単なる「ブーム」ではない カプセルトイ専門店を爆増させた「コスパ」の正体
「カプセルトイ」が変貌を遂げている。
日本カプセルトイ協会によると、2023年度の市場規模は約1150億円で、前年度(約720億円)から59.7%アップした。
業界全体が急成長していて、現在は「第5次ブーム」ともいわれている。
このブームを支えているのが「カプセルトイ専門店」だ。
カプセルトイ専門店とはその名の通り、カプセルトイだけを集めた店のこと。
店によっては、買ったカプセルトイを撮影するためのブースが併設されていることもある。
こうした専門店は2020年頃から増えていて、「ガチャガチャの森」「gashacoco(ガシャココ)」「ガシャポンのデパート」「#C-pla(シープラ)」「カプセル楽局」など、多くのブランドが登場。
専門店の種類が増えれば当然、全体数も増加する。
日本カプセルトイ協会によると、2023年度には200店舗以上のカプセルトイ専門店がオープンしたという。
最近では「近所のショッピングモールの空きテナントが、いつの間にかカプセルトイショップになっていた」という経験がある人もいるだろう。
筆者は四国に在住しており、身近なところでは、イオンモール高松(高松市)の全テナント91店舗のうち、カプセルトイ専門店は3店舗にものぼる。
ふらっとモールを歩いていたら、カプセルトイ専門店に出くわすのだ。
2024年にハピネット(東京都台東区)が20~60代以上の560人を対象に行ったアンケートでは、全体の53.2%が「カプセルトイ専門店を利用したことがある」と回答している。
カプセルトイの購入場所として、専門店が主要な選択肢となっている。
爆増するカプセルトイ専門店は、なぜそこまで人気があるのか?
今後もこの勢いは続くのか?
考察していこう。
カプセルトイが日本にやってきたのは1965年。
1970年代ぐらいから一般に広まり始め、1980年代に「キン肉マン消しゴム」が世間を席捲(せっけん)する中で、第1次ブームが起こる。
1990年代には「ウルトラマン」や「ゴジラ」などのカプセルトイが流行し、第2次ブームも発生。
その背景には、同じ機械でも設定を変えれば価格を変えられる筐体(きょうたい)の進化もあったという。
こうした筐体の進化もあり、さまざまな場所への設置が可能となった2000年代に、カプセルトイが進出したのがスーパーだ。
全国的に設置が進み、これが第3次ブームを引き起こす。
ブームが一段落した頃、2011年の東日本大震災後にSNSが拡大する中で、カプセルトイの商品をSNSにアップすることが流行。
「コップのフチ子」シリーズをはじめとする、ちょっと変わったカプセルトイが市場を席巻する。
ただ、この段階ではまだカプセルトイは「店の端にあるもの」だった。
2015年にマイボイスコムが約1万人を対象に行ったアンケートでは、過去1年以内にカプセルトイを購入したことのある人のうち、42.4%が「スーパー」で購入したと回答。
スーパー以外では、ショッピングセンターや商店街、おもちゃ屋、家電量販店での購入が多く、基本的には何か別の目的で来た場所で「ついで買い」することが、カプセルトイの主な購入方法だった。
このように、ある意味では「スキマ産業」だったカプセルトイだが、その専門店がここまで人気を呼んでいるのは、それが「ついで買い」だけでなく、「目的を持って買うもの」に変化したことを表しているだろう。
そしてその変化の象徴が「カプセルトイ専門店」だといえる。
なぜカプセルトイの専門店は増えたのだろうか。
さまざまな指摘があるが、筆者はその理由として、あらゆる人にとってカプセルトイ専門店は「コスパがいい」ことにあると考えている。
事業者側と消費者側に分けて、分析していこう。
まずは事業者側の事情である。
カプセルトイ専門店が他のアミューズメント施設と違うのは、「筐体を置くだけでいい」ということだ。
つまり、電気代がかからないのである。
アミューズメント産業全体で電気代の値上がりが大きな課題になっている昨今、特にゲームセンターは苦境に立たされている。
帝国データバンクによると、2023年度のゲームセンターの倒産件数は過去5年間で最多となった。
そんな中、カプセルトイ専門店は「電気代がかからない」という強みを発揮できているといえる。
電気代がかからないということは、大規模な電気工事が必要ないことでもある。
筆者が「ガシャポンのデパート」を運営するバンダイナムコアミューズメントにインタビューした際、担当者はこのように述べていた。
『規模にもよりますが、最短3カ月で店舗を完成させます。ゲームセンターだと、電気工事などに時間がかかりますが、カプセルトイ専門店の場合、カプセルトイ自販機を用意できればそこまで時間はかからない』
事業者からすれば、電気代もかからず、かつすぐに始められるカプセルトイ専門店は、賃料の損失を少しでも減らしてくれる存在だ。そのため、カプセルトイ専門店への転換が積極的に行われているのだろう。
加えて、コロナ禍を経て、都市やショッピングモールに空き店舗が増えたのも、カプセルトイ専門店の追い風になったといえる。
実際、カプセルトイ専門店の#C-plaは、コロナ禍での緊急事態宣言明けに出店要請が相次ぎ、2024年の売り上げは、2019年の13倍になっている。
このように事業者側に利益があっても、消費者側にとってそれが魅力的に映らなければ、ここまでの広がりはなかったはずだ。
では、消費者にとってのカプセルトイのメリットは何だろうか。
それは、「コミュニケーションツールとしてのコスパのよさ」である。
『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)の中で、著者の小野尾勝彦氏は次のように述べている。
『ユニークな商品を見つけたときの驚き、見事コンプリートしたり、めったに出ないレアアイテムをゲットしたりしたときの喜びをインスタグラムなどに投稿する。(中略)ガチャガチャは手ごろな値段でコミュニケーションを仲介できるツールなのです。いわばガチャガチャはSNSという新しいメディアのネタとして最適だったのです。』
ここで指摘されていることは非常に重要だ。
近年、カプセルトイは公衆電話や道路標識のような「街で見かけるモノ」の他、大ヒットした「コップのフチ子」シリーズや「赤の他人の証明写真」のような「意表を突いた変なモノ」、また『鬼滅の刃』をはじめとした「人気アニメのグッズ」といったラインアップが多い。
実は、これらは全てコミュニケーションを誘発しやすい特徴がある。
街で見かけるモノだったら「あるある」となるし、「意表をついた変なモノ」だったら「なにそれ?」とツッコミが来る。
「人気アニメのグッズ」であれば、そのファンの中でコミュニケーションが生まれるのだ。
ひところ、「ファスト映画」なる言葉で表される、「映画を早送りで見る若者」の存在が話題になった。
彼らは仲間内でのコミュニケーションが滞りなく進むように、早送りで映画を見る。
映画の内容自体よりも、それを通じた「コミュニケーション」が優位になる中で、最もコスパよく映画を消費するわけだ。
こうしたコミュニケーション優位の時代に、カプセルトイはうまくハマっているのではないだろうか。
これに加えて、カプセルトイが優れているのは「適度な射幸性」、分かりやすくいえば「適度な確実性」にある。
近年のカプセルトイ人気を説明するときに「カプセルトイの魅力は、何が出てくるか分からないワクワク感にある」という説明がよく見られるが、筆者はそれは半分当たっていて、半分間違っていると考えている。
確かに、カプセルトイは何が出てくるのか分からない。
しかし、「ワクワク感」や「不確実性」でいえば、クレーンゲームやアーケードゲーム、シューティングゲームなどの方が高い。
なぜなら、カプセルトイにおいては、商品が出ることは確実に決まっているからだ。
しかも、プレイヤーは機械のハンドルを一度回すだけで、そこまでの「体験」があるかといえばそうではない。
しかし、シューティングゲームの場合は、プレイヤーの銃の操作によってゲームの全てが決まるし(一瞬でゲームを終わらせることもできる)、クレーンゲームもプレイヤーの操作によっては永遠に景品を取ることができない。
極めて不確実性が高いのだ。
また、「安価でワクワク感を手にできる」というのも、実態から見れば違うと思う。
というのも、アーケードゲームは多くの場合100円か200円で、クレーンゲームも同じくらいの料金でプレイできる。
一方、近年のカプセルトイは300円を超すものもザラだからだ。
前述のハピネットの調査では、カプセルトイ購入者の47.1%が一度で400~1000円未満を使っていると回答しており、それなりに高額な遊びだといえる。
それでもカプセルトイが選ばれるのは、「適度な確実性」つまり「適度な安心感」を人々が買っているからだろう。
カプセルトイとは、ある程度のワクワク感を担保しつつ、安全かつ確実にコミュニケーションを成立させてくれる商品として、需要が増加しているのではないだろうか。
カプセルトイはさまざまな面から見て、消費者にとっても「コスパがいい」のだ。
カプセルトイの存在は、それを導入する事業者にとっても、消費者にとっても「コスパがいい」。
だからこそ、増殖している。
ただし、すでに見てきたようにカプセルトイ専門店は爆増しており、これからは淘汰(とうた)される店も出てくるだろう。
興味深いのは、こうした専門店各社が他店と差別化を行うポイントは、「コミュニケーション」への工夫にあることだ。
例えば、「ガシャポンのデパート」や「#C-pla」では、SNSにアップできるように撮影スポットを設けているが、これらは専門店における定番の取り組みになっている。
カプセルトイの需要が消費者の「コミュニケーション」を求める機運にあるとすれば、差別化の取り組みは今後も広がっていくだろう。
ただ、この取り組みには問題がある。
店舗空間の工夫は必然的にコストがかかり、事業者側にとっての「低コストで出店できる」メリットを損なうのだ。
今後のカプセルトイ専門店では、「消費者」と「事業者」のメリットのせめぎ合いが起こり、そこに耐えられる事業者だけが生き残っていくことになるだろう。
参照元:Yahoo!ニュース