生から紹介があるたびに実施しており、25年度の入行予定者54人のうち、4人がリファラル採用だった。

思わぬ成果もあった。

紹介を依頼した学生の内定辞退率が低下したという。

採用担当の西村喬典さんは「紹介を依頼するため、入行前に行員との懇談会やワークショップを開催した。それらが、学生の気持ちを銀行につなぎ留めたり、入行後の不安を取り除いたりすることなったのではないか」と分析する。

従来、「コネ採用」には身内をひいきしたり、社内で派閥をつくったりとネガティブなイメージがあった。

リファラル採用には、そうしたデメリットはないのだろうか。

企業の人材戦略に詳しいニッセイ基礎研究所の小原一隆主任研究員に話を聞いた。

―リファラル採用の課題は。

職場から人材の多様性が失われる場合もある。

社員の友人が採用候補者となるので、性別やキャリアが紹介者と似た人物が集まりやすくなる。

そうした職場では、出てくる発想も似たり寄ったりで、ビジネスのイノベーションは生まれづらい。

対策として、採用候補者の属性が偏らないよう、一人の従業員が紹介できる友人の数を制限したり、少数者を一定数採用するクオータ制のようなルールを設けたりすることが考えられる。

―今後、リファラル採用は増えていくのか。

増えていくとみている。

特定の職務に限定した「ジョブ型雇用」の増加とも相まって、即戦力になる人材の奪い合いが激しくなっている。

その上、労働人口の減少で人材の獲得はますます難しくなるため、採用経路の一つとして定着するのではないか。

―企業に求められることは。

そもそも日本の会社員は、勤め先への「エンゲージメント(愛着)」が他国より低いと言われており、こうした環境では従業員が会社のために一肌脱いで、わざわざ友人を紹介しようとは思う人は少ないだろう。

エンゲージメントが高い企業には「働きやすい環境」と「やりがいのある仕事」がある。

例えば、柔軟な働き方ができる体制を整備したり、スキルアップできる制度を設けたりして、他人に紹介できる就業環境にする必要がある。

参照元:Yahoo!ニュース