大量閉店の「4℃(ヨンドシー)」、「ジュエリーツツミ」と分かれた明暗。“手軽な値段”にこだわった実直さに軍配が

マーケティング戦略を検討している人

中小企業コンサルタントの不破聡です。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えします。

ジュエリー業界の明暗が分かれてきました。

ヨンドシーホールディングスのブランド事業(旧ジュエリー事業)は減収が続く一方、ツツミは3期連続の増収。今期も1割もの増収が視野に入ってきたのです。

明暗を分けた理由はどこにあるのでしょうか。

「4℃(ヨンドシー)」の店舗数は259→132、ヨンドシーホールディングスの2024年2月期ジュエリー事業は8.6%の減収でした。

2025年2月期上半期の同事業は8.9%の減収。

今期は通期で2.9%の減収を見込んでいます。

同社のジュエリー事業はコロナ前の2020年2月期の売上高が269億円でした。

2024年2月期は169億円。

コロナ禍を経て100億円もの売上が吹き飛びました。

ヨンドシーはコロナ禍でブライダル専門店などの縮小を戦略的に図り、収益性の向上に努めました。

2020年2月末の店舗数は259。

2024年8月末には132店舗まで減っています。

ただし、不採算店の閉鎖を進めても収益力は十分に回復していません。

2020年2月期の営業利益率は12.3%。2024年2月期が8.4%で、2025年上半期は5.3%でした。

ヨンドシーは西日本を中心に展開する日用衣料品販売の「パレット」が好調。

売上規模はジュエリーの1.7倍にまで成長しました。

足元の成長をけん引しています。

ツツミは2020年3月期の売上高が151億円でしたが、2024年3月期は199億円。

2025年3月期は226億円を計画しています。

2022年3月期から2024年3月期まで1割増収を重ねてきました。

今期は13.5%の増収を計画中。

上半期の売上高は24.9%もの増収で、計画への進捗率は50%を超えました。

ツツミはクリスマスシーズンを迎える下半期に業績が偏重する傾向があり、今期の計画を超過する可能性さえあると言えるでしょう。

営業利益率も高めています。

2020年3月期は5.1%でしたが、2024年3月期は8.4%。

3.3ポイント高まりました。

2025年3月期上半期は8.7%でした。

今期も好調を維持しているのです。

ツツミの成長を支えているのがネックレス・ブレスレット。

2024年3月期の販売額は前期比16.4%増の97億4200万円。

3期連続で成長率は15%を超えています。

2020年3月期の販売額は63億6700万円で、コロナ禍を経て売上を30億円以上積み増したことになります。

一方、指輪は2024年3月期の販売額が前期比0.3%増の60億8000万円。

2020年3月期は59億1200万円でした。

このカテゴリーは60億円付近での推移が続いています。

ネックレスはギフトの鉄板とも言えるもの。

マーケティング支援などを行う株式会社LeoSophiaのクリスマスプレゼントに関する調査によると、もらって嬉しかったプレゼントのトップはネックレスで全体の26.7%。

指輪は8.3%でした。

これは指などのサイズに関係なくプレゼントができるという手軽さが背景にあります。

ネックレスは女性自身が自分のご褒美などとしても購入されており、特に若い世代に人気のカテゴリー。

つまり、男女問わずに好まれるジュエリーなのです。

ツツミの最大の特徴は低価格であること。

同社は創業以来、宝石の買い付け、製造、販売までを一貫して行う垂直統合システムを導入しており、適正価格で提供することを強みとしてきました。

ヨンドシーホールディングスのアパレル事業の売上規模がまだ小さかった2019年2月期の同社の原価率は35.4%。

同時期のツツミは46.8%。

ヨンドシーは付加価値の高い商品、ツツミは手軽な値段の商品という特徴があります。

ツツミの実直とも言えるこの競争戦略こそ、今の時代の強みとなっているのでしょう。

実は国内のジュエリー価格は上昇しています。

日本銀行が発表している企業物価指数によると、2020年を基準値(100)とした場合の2024年のジュエリー価格の指数は162。

ジュエリー価格は2022年から急激に上昇しています。

金の価格はロシアのウクライナ侵攻によって高騰し、この年に過去最高を記録しました。

ジュエリー価格の指数は2020年より前の2018年、2019年はほとんど変わっていません。

インフレの影響も相まってここ数年で価格は急上昇したのです。

一方、消費者はジュエリーの支出を抑えている様子がわかります。

総務省の家計調査によると、ジュエリーを含む身の回り用品の支出額は、2023年が1万8448円。

2019年は2万592円でした。

コロナ禍で支出額は1万7000円台まで下がり、その後回復しています。

しかし、コロナ前の水準まで戻り切っていないのです。

食材や電気代など生活に必要なものへの負担が重くなり、節約志向が高まっているのでしょう。

だからこそ手軽な価格での販売戦略がうまくハマったのでしょう。

この3つの要素が噛み合っていると考えれば、ツツミが業績好調である現状には納得がいきます。

インフレ下における成功モデルの一つと言えるかもしれません。

参照元∶Yahoo!ニュース